2018年03月

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AI活用をお客様と共創する具体的な進め方「ブレーン・ストーミング」

AI は今や話題に事欠かないテーマとなっており、日々様々な意見や事例を目にするようになっています。

前回の特集(『AI に怯えず積極的な活用と人の武器を磨いてみよう!』)で、AI プロジェクトを進めていく上でのポイントとして、以下を挙げました。

●準備に時間をかけ過ぎず、始める
●小さく始めて、大きく育てる
●失敗から学ぶ
●最初から完全を目指さない(ある程度の完成度でトライ・アンド・エラーで改善する)
●ユーザーに共感し、利便性や生産性を上げ、本来の仕事に集中させる

では、実際に自社やお客様が「AI を活用したい」となった時にどのようなアプローチを取れば良いのでしょうか。

AI プロジェクトの成否の鍵は・・・

AI を業務に実装するには(もちろん、AI だけに特化することでもありませんが・・・)「構想フェーズ」から始まり、「検討フェーズ」を経て、「試作・評価フェーズ」を繰り返し、「実装フェーズ」、「運用フェーズ」と進めていきます。

まだまだ未知のことが多い AI を業務やビジネスに活かすには、新しいアイデア、これまで考えつかなかった発想の転換などが必要となります。この新しいアイデアや発想の転換をいかに生み出せるかが、AI のプロジェクトの成否を分けるキーになり、フローの冒頭にあたる「構想フェーズ」が重要になるのです。

今回は、この”構想フェーズ”にフォーカスをあて、アプローチの方法について迫っていきましょう。

「構想フェーズ」でのアイデア出し

プロジェクトにおいては、まず、課題と目的が設定されます。そして課題を解決するアイデア出しに進みますが、この”アイデア出し”が、 AI プロジェクトの要となる 「構想フェーズ」で実施されます。

では、AI プロジェクトを成功させるため、最も重要となる「構想フェーズ」において、新しいアイデアや発想の転換を生み出すためには、どうするのが良いのでしょう。

昨今、以前、第3弾に渡りご紹介したデザイン思考(「なぜクラウドとデザイン思考なの?」「何がデザイン思考導入を難しくするのか」「日本企業にはイノベーションの素養がある(前編/後編)」)がアプローチ法として使われることも多いのですが、デザイン思考を知らなければできないというわけではありません。今回は、より一般的で、誰もが一度は経験したことがあるであろう”ブレーン・ストーミング“について、確立されている細やかな手法などを改めてご紹介してみたいと思います。

ブレーン・ストーミング

以降は、共創という形で、アイデアを出す方法を考えてみます。

共創とは、複数人で創造(発想)することを言います。ブレーン・ストーミングなどの手法を使うのが一般的ですが、まず、この発想のための会議をどのように取り仕切るか、という検討が必要となります。参加者はどうすれば良いのか、場所は?時間は?など、共創の前には準備が必要です。

1. 人選をどうするか?

Amazon のジェフ・ベゾスが、最適なチームの規模について「ピザ2枚で足りる」ぐらいが良いと言っています。これは、5~8人前後の人数ということで、アイデア出しにはこれぐらいの人数が良いと思います。また、そこに参加する方は、フラットで雑多な(上下関係がなく、職種がバラエティに富んでる)方がより多くのアイデアが出ると言われています。お客様も含め、部門や職域などがあまり重ならないようにすることが重要です。

2. 場所をどうするか?

いつもの会議室などあまり場所にこだわらないことも多いと思います。しかし、意外に場所は大事です。広さは十分か、机は固定されていないか、ホワイトボードは足りているか、暗く閉鎖的ではないか…など気をつける必要があります。開催場所を変えてみる、会議が煮詰まったら参加者で散歩する、なども効果的です。

3. 時間は?

アイデア出しは、長くやったからと言って良いわけではありません。また、一人のときにアイデアが湧くこともたくさんあります。アイデア出しの時間は1時間程度、更にウォーミングアップ(アイスブレイク)の時間もしっかり取るとよいでしょう。

 

ブレーン・ストーミングの進め方

それでは、実際にブレーン・ストーミングはどのように実施すれば良いのでしょうか。
流れから言うとこのようなイメージになります。

アイスブレイク とは、初対面の人同士が出会う時、その緊張をときほぐすための手法です。

それでは、ブレーン・ストーミングのプロセスを詳しく見ていきましょう。

アイスブレイク

アイスブレイクの心構え

  1. 誰もが平等(フラット)な立場でいること
  2. バイアスを取り除くこと、
    アイデアを検閲しないこと、
    固定概念を取り払うこと
  3. 反応速度を上げること、
    創造性を刺激しておくこと
  4. 間違っても良い雰囲気を作ること、
    相手が喜ぶように受け取ること
  5. 否定しないこと、肯定だけしないこと、
    相手のアイデアに自分のアイデアを加えて返すこと

ブレーン・ストーミングを使って共創する場合、普段の脳を仕事モードから発想モードへ切り替える必要があります。また、会議に対し、いつも叱責されるとか、時間がダラダラと長いとか、一人の決まった人が発言しているなど、ネガティブ・イメージがある場合は特にアイスブレイクをしっかり実施し、どんな発言も許されるような安心な場と雰囲気を作る必要があります。

アイスブレイクのためのエクササイズ

1. 私あなた

コミュニケーションの基本であるアイコンタクト(相手を見る、相手に影響される)を学び、打ち解け合う

  1. 立ってグループで円になり向かい合います
  2. 開始する人を決めその人が、「わたし」と言いながら自分の胸に手を置き、
    次の人に「あなた」とパスをまわします
  3. パスを受け取った人は同じように「わたし」と言いながら自分の胸に手を置き、
    別の人に「あなた」とパスを回します
  4. 2,3 を繰り返します
  5. この際、相手の目を見てパスを回すことが重要です
2. 私あなた(名前バージョン)

コミュニケーションの基本であるアイコンタクト(相手を見る、相手に影響される)を学び、打ち解け合い、名前を覚える

  1. 円になり向かい合う
  2. 開始する人を決めその人が、「○○(自分のニックネーム)」と言いながら自分の胸に手を置き、次の人に「〇〇(相手のニックネーム)」とパスを回します
  3. パスを受け取った人が同じように「○○(自分のニックネーム)」と言いながら自分の胸に手を置き、次の人に「〇〇(相手のニックネーム)」とパスを回します
  4. 2,3 を繰り返します
  5. 名札があるとハードルが下がる、ニックネームでなくても良いが、肩書を意識させない呼び名が良い(社長、部長 ☓)
3. Two Dots(ツードッツ)

直感で表現する(すぐ描く)、また相手の表現に影響されて表現するトレーニング

  1. ホワイトボードの真ん中に「 ・ ・ 」のように2つの点を描きます
  2. ホワイトボードの前(1m ぐらい離れて)に参加者全員が立ちます
  3. 「 ・ ・ 」に各参加者が交互に一筆書きで線や図形を描きます
  4. この際特に絵のテーマや上手い下手にこだわる必要はありません
  5. 次々に一筆で描かれていく図形に影響を受け、即座に描き足すこと意識します
  6. 2~3回転ぐらい、もしくは絵の完成でエクササイズを終了します
4. スケッチ

架空の物や場面を想像し表現、参加者全員で一つの架空のシーンを共有するエクササイズ

  1. 題:「自動車の日常点検」とし、日常点検について想像し、どのような要素があるかを指し示しながら伝えます
  2. 例えば、最初の人が「ここにライトがあります」
  3. 次の人は、「ライトを点けてみます、ライトが点きました」
  4. 次の人は、「ここにブレーキがあります」
  5. 次の人は、「ブレーキを踏むとブレーキランプが点きます」
  6. 次の人は、「この辺で面倒くさくなって点検をやめてしまうユーザーがいます」…どんどん続けます

このようにお題に対して、そこにあるものを広げていったり、情報を詳しくしたり、その場所のイメージを共有します。お題は、ブレーン・ストーミングのテーマに関係のなく、想像しやすいものから始めても良いでしょう。また、難しい可能性もありますが、「自動車の日常点検」のような具体的なテーマに沿ったお題で実施することにより、よりユーザー目線でテーマを考えるきっかけになります。

しっかりとアイスブレイクを実施し、お互いが心を許せる居心地の良い場をつくり、心理的安全性を確保することで、ブレーン・ストーミングによる共創がより充実したものになります。

 

課題解決のアイデア出し ~ブレーン・ストーミングの実施~

さて、アイスブレイクも終了しましたので、次はアイデア出しをします。今回は最も基本的なブレーン・ストーミングのやり方で、Post Up(張り出し法)を使ってみたいと思います。

Post Up (ポスト・アップ)

最もシンプルなブレーン・ストーミングの方法

  1. 1人作業で3分間でできるだけ多くのアイデアを付箋紙に書き出します
  2. 時間を決め(例えば10分間)2人で相手とアイデアをホワイトボード/模造紙に貼りながら、アイデアを共有します
  3. 付箋紙を貼っている間に相手のアイデアから違うアイデアが出てきたら、すぐに付箋紙に書き出して貼ります
  4. 各ペアの発表者を決め、他のペアとどんなアイデアが出たかを発表しあいます

Post Up は複数回実施することもでき、1回目は、課題の洗い出しに、2回目はその解決方法を考えるといったことが可能です。

様々な職域の方でブレーン・ストーミングを実施する場合、課題の理解や持っている情報レベルが違う場合があります。情報共有の意味を含め、改めて、課題の洗い出しを実施します。

2回目では「1回目で出てきた課題を解決する方法」のアイデアを出します。ここで大事なことは、目的は完璧な答えを探すことではなく、どんなつまらない、突拍子もないイデアでも歓迎し、アイデアを出し尽くすことです。変なアイデアがあったとして、他の2つ以上のアイデアを掛け合わせる、引き算する、反対を考えるなど、一見使えないようなアイデアでも視点を変えることにより、使える場合があります。更に重要なことは、他の人のアイデアに影響を受けて、アイデアを重ね、一人で考えていては、思いつかないようなアイデアを出すことです。

優先順位を決める(ドット投票)

アイデア出しの優先順位決めには、「ドット投票」を使います。ドット投票は、加点方式の評価法です。

  1. 一人5票までと決め、参加者にシールを5枚ずつ渡します
  2. 発表され、張り出されたアイデア(付箋紙)から良いアイデアにシールを貼ります

また、少し投票や集計に時間がかかりますが、

のように意味を分けて、シールを貼る方法もあります。このようにシールを分け、意味づけすることにより、アイデアの優先順位やまとめるための情報を多く得ることができます。

発表・評価 ~ブレーン・ストーミングの収束方法~

ブレーン・ストーミングはあくまでもアイデアを出す場で、何かを決定したり、判断したりする場ではありませんので、一旦ここで終了します。

ブレーン・ストーミング終了後に担当者が画像や箇条書きでアイデアをまとめ、参加者全員で共有します。

ブレーン・ストーミングの結果を共有することで、参加者全員が当事者意識を持って、ブレーン・ストーミング以外の日常でもこの課題に対して発想を意識してもらいます。アイデアは共創で生まれることもありますが、シャワーを浴びているとき、散歩をしているときなどにふと湧いてくることも多いからです。

この後は、ドット投票の結果なども踏まえ、具体的な試作に落としていきます。具体的な試作へ落とす方法については、ここでは詳細に書きませんが、まずは、「小さく進めること」が重要です。

それには、アプリであればいきなり試作を作り始めるのもありですが、模造紙やダンボール、粘土、モールなど使って簡易的にデバイスやアプリの画面を作っても良いかも知れません。また、試作のリアリティを追求するために、お客様役、店員役などに分かれて寸劇(スキット)をやるのも良いでしょう。

試作で結果が出なければ、ブレーン・ストーミングを再度実施したり、結果に戻ったりしても良いでしょう。小さく始めていれば、後戻りもスムーズです。

新しい発想から生まれた AI 活用(例)

さて、ブレーン・ストーミングについて詳細にご紹介してきましたが、最後に実際の AI 活用のお客様事例を見てみましょう。

THINK Watson の記事によるとオートバックス社は、AI の画像認識能力を活用した「タイヤ摩耗診断」を2017年9月に公開しました。自動車の日々の点検は、安全には欠かせない作業ですが、様々な理由から十分に実施されている状況にはありません。オートバックス社では、スマホを使って簡単にメンテナスの必要性の有無を診断できれば、ユーザーの意識向上に一役買えるのではと、「かんたんタイヤ画像診断」を開発しました。これは、メンテナス不良による事故原因ともなっているタイヤの摩耗度合いをユーザーが撮った画像から診断するというものです。

この事例、「かんたんタイヤ画像診断」の開発の経緯は、以下のようなものでした。

——「かんたんタイヤ画像診断」開発の経緯を教えてください。

八塚 自動車点検整備推進協議会の調査からもわかるとおり、自動車ユーザーの日常点検に対する意識を高めていく必要があります。オートバックス各店舗ではかねてより「タイヤ安全点検」を実施していますが、点検のために店舗に行くということ自体がお客様にとってはハードルのひとつになっていると感じていました。

この状況を改善するために、当初はオートバックスのピットマンがユーザーから送られてくるタイヤの画像を診断するという案も検討しましたが、人手で対応するには限界があります。そこで、AI による画像認識でタイヤの摩耗状態を診断するサービスを発案しました。メンテナンスをなかなか行えないという方々の「面倒・お金がかかる・時間がない」というお悩みに「簡単・無料・すぐにできる」というかたちでお応えできると考えています。

出典:THINK Watson, 『オートバックスに聞く:新たな顧客価値を創造するAIビジネス戦略』

上記の事例では、課題と目的は、以下になります。

この課題と目的を元に、これまでご紹介してきた”ブレーン・ストーミング“のような手法を用い課題を解決するアイデア出しを行っていきます。
例えばこの事例であれば、先にご紹介の Post Up で、「課題とその理由」の洗い出しを行い「自動車ユーザーの日常点検に対する意識が低い」という課題、そしてその理由「点検は面倒・お金がかかる・時間がない」を掘り下げて考えます。
こうしたアイデア出しが行われた結果、新たな発想から、「簡単・無料・すぐできる」を実現し、”自動車ユーザーのユーザーの日常点検に対する意識を高める”目的を達成する新しいAI を活用したソリューション「かんたんタイヤ画像診断」が誕生したのです。

まとめ

AI プロジェクトの成否を握る「構想フェーズ」で、より有効なアイデア創出に役立つ”ブレーン・ストーミング“の進め方を改めてご紹介してみました。
繰り返しとなりますが、AI プロジェクトを進めていく上で大事なことは以下のようなことです。

●準備に時間をかけ過ぎず、始める
●小さく始めて、大きく育てる
●失敗から学ぶ
●最初から完全を目指さない(ある程度の完成度でトライ・アンド・エラーで改善する)
●ユーザーに共感し、利便性や生産性を上げ、本来の仕事に集中させる

チームで”アイデア出し”を行いそこで出たアイデアを元に試作し、評価します。

アイデア出しから試作までに必要なことは、子供のような遊び心、そしてどんなことでも言い合える、また寸劇をやっても恥ずかしくない、安心安全な場と関係づくりなのではないでしょうか。

皆さんが、AI プロジェクトに携わる際、この”ブレーン・ストーミング“を活用することで、今までになかった新しい発想を生み出し、AI プロジェクトを成功に導いていただければ幸いです。

 

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2025年08月04日

【てくさぽBLOG】IBM watsonx OrchestrateのADKを使ってみた

こんにちは。 てくさぽBLOGメンバーの高村です。 早速ですが、今年5月に開催されたIBMの年次イベント「Think2025」で、watsonx Orchestrateの新機能が発表されました!その中の一つとして、開発者向けの「Agent Development Kit(以下、ADK)」があります。今回はこのADKを活用し、watsonx Orchestrate環境への接続やエージェントの追加といった操作を行い、その使用感をご紹介します。  なお、watsonx Orchestrateについては、今年2月、3月に公開した「watsonx OrchestrateやってみたBLOG」でご紹介しておりますので、是非こちらもご一読ください。 【てくさぽBLOG】IBM watsonx Orchestrateを使ってみた(Part1) 【てくさぽBLOG】IBM watsonx Orchestrateを使ってみた(Part2) 目次 はじめに ADKとは? ADK使ってみた さいごに お問い合わせ はじめに Think2025で発表された新機能は、6月に環境へ追加されました。それ以前の環境とは、メニュー構成や操作方法、機能名称に変更があります。 例えばこれまで「Skill」と呼ばれていたものが「Tool」へと名称変更されています。 アップデート後の環境につきましては、別ブログにて改めて詳しくご紹介させていただく予定ですので、ぜひご期待ください! ADKとは? まずはADKについてご紹介します。ADKとは開発者向けにwatsonx OrchestrateのAgentやToolをスクラッチ開発するための開発キットになります。ローカル端末などに導入し、pythonベースで開発を行うことができます。 また、ADKとは別に、watsonx Orchestrate Developer Editionをローカル端末に導入することで、ADKで開発したAgentやToolのテストが可能になります。なお、watsonx Orchestrate Developer EditionはDockerコンテナ上で動作し、現時点のハードウェア要件はCPUは最小8コア、メモリは最小16GBが必要です。詳細はInstalling the watsonx Orchestrate Developer Editionをご確認ください。   ADKとwatsonx Orchestrate Developer Editionを利用することで、コードの迅速な作成・修正や柔軟なカスタマイズに加え、環境へのデプロイ前にローカルでテスト・修正が可能となり、作業効率の向上が期待できます。 ADK使ってみた 前述ではADKでAgent開発し、watsonx Orchestrate Developer Editionで動作確認、SaaS watsonx Orchestrateへインポートする構築の流れをお話しましたが、今回の検証における動作確認は検証環境として利用しているIBM Cloud 上のwatsonx Orchestrate利用します。よって前述したwatsonx Orchestrate Developer Editionは利用せず、ADKからwatsonx Orchestrate検証環境へAgentとToolを直接インポートし、動作確認を行いたいと思います。また、ADKのインストール先は自分の端末ではなく、IBM Cloud上に構築したUbuntuのVirtual Server Instance(以下、VSI)を使用します。検証環境の構成イメージは下記の図の通りです。 尚、ADKのインストール要件はPython 3.11以上、Pip、そして仮想環境(以下venv)が必要です。詳細については、Getting started with the ADKをご確認ください。 それでは早速使ってみましょう! VSIのプロビジョニング まずはADKをインストールするVSIをプロビジョニングします。本ブログではプロビジョニング方法について詳しく記載いたしませんが、手順は「【てくさぽBLOG】IBM Power Virtual ServerのAIX環境とIBM Cloud Object Storageを接続してみた(Part1)」のVSI for VPCの作成をご参考ください。 OSはUbuntu 22.04 LTS Jammy Jellyfish Minimal Install、リソースは2vCPU,4GB RAMで作成しました。VSI作成時にSSH鍵が必要なるので作成を忘れないようにしてください。 作成すると数分で起動します。端末からSSHログインするため浮動IPが必要になります。赤枠で囲った浮動IPを作成しインスタンスに紐づけします。以上でVSIの作成は完了です。 Ubuntuの設定 ターミナルを開きsshでUbuntuにログインします。私はWindowsのコマンドプロンプトを使用しました。Ubuntuユーザでログイン後、rootパスワードを設定し、スイッチできるようにします。 ubuntu@nicptestvsi:~$ sudo passwd root New password: Retype new password: passwd: password updated successfully ubuntu@nicptestvsi:~$ su - pythonのバージョンを確認したところ3.10.12でした。ADKの要件は3.11以上ですので、バージョンアップが必要になります。最初は3.13にバージョンアップしてみたのですが、後続作業と最新バージョンではパッケージが合わなかったのかうまく動かず…仕切り直して3.11を利用することにしました! root@nicptestvsi:~# apt install python3.11 バージョンアップ後、デフォルトバージョンとして3.11を指定します。 root@nicptestvsi:~# sudo update-alternatives --install /usr/bin/python3 python3 /usr/bin/python3.10 1 sudo update-alternatives --install /usr/bin/python3 python3 /usr/bin/python3.11 2 sudo update-alternatives --config python3 update-alternatives: using /usr/bin/python3.10 to provide /usr/bin/python3 (python3) in auto mode update-alternatives: using /usr/bin/python3.11 to provide /usr/bin/python3 (python3) in auto mode There are 2 choices for the alternative python3 (providing /usr/bin/python3).Selection Path Priority Status ------------------------------------------------------------ * 0 /usr/bin/python3.11 2 auto mode 1 /usr/bin/python3.10 1 manual mode 2 /usr/bin/python3.11 2 manual modePress <enter> to keep the current choice[*], or type selection number: 2 root@nicptestvsi:~# root@nicptestvsi:~# python3 --version Python 3.11.13 次に下記コマンドを実行して任意のvenvを作成します。 python3 -m venv /path/to/nicpse/project/your-venv-adktest <環境のパスを指定 venvを活性化してログインします。下記コマンド結果のようにvenvに入れましたらUbuntuの設定は完了です。 root@nicptestvsi:~# source /path/to/nicpse/project/your-venv-adktest/bin/activate (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~# ADKのインストール 以下コマンドを実行してADKをインストールします。ADKは6月時点で1.5.1が最新バージョンです。 (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~# pip install ibm-watsonx-orchestrate Collecting ibm-watsonx-orchestrate Downloading ibm_watsonx_orchestrate-1.5.1-py3-none-any.whl.metadata (1.4 kB) Collecting certifi>=2024.8.30 (from ibm-watsonx-orchestrate) Downloading certifi-2025.6.15-py3-none-any.whl.metadata (2.4 kB) Collecting click<8.2.0,>=8.0.0 (from ibm-watsonx-orchestrate) Downloading click-8.1.8-py3-none-any.whl.metadata (2.3 kB) Collecting docstring-parser<1.0,>=0.16 (from ibm-watsonx-orchestrate) Downloading docstring_parser-0.16-py3-none-any.whl.metadata (3.0 kB) Collecting httpx<1.0.0,>=0.28.1 (from ibm-watsonx-orchestrate) Downloading httpx-0.28.1-py3-none-any.whl.metadata (7.1 kB) ----中略---- (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~# orchestrate --version ADK Version: 1.5.1 ADKの環境設定 次にADKの環境設定を行います。watsonx OrchestrateのインスタンスIDが必要になるため、watsonx OrchestrateのSetting画面に入り確認します。下記画面をご参考にしてください。 環境設定コマンドはこちらになります。-nの後はvenv名を指定し、-uの後はインスタンスIDを指定します。 (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~# orchestrate env add -n <仮想環境名> -u <環境のインスタンスID> [INFO] - Environment 'my-name' has been created [INFO] - Existing environment with name 'nicpse' found. Would you like to update the environment 'nicpse'? (Y/n)y [INFO] - Environment 'nicpse' has been created 以下コマンドを実行して、IBM Cloud上のwatsonx Orchestrateと認証設定をします。APIキーの取得方法は「【てくさぽBLOG】IBM watsonx.aiを使ってみた(Part2)」のAPIキーの取得をご確認ください。尚、リモート環境に対する認証は2時間ごとに期限切れになります。期限が切れた場合は再度認証する必要があります。 (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~# orchestrate env activate nicpse --apikey <APIキー> [INFO] - Environment 'my-ibmcloud-saas-account' is now active [INFO] - Environment 'nicpse' is now active 下記コマンドを実行してCLIから利用できる環境のリストを表示します。IBM Cloud上のwatsonx Orchestrateがactiveとなっていました! (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~# orchestrate env list nicpse https://api.us-south.watson-orchestrate.cloud.ibm.com/instances/XXXXXXXX (active) local http://localhost:XXXX Toolとagentのインポート 次にToolとAgentのインポートを行います。ToolとはAgentがタスクを実行する際に利用する機能です。今回は、IBM様より共有いただいたyfinanceを活用したToolおよびAgentのコードを、ADKを用いてインポートします。なお、yfinanceはヤフーファイナンスから株価などの金融データを取得するためのPythonライブラリです。 最初にToolのインポートを行います。下記の様に、scpなどでToolファイルとrequirements.txtをディレクトリにアップロードしておきます。requirementsファイルは他のモジュールと依存関係がある場合使用します。 (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~/orchestrate_tool/py/source_02# ls -l total 12 -rw-r--r-- 1 root root 0 Jun 24 04:42 __init__.py drwxr-xr-x 2 root root 4096 Jun 24 04:38 __pycache__ -rw-rw-r-- 1 ubuntu ubuntu 8 Jun 24 03:02 requirements.txt -rw-rw-r-- 1 ubuntu ubuntu 1778 Jun 24 02:46 yfinance_agent.py 下記コマンドを実行してToolファイルとrequirementsファイルをインポートします。企業情報を取得するstock_infoと株価を取得するstock_quoteの2つのToolがインポートされました。 (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~/orchestrate_tool/py/source_02# orchestrate tools import -k python -f "./yfinance_agent.py" -r "./requirements.txt" [INFO] - Using requirement file: "./requirements.txt" [INFO] - Tool 'stock_info' imported successfully [INFO] - Tool 'stock_quote' imported successfully listコマンドを実行するとインポートされたToolを確認できます。 (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:# orchestrate tools list ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┳━━━━┳ ┃ Name ┃ Description ┃ Permission ┃ Type ┃ Toolkit ┃ App ID ┃ ┡━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╇━━━━╇ │───────────┼────────────┼── │ send_mail_brevo │ send a meil using Brevo. │ write_only │ python │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ ├─────────────────────────────────┼──── │ stock_quote │ 企業のTickerSymbolを用いて株価… │ read_only │ python │ │ │ ├─────────────────────────────────┼──── │ Untitled_6160RC │ No description │ read_only │ openapi │ │ │ ├─────────────────────────────────┼──── │ stock_info │ 企業のTickerSymbolを用いて企業… │ read_only │ python │ │ │ └─────────────────────────────────┴──── 次にAgentをインポートします。下記コマンドを実行します。 (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~/orchestrate_tool/py/source_02# orchestrate agents import -f ./yfinance_agent.yaml agent listコマンドでインポート済みのAgentを確認できました。Agentが使用するToolも表示されています。 (your-venv-adktest) # orchestrate agents list ┏━━━━━━━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━━━━━━━┳━━━━━━━━ ┃ Name ┃ Description ┃ LLM ┃ Style ┃ Collaborators ┃ Tools ┃ Knowledge Base ┃  ┡━━━━━━━━━━━━━━━╇━━━━━━━━━━━━━━━╇━━━━━━━━ │ yfinance_age… │ 企業の会社情… │ watsonx/meta- │ react │ │ stock_info, │ │ │ │ │ llama/llama-3 │ │ │ stock_quote │ │ ││ │ │ -2-90b-vision ││ │ -instruct │ │  IBM Cloud上のwatsonx Orchestrateで動作確認 インポートしたAgentとToolをIBM Cloud上のwatsonx Orchestrateで確認します。 watsonx Orchestrateへログインし、BuildからAgent Builderを選択します。 yfinanceエージェントが表示されているので、クリックします。 クリックすると、Agent作成画面に入ります。UIから基盤モデルを変更したり、Agentの振る舞いなど変更することができます。 スクロールして、Toolsetを確認するとADKからインポートしたToolが登録されています。 右のPreviewからAgentの動きを確認することができます。今回はDeployせずPreviewで確認します。入力欄には「IBMの株価は?」と質問してみます。しばらくすると本日の株価が回答されました。Show Reasoningを開くと推論過程を確認することができます。株価を取得するTool「stock_quote」を使用し、AIがユーザの入力から自動的にTicker symbolを入力していることがわかります。 次に「IBMの企業情報」と質問をします。しばらくするとAIがユーザの入力からTicker symbolを入力し、Tool「stock_info」を利用して企業情報を取得、回答されました。ユーザの入力内容からAgentが使用するToolを選択し、実行していることがわかります。   さいごに ADKのご紹介とADKを使ってToolとAgentのインポートを行いました。 ADKのインストールおよび設定について、Pythonバージョンの設定やvenvの作成でつまずく部分はありましたが、venvが作成できればその後の設定はスムーズに進められました。 今回はVSI上のUbuntuサーバにADKをインストールしましたが、ご自身の端末に導入することで、より気軽にAgent開発を行えるかと思います。なお、今回は検証対象外でしたが、watsonx Orchestrate Developer Editionを利用する場合は、インストール要件としてやや高めのスペックが必要になる点にご注意ください。 検証時のADKのバージョンは1.5.1でしたが、7月末では1.8.0が最新バージョンとなっています。比較的頻繁にアップデートされますので適宜Release Notesをご確認ください。バージョンアップでコマンドオプションも変更される場合があるため、マニュアルを確認するかコマンドに`--help`を付与してパラメータを確認することをおすすめします。   お問い合わせ この記事に関するご質問は以下の宛先までご連絡ください。 エヌアイシー・パートナーズ株式会社 技術企画本部 E-mail:nicp_support@NIandC.co.jp   .anchor{ display: block; margin-top:-20px; padding-top:40px; }

2025年07月11日

【参加レポート】Domino Hub 2025

公開日:2025-07-11 みなさまこんにちは。ソリューション企画部 松田です。 2025年6月19日・20日と2日間に渡って開催された「Domino Hub 2025」に参加しました。これは HCL Ambassador有志が企画・実行する Dominoコミュニティイベントです。去年に続き、今回が3回目の開催となります。 昨年同様、今回もエヌアイシー・パートナーズはスポンサーとしてご支援させていただき、両日参加いたしました。そのレポートをお送りします。 目次 イベント概要 セッション内容 - Domino 14.5 リリース 特徴的機能とライセンス改定 -ロードマップ -お客様事例:曽根田工業様 最後に 関連情報 お問い合わせ イベント概要 「Domino Hub」は、HCL Ambassadorが主宰となり、Dominoの利用者、開発者、ソリューションベンダーが一堂に会するコミュニティイベントです。今回は1日目がオンライン、2日目はオンサイトのみの開催でした。 特に2日目は参加率が非常に高かったとのことで、会場も大変盛況でした。結婚式場としても使われている今回の会場は、中庭から陽の光が差し込み、解放感があるラグジュアリーな空間で、一般的なビジネスミーティングよりも上質な雰囲気が感じられました。 併せて展示ブースも設置され、Dominoアプリケーションがスマートフォンやブラウザで使えるようになる「HCL Nomad」などのHCL製品とともに、様々なビジネスパートナー様の多彩な関連製品が数多く展示・紹介されていました。 セッション内容 2日間で全22セッションが行われました。セッションはHCLをはじめ、HCL Ambassadorから、様々な開発ベンダー、製品ベンダー、エンドユーザーからの事例紹介などのセッション、そしてパネルディスカッションがありました。まずHCLからのセッション内でのトピックをお伝えします。機能のみならずライセンスまわりで大きなニュースもありました。 Domino 14.5 リリース 特徴的機能とライセンス改定 Domino Hubの2日前、2025年6月17日にリリースされました。 Domino IQ 特徴的な機能で最も注目すべき、今回もご説明に時間を割かれていたのが「Domino IQ」です。 一言で言えば「Domino内にローカルでLLMを持たせ、蓄積されてきたDominoアプリ内の情報も取り込み、セキュアな環境で生成AIを用いた業務を実現する」ものです。 企業内業務で生成AIをどのように実装し利用していくかは今、皆様の大きな関心事項であられると思います。自社のDomino環境内で、Dominoアプリケーションを用い、Notesクライアントからそれが実現できることになります。 (画像クリックで拡大) Nomad for Web COM対応 またNomad for WebがCOMに対応したことにより、これまではNotesクライアントだけでしかできなかったExcelやPowerPointを埋め込んだDiminoアプリもブラウザから利用できるようになりました。 ライセンスダッシュボード:DLAUの統合 これまでGitHubからダウンロードしてセットアップしていたDomino License Analysis Utility (DLAU)がDomino内にデフォルトで統合され、The Domino License Administration (DLA) となりました。 (画像クリックで拡大) ライセンス改定 そしてライセンスにも大きなベネフィットが付加されました。CCB Termライセンスにはこれまで「Domino Leapで5アプリケーションまで開発・利用が可能」という権利が含まれていましたが、2025年7月1日からその制限がなくなりました。すなわち「2025年7月1日以後有効なCCB Termライセンスをお持ちのお客様は、Domino Leapのフル機能が利用できる」となります。 同時に、Domino Leapライセンスの利用範囲であるHCL Enterprise Integrator(HEI)の利用権利も含まれます。これでCCB Termライセンスのみで、追加費用なく「ブラウザによるノーコード/ローコード開発」「基幹業務とDominoアプリケーションの連携」が可能になります。 さらにCCB Termで利用できるSametime Chatで添付ファイルと画像添付も可能になりました。 ロードマップ Domino、Notes、Verse、Nomadなど各ソリューションについてのロードマップも紹介されました。先々の計画は出てこないものですが、このようにHCLから明確に提示されることにより、Dominoをお使いのお客様はこれからも安心して利用を継続していただけると思います。 Dominoのロードマップ(画像クリックで拡大) Notesのロードマップ(画像クリックで拡大) Nomad, VerseといったエンドユーザーのUI部分が短期間でバージョンアップされていく。(画像クリックで拡大) お客様事例:曽根田工業 様 Dominoユーザーの有限会社曽根田工業 代表取締役 曽根田 直樹 様より、Domino事例のご講演がありました。曽根田様は2001年に静岡県磐田市で個人で起業され、切削機械の刃物を製造されています。曽根田様のお話で非常に興味深かった部分を抜粋致します。 "独立・起業するにあたり、前職で使っていたNotes/Dominoを自社でも使うことにした。現在は大手メーカーからの発注依頼や過去に作った品番の再発注など数多く受けており、当時のCAD/CAMのデータや販売管理データなどをDominoに入れて運用している。 オンプレミス環境のリスクやセキュリティ、IT技術のトレンドに合わせてクラウド化を検討した場合、Dominoからは離れたほうがいいのではないか?と思い、他社SaaS製品も検討しトライアルで利用登録をした。 しばらく触れずにいたところ、アカウント情報に登録していた支払い口座から利用料の引き落としがされていなかったためアカウントが凍結、さらに保存していたデータも突然消去されてしまっていた。支払いが滞っただけで中身まで削除されてしまうようなシステムには会社の大事な資産であるデータを載せられないので、「Dominoを『やめることを止める』判断」をした。" Dominoから他製品への移行を検討され断念されるお客様は多く、その理由は「Dominoの業務アプリケーションを、サービス内容を落とさずに別プラットフォームに移行することがはなはだ困難である」ということをよくお聞きしますが、この点にも意外な理由が潜んでいました。 最後に 初の2年連続開催となった今年のDominoHubは、コミュニティの力を象徴するかのような盛り上がりを見せました。14.5のリリース、生成AIの実装、ライセンス強化など、今後のDominoの発展を確信させる要素が数多く披露されたほか、実際のユーザー事例も非常に示唆に富むものでした。加えてロードマップの提示による未来への安心感も得られました。 DominoHubは単なる情報共有の場に留まらず、技術、コミュニティ、そしてビジネスの未来を交差させる特別な場となっています。これからもこのような取り組みが継続していき、多くのDominoユーザー、デベロッパー、そして販売パートナーが更なる価値を引き出していけることを楽しみにしています。これからもDominoと私たちの未来を築いていきましょう。 関連情報 「Domino Hub」大阪開催 Domino Hubは、2025年9月18日に大阪でのオンサイト開催が決定致しました。詳細およびお申し込みについては、こちらのリンクからご確認ください。 お問い合わせ エヌアイシー・パートナーズ株式会社E-mail:voice_partners@niandc.co.jp   .highlighter { background: linear-gradient(transparent 50%, #ffff52 90% 90%, transparent 90%); } .anchor{ display: block; margin-top:-20px; padding-top:40px; } .btn_A{ height:30px; } .btn_A a{ display:block; width:100%; height:100%; text-decoration: none; background:#eb6100; text-align:center; border:1px solid #FFFFFF; color:#FFFFFF; font-size:16px; border-radius:50px; -webkit-border-radius:50px; -moz-border-radius:50px; box-shadow:0px 0px 0px 4px #eb6100; transition: all 0.5s ease; } .btn_A a:hover{ background:#f56500; color:#999999; margin-left:0px; margin-top:0px; box-shadow:0px 0px 0px 4px #f56500; } .bigger { font-size: larger; } figcaption { color: #7c7f78; font-size: smaller; }

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