Domino が誕生してから35年以上が経過し、IBM から HCL に移管されて丸6年が経ちました。
Domino は、高い開発生産性と堅牢性を兼ね備えたアプリケーション基盤で、長きにわたり企業の業務効率化を支えてきた歴史ある製品です。一方、重ねてきた実績の分だけ、バージョンアップに対する課題も垣間見えます。
今回は、エイチシーエル・ジャパン株式会社 HCLSoftware のテクニカルリードである松浦光様に HCL Domino のビジネス状況や今後の展開など、多岐にわたり話を伺いました。
前半では「Domino の現状」を中心に、後半では「新バージョンの登場と互換性」をテーマにバージョンアップについてより具体的に語っていただきました。
(本ページは前半です[後半も公開中])
【ゲスト】
エイチシーエル・ジャパン株式会社 HCLSoftware テクニカルリード
松浦 光 様
【インタビュアー】
エヌアイシー・パートナーズ株式会社 技術企画本部 ソリューション企画部
松田 秀幸
※対談者情報は2025年6月9日時点

HCL Domino の現状
製品の変遷と現在のビジネス状況
── Domino が誕生してから35年以上が経過し、IBM から HCL に移管(2019年7月)されてからも丸6年が経ちました。今、HCL としての Domino のビジネス状況はいかがでしょうか。
松浦:
現在も利用していただいているユーザーも多く、市場としては活況です。
見た目や使い勝手も含めた新機能が多く実装されてきた点、バージョンアップのサイクルが非常に良いペース で進んできている点が、ユーザー様、パートナー様から製品投資として評価をいただいてます。
一方、Domino のクラウドに対する対応が SaaS としてではなく Amazon や Google などのクラウドキャリアとの協業による提供に主眼をおいているので、その点が他の SaaS型コミュニケーションツールと比べてもう少しなんとかならないかという声は未だにいただいている状況です。
── Domino のクラウドに対して、SaaS型コミュニケーションツールとしても期待もされているということですね。
松浦:
運用に関する負荷を下げたいということだと思います。
加えて人材確保やノウハウ継承などの課題に対し、生成AI との連携など新しい領域へのチャレンジがトレンドになっています。
旧バージョンでの利用も多い
── バージョンアップのサイクルといえば、多く利用されているバージョンは何でしょうか?
松浦:
お陰様で現時点の最新バージョンである V14 が順調に立ち上がっています。ただ実は、特定のバージョンでいわゆる『塩付け運用』をされているお客様も多くいます。
そのような状況の中で1点、昨年末にあったケースについてお話しさせてください。
2024年12月13日に重要障害が発生し、多くのお客様と関係者の皆様にご迷惑をおかけいたしました。大変申し訳なく思っております。この場を借りて、お詫び申し上げます。
対応として修正モジュールの適用をお願いしておりますが、実はこの障害は35年前のコードに含まれていたもので、Domino のすべてのバージョンで発生していました。
そのような中で、Domino の塩漬け運用をされているお客様、他社移行の事例記事になっており HCL とまったくお取引がないお客様からもお問い合わせをいただいています。
── 古いバージョンのまま Domino を利用され続けているユーザー様もまだまだ多くいらっしゃる、ということが分かったのですね。
松浦:
はい、良くも悪くも先ほどお話したような状態で、HCL と最近お付き合いがないお客様からもお問い合わせをいただくケースがありました。
古いバージョンを利用する際の注意点
── 古いバージョンのまま利用することへの懸念は何でしょうか?
松浦:
Java など サポートが終了したテクノロジーへの脆弱性対応 が懸念されます。
また、旧バージョンでは DXに対して十分な役割を果たせるとは言い難いです。新バージョンでは Web対応やモバイル対応、AI対応での活用もイメージしています。
例えば、新バージョンである V14.5 には、Domino と生成AI を統合した機能もあります。
──『塩付け運用』をされた場合、サポート面はどうでしょうか。
松浦:
多くの塩漬け運用されているお客様からの声をお聞きすると、サポートが終了したバージョンで安定運用ができていたというのが Domino に対する今までの理解だったと思いますが、今回のようなことだけでなく、脆弱性対応も必要になるので、やはり サポートを受けられるバージョンの必要性 を意識していただけたのではないかと考えています。
Domino が選ばれ続ける理由
情報系基幹システムとしての性能と安定性
── 旧バージョンでの利用も含め、Domino が利用され続ける理由は何でしょうか?
松浦:
情報系の基幹システムとして必要十分な機能を備えている点が大きいですね。
Domino が誕生した当初から兼ね備えており、「バージョンアップをしなくても現状で満足」というユーザーがいらっしゃる理由になっています。
── Domino が古いまま使用されるのはなぜか、この点をより詳しくお聞かせください。捨てられないけれどバージョンアップもしない、というのは、なぜでしょうか?
松浦:
例えば、四半世紀前のデータがそのまま最新バージョンでも読み込めるなど、下位互換、上位互換性が非常に高い。動いてしまうがゆえに、使えてしまう。
便利に使っていただけるのはいいことなのですが、やはり15年前、20年前に作ったアプリケーションなので、見た目が古くなってくるというのは当然あります。
Domino でのアプリ開発の優位性
── 一般的な市場感として Domino はすでに別製品に移行されてしまったという風潮もありますが、いかがでしょうか?
松浦:
Domino はアプリケーションの開発生産性が非常に高い製品 だというのは、市場の評価として強くあります。
同じようなアプリケーションを、例えば SaaS型の Webベースの他製品、ノーコードの製品やローコードの製品に切り替えることにチャレンジされているお客様はいらっしゃると思うのですが、なかなかうまくいかないということを伺っております。
── うまくいかないというのは?
松浦:
その製品が悪いとか機能が足りないという話ではなく、Domino だと簡単にでき過ぎてしまうということで、エンドユーザーの満足度を得られないというのが1つの原因だとお客様はおっしゃっています。
他社製品と共存できるメリット
── メールはもう SaaSメールに移行しているという話はよく聞きますが、アプリケーションについては Domino の利用を続けているということでしょうか?
松浦:
コミュニケーション基盤に関しては、在宅勤務やリモートワークが一般的になったので、好みの Web会議サービスに付帯したものへ切り替えたというお客様はいらっしゃると思います。
ただ、先ほどの話にあったように、アプリケーションはなかなか切り替えるのが難しいというのがあります。アプリケーション利用のために Domino が残っているというケース、共存されているというケースなど、多々あると思います。
── Domino 以外のコミュニケーション基盤とアプリケーション基盤としての Domino を併用し、いわば一つのシステムとして使えると。
松浦:
はい、その通りです。コミュニケーション基盤は別の製品を、アプリケーション基盤としては Domino を使っている 事例を、弊社ホームページにも事例記事として掲載しています。
── コミュニケーション基盤とアプリケーション基盤でそれぞれのいいいとこ取りをされているのですね。
松浦:
Domino と他製品が共存ができることは、バージョンアップの観点でも大きなポイントだと思います。
──「基盤が2つあると運用管理も2倍になるのか」という疑問も出そうですが、どのような運用が可能でしょうか。
松浦:
コミュニケーション基盤では、例えば1人に1つメールアドレスを発行するのが一般的だと思います。その場合、そちらのディレクトリシステムをメインにし、Domino は二次ディレクトリとして運用することもできます。
また、LDAP(Lightweight Directory Access Protocol)参照で認証委託をさせることもできますし、Dominoディレクトリと他のディレクトリ…例えばAzure AD(Azure Active Directory)のようなディレクトリサービスと連携させて運用している事例も多くあり、各社のやりたいことと運用負荷のバランスを考えて様々な方法がとれます。
なぜ Domino のバージョンを上げないのか
高い互換性が仇になっている?「動いてしまう」ジレンマ
── 互換性が高いということは、バージョンアップの障壁が低いともいえますね。
松浦:
互換性の高さは、単に過去のデータが「動く」以上の価値を提供していると考えています。
もし他社製品に移行する場合、往々にしてデータ移行が膨大なコストや技術的課題を伴い、互換性の問題が原因で取り残されたデータが発生するケースも見受けられます。Domino の場合、こうした課題を意識することなく 過去の資産を活用し続けることが可能 であり、移行リスクや未知のコストを回避 できる点でも独自の競争力を持っています。
── 一方で、見た目を新しくすることは、バージョンアップの動機にはならない。
松浦:
見た目を新しくする機能もリリースはしていますが、そこに手をつけるよりは塩漬けで使ってしまおう、その方がお金がかからずに済む、ということで、古いバージョンのまま使うという決断をするお客様もいるのかなと思っています。
── 確かに Notesクライアントだけを見たら、そんなに大きく変わらないですよね。
松浦:
アーキテクチャは変わらないですし、Windows で動いてしまえばクリティカルな障害もなければ、上げる理由も作れなかったというところです(笑)。
最新バージョンは、バージョンアップをする理由になるか
── 大きな障害がなく動かせる状況の中で、上げる理由は何かとなると「最新バージョン V14 で何ができるのか」でしょうか。
松浦:
そうですね。お客様が最新バージョンに上げる理由としては DX が多い印象です。再投資をする際の Web対応やモバイル対応、AI対応があります。そのようなところで、もっと価値を出していけるのではないかと考えています。
── V14.5 については、後半でさらに詳しくお聞かせください。
松浦:
最新バージョンには、Domino と生成AI を統合した機能もあります。V14.5 は、大きく進化した面もあるので是非語らせてください(笑)。
── 楽しみにしています(笑)。後半では、新バージョン V14.5 の新機能やアップデート、互換性についてお聞かせください。
まとめ
ここまで Domino の現状について、HCLSoftware 松浦様にお伺いしてきました。
最後に、前半のまとめと後半のトピックをご紹介します。
前半のまとめ
- Domino の現状
- Domino は35年以上にわたり利用されている製品で、現在も市場は活況。
- ユーザー数は多く、旧バージョンのまま利用されるケースも多い。
- 長期的に利用される理由は、高い開発生産性と安定性。
- 利用され続ける理由
- Domino は情報系基幹システムとして必要十分な機能を備えている。
- 高い下位互換性と上位互換性があり、古いデータやアプリケーションが最新バージョンでも問題なく動作する。
- 旧バージョンの課題
- 特定バージョンを使い続ける「塩漬け運用」が多く、安定性を理由にアップグレードしないユーザーが多い。
- 古いままでもシステムが動作するため、アップグレードの動機になりにくい。
- 見た目の改良も費用対効果が低いとして、アップデートしないケースが多い。
- Domino のバージョンアップと他社製品への移行
- Domino は他社製品との共存が可能。
- 新バージョンは V14.5で、新たな機能が追加された。
- DX領域での価値提供が、バージョンアップの理由となる可能性を秘めている。
次回予告
後半では、より具体的に新バージョン、互換性についてお届けします。
新バージョン V14.5 の機能はもちろん、今後のビジネス戦略も語って頂きました。
- 新バージョン V14.5 が刻む新たな一歩
- 生成AI を Domino の中に
- Domino と生成AI の統合「Domino IQ」
- 自社のベストプラクティスを得られる
- Domino による生成AI の活用方法
- REST API による効率的なシステム間の連携
- バージョンアップの鍵は互換性の安心感
- 移行チェックツールとその効果
- 新旧バージョンの互換性は移行チェックツールで担保する
- バージョンアップ vs 他社製品への移行
- バージョンアップはしないが、移行もしない
- 結論!バージョンアップが最適解
- 今後の戦略
- V14.5 は 描いたロードマップの答え合わせになるバージョン
- 兄弟製品に繋げる二段構えの展開
- HCL 様からのメッセージ
- 過去にとらわれない新たな事例でアプローチ
- V14.x を避けて V12 にする意味はない
(本ページは前半です[後半も公開中])
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