Domino が誕生してから35年以上が経過し、IBM から HCL に移管されて丸6年が経ちました。
Domino は、高い開発生産性と堅牢性を兼ね備えたアプリケーション基盤で、長きにわたり企業の業務効率化を支えてきた歴史ある製品です。一方、重ねてきた実績の分だけ、バージョンアップに対する課題も垣間見えます。
今回は、エイチシーエル・ジャパン株式会社 HCLSoftware のテクニカルリードである松浦光様に HCL Domino のビジネス状況や今後の展開など、多岐にわたり話を伺いました。
(本ページは後半です[前半も公開中])
【ゲスト】
エイチシーエル・ジャパン株式会社 HCLSoftware テクニカルリード
松浦 光 様
【インタビュアー】
エヌアイシー・パートナーズ株式会社 技術企画本部 ソリューション企画部
松田 秀幸
※対談者情報は2025年6月9日時点

新バージョン V14.5 が刻む新たな一歩
生成AI を Domino の中に
── この夏に新バージョンの出荷が予定されていますね。
松浦:
はい、2025年6月にバージョン V14.5 の出荷が予定されています。
── V14.5 のポイントは何でしょうか?
松浦:
目玉の1つとして、Domino の中に AI を持つ「Domino IQ」 という機能がリリースされます。
なぜ、わざわざ自社で生成AI を持たなければいけないか、と思われる方もいると思いますが、理由の1つはセキュリティです。
Domino と生成AI の統合「Domino IQ」
自社のベストプラクティスを得られる
── 「Domino IQ」は、どのようなものでしょうか?
松浦:
完全にローカルで生成AI を持つことで、機密度が高い自社の情報についても問い合わせできるようになります。
加えて、自社の Domino を20~30年使い続けているお客様は結構多く、その積み重ねた情報に注目しています。そこで、今まで溜め込んだナレッジを生成AI に教え込み、ベテランの方が持つナレッジや自社のベストプラクティスを回答する生成AI を作っていく 流れですね。
このような利用も考えて、Domino IQ を開発しています。
── 生成AI のモデルは、HCL で作っているのですか。
松浦:
HCL で開発しているわけではなく、オープンソースの LLM を使っています。今ベータ版で使えるのは、Meta社の Llama3.2 などです。
ゼロから HCL で作ったものではなく、もう既に賢く育てられた LLM を使える点が大きな強みの1つだと思います。RAG を使って LLM に足りない情報を学習させられるようになるので、自社のデータベースで蓄えていた情報を AI が活用できるようになります。
Domino による生成AI の活用方法
── RAG による拡張はキーになりそうですね。
松浦:
Domino に溜まっている色々な情報やデータを社外や国外の生成AI に出さなくても、Domino IQ で新しい使い方が可能です。
── Domino と生成AI の組み合わせで業務効率も向上しそうですね。
松浦:
Domino は、業界用語や社内用語なども扱える 『生き字引き』のような人に代わる存在になっていき、皆さんの業務を支えられる のではないかと考えています。
REST API による効率的なシステム間の連携
── フロントエンドの作り込みはどうでしょうか。例えば、チャットボット以外の入口を作る必要はありますか?
松浦:
フロントエンドは何でもいいと考えていて、様々な Web やモバイルアプリに組み込むこともできますし、Notesクライアントが好きであれば Notesクライアントでもいいですし、Nomad Web でもいいと思います。Nomad Mobile というスマホやタブレット向けの Notesクライアント相当のものもあるので、それを使ってもいいですね。
── 他社システムとの連携はどうでしょうか?
松浦:
前半でも少し触れたディレクトリサービスの連携だけではなく、REST API で他社システムと繋ぐことも想定しています。例えばフロントエンドとしては、チャットボットはもちろん、それ以外にも様々なシステムから入力してもらうこともできます。

(画像クリックで拡大)
(出典:HCL Software|Configuring / Configuring users and servers / Domino IQ)
松浦:
オープンソースの LLM を Dominoサーバーのデータディレクトリの下にインストールし、アプリケーションからの参照は、簡単な Lotus Script の読み込み・書き込みという2つのメソッドで問い合わせる仕様です。
先程も触れましたが、既存の LLM を使える点は大きな強みだと思います。
バージョンアップの鍵は互換性の安心感
新旧バージョンの互換性は移行チェックツールで担保する
── 互換性を気にされる方が多いと思いますが、いかがでしょうか?
松浦:
12.0.1 については 64bit対応、Open Java への変更があり、10 から 14 のタイミングで足回りをアップデートしました。その対応も含めて確認したところ、アプリケーションの互換性に関しては問題はありませんでした。
それでも互換性に懸念をお持ちのお客様には、NotesConsortium(ノーツコンソーシアム)で会員特典として利用できる移行チェックツールの使用も検討していただきたいと思います。
- Domino に関する様々な知識やノウハウを交換、蓄積して会員同志で共有するユーザーコミュニティ
以前のバージョンの環境で動作していたプリケーションの互換性(@関数/LotusScriptのみ) をチェックするツール、アプリケーションコードチェッカー(NDACC)をご提供しています。 カンタン移行判定ツールもご利用頂けます。
移行チェックツールとその効果
── 実際に 9、10 から、V14、V14.5 へのバージョンアップは、移行チェックツールで試した場合の非互換はどれぐらいでしょうか。
松浦:
非互換はほとんどありません。
一言で非互換といっても、インパクトの程度は異なります。少し見た目が変わってしまうといった軽微なものから、挙動が変わってしまうという大きなものまであります。
移行チェックツールも過去20年以上の歴史があり、インパクトが小さい内容もチェックする仕組みでしたが、今はインパクトが小さい内容はチェックから外せるようになりました。
── 非互換性の影響が少なく、迅速かつ正確な対応が可能であれば、安心してバージョンアップできますね。
松浦:
もちろんインパクトの大小に関わらずチェックすることもできるので、気になる方は互換性に関するすべての内容を把握できます。すべてを確認していただいても、大きな影響を及ぼすような非互換はほとんどない と思います。
バージョンアップ vs 他社製品への移行
バージョンアップはしないが、移行もしない
── 前半にも話があったとおり、Domino の旧バージョンを利用されているお客様は多いようですね。
松浦:
はい、旧バージョンのまま利用されているお客様も多いです。やはり、「バージョンアップをしなくても現状で満足」というのが理由 だと思います。
── 一方で Domino から別製品への移行を検討されるお客様の声も聞きます。他製品への移行が検討される理由についてはいかがでしょうか。
松浦:
DX を旗印に企業の形を大きく変えたいと思われた時に、エンドユーザーが日々使う情報系システムを刷新するのは象徴的だと思います。特に社外から新しい CIO が来たという様なケースだと顕著です。
DX推進の際の障壁としては、「投資するための予算確保が少ない」が最も多くなっており、今後DXをさらに推進していく上で、約4割が「IT投資にかかる予算の増加」に取り組みたいと回答しました。
引用元:一般社団法人 中小企業個人情報セキュリティー推進協会「アンケート調査レポート」|「DX推進に成功している経営者」の実態調査アンケートの結果について
── DX の観点はひとつの肝かもしれませんね。
松浦:
Web対応やモバイル対応、AI対応への再投資に対して、もっと価値を出していけるのではないかと考えています。
── ただ、基幹的な情報系システムだと、気軽に移行するわけにはいかないですよね。
松浦:
他社ツールへのスイッチングコストの中には教育費を含め色々なものが発生するので、それだけお金をかける価値があるのかということに悩みながら検討されていると感じます。
やはりコストが大きいということで、移行ではなく共存で落ち着く ことがかなり多いですね。
- 内製化で自社の強みを生かしたDXを実践(日経XTECH)
- 20年で培ったデジタルカイゼンの文化 エームサービスの現場とIT部門をつなぐNotes(ZDNET Japan)
結論!バージョンアップが最適解
── 他社製品への移行リスクや未知のコストも考えると、Domino を利用し続けるのがよさそうですね。
松浦:
異なる基盤でも併用して共存でき、互換性も担保されている ので最新バージョンアップでの利用をお勧めします。
── ここまでの話以外で、他社製品への移行が検討される理由はありますか?
松浦:
お客様から、Notesクライアントの強力な機能は変わらずご評価いただきながらも、そのインストールやセットアップなどの運用管理はやはり大変だ、という声もいただいております。
── 最新バージョンでも同様でしょうか?
松浦:
最新バージョンでは改善されています。具体的には、V14 では ブラウザベースで Notesクライアントとほぼ同じようなことができる「HCL Nomad」という機能があります。特長は、専用Notesクライアントのインストールが必要ない点と、ブラウザベースなので複数の端末から使っていただける点です。
── 「今までNotesクライアントでしかできなかったことが、Web でもできるようになる」ということでしょうか?
松浦:
例えば、Excelマクロを使った帳票の集計業務などですね。これまでは、Notesクライアント内でオフィス系のアプリケーションを起動するようなものは、ブラウザのセキュリティ制限によりブラウザからの利用ができませんでした。
しかし、2025年6月に出る新バージョン V14.5 は「HCL Nomad Web」が COM をサポートするのが目玉機能の1つで、Nomad Web から Excel や Word や PowerPoint を起動してマクロ実行などができるようになります。
── V14.5 における進化の1つですね。
松浦:
はい、バージョンアップの利点ともいえます。
すでに、以前から使用されているお客様がトライアルを始めている という状況です。
- 新旧バージョンの互換性を担保している。
- コミュニケーション基盤が別製品でも、Domino を併用できる。
- Domino IQ の実装/HCL Nomad Web の COMサポート
今後の戦略
V14.5 は 描いたロードマップの答え合わせになるバージョン
── 今後の HCL の Domino のロードマップ、戦略はどのようになっているでしょうか。
松浦:
この夏に出荷予定の V14.5 では実行環境のアップデートやスマホ・Web対応の進化や生成AI連携など、HCL になってから大きく描いたロードマップの答え合わせになるバージョンです。
アプリケーションを作り、うまく使ってもらう というのが、Domino の軸になっていると思います。Notesクライアントで動くアプリケーションから Webブラウザやモバイルで動くアプリケーションまで、様々なものがあります。それらを支えていくというのが Domino の DNA です。
── 確固たる理念と設計思想があるのですね。支えるためには、Web対応や生成AI連携なども見越した拡張性も重要だと。
松浦:
作成したアプリケーションを拡張していくという方向性として API連携が挙げられます。Domino だけで全ての業務が回るとは考えていないので、周辺の製品サービスとの連携が簡単にできる というのがポイントの1つです。
兄弟製品に繋げる二段構えの展開
── バージョンアップ以外での、ビジネス戦略は何かありますか?
松浦:
アーキテクチャは異なりますが、開発環境の観点も含めれば兄弟製品といえるものがあります。
例えば Volt MX という製品には、モバイルOS を含む様々なプラットフォームのネイティブアプリケーションを作る機能があり、単一の開発環境で作成できます。
── 開発するアプリケーションによって、戦略の幅が広がりますね。
松浦:
Volt MX は一例ですが、プラットフォームを問わず使っていただけるような 本格的なアプリケーションについては兄弟製品 に繋げていく、という二段構えの戦略を考えています。
── 兄弟製品への横展開…Domino が秘めるビジネスの可能性といえそうですね。
松浦:
今後のロードマップは、我々が描いた V14.5 の評価をユーザーから得ながらアプリケーションの軸はぶらさずに兄弟製品と補完しながら作っていく予定です。
── Volt MX 以外に、どのような兄弟製品がありますか?
松浦:
Nomad Web Designer、Domino Leap という製品があり、どちらもブラウザで動きます。
Domino Leap は、エンドユーザー様が『ITの専門知識を必要とせずに簡単にアプリケーションを作成したい』というローコードの需要を補完できるツールとして位置づけています。
Nomad Web Designer は今まで Windows PC でしか提供されなかった Domino Designer を MacOS でも同じように使えるようにしたイメージです。
── いくつもの製品があり今後の展開も楽しみですが、まずは V14.5 からですね。
松浦:
旧バージョンをご利用中のお客様においては、まず他社製品との連携までかと思っています。
今は塩漬けの状態で、Domino の中だけで流通している情報があると思うので、それを他のシステムにも流通させてもらいたいですね。
1つの製品内だけでは情報の流れが停滞することもあると思います。業務の活性化のためにも、他社製品やAIとうまく連携し Domino を『情報の流れを淀ませないような解決策』という位置づけ に持っていきたいという思いもあります。
HCL 様からのメッセージ
過去にとらわれない新たな事例でアプローチ
── 長年 Domino を販売されているパートナー様に、特にお伝えしたいことはありますか。
松浦:
HCL に移ってから使っていただいてるお客様から、「色々なツールを使っているが、やはり Domino は凄く良い製品だよね」という声をいただくことがとても増えている気がします。
お客様がやりたいことに耳を傾けると、今までにない新しい使い方 もどんどん出てきます。
弊社サイトで公開しているお客様事例にも掲載しているので、Domino を長らく販売していただいているパートナー様はもちろん、Domino の販売に興味をお持ちの企業様にも、ぜひご覧いただければ嬉しいです。
Domino はかゆいところに手が届く業務アプリを作るには最適なツールだと思うので、そこを強みとしてどんどんビジネスを仕掛けて欲しいと思っています。
インフラの観点においても、堅牢でパフォーマンスのいい製品に仕上がっていますし、他の SaaS製品との連携も充実しているので、「今までの Domino ってこうだよね」という枠の中だけで考えずに 販売していただきたいと思います。
V14.x を避けて V12 にする意味はない
── では最後に、Dominoユーザー様、パートナー様へのメッセージをお願いします。
松浦:
Domino に限らず、バージョンアップの際は『どのバージョンにするか』を迷われるケースがよくあります。
今回のバージョンアップは V14.5 と刻まれたバージョンなので、V14 や V12 という実績があるバージョンを検討したいと思われるお客様もいるかと思いますが、この度 V14.0 の非互換検査をしたところ、12.0.1以上であればアップデートされたプラットフォームとして動作が変わらないことが分かりました。つまり、『14.5 もしくは 14 を避けて V12 にする意味はない』 ということなので、ぜひ最新バージョンを検討していただきたいと思います。
14.5 も新機能を使わなければ 14 と同じような挙動なので、保守期間が残っている新バージョンを使っていただいて、興味のある新機能にトライしていただくのが良いのかなと考えています。
── 本日はありがとうございました。
まとめ
ここまで HCL Domino の新バージョンや今後の展開など、多岐にわたり HCLSoftware 松浦様にお伺いしてきました。
最後に、前半の話を含め HCL Domino の特長となる強みとバージョンアップを推奨する理由をまとめます。
HCL Domino の強み
- 高い開発生産性と堅牢性
- 簡潔で迅速なアプリケーションの開発。
- 長期的に使用されることに適した、運用の安定性。
- 優れた互換性と柔軟性
- チェックツールにより、新旧バージョンの互換性を担保している。
- 古いバージョンのデータやアプリケーションも最新バージョンで動作可能。
- コミュニケーション基盤が別製品でも、Domino を併用できる。
- 新バージョン V14.5 の新機能「Domino IQ」
- セキュリティを確保しながら自社データを活用した生成AI の活用が可能。
- 過去のナレッジを活用し、業務改善を支援。
Domino の現状とバージョンアップを推奨する理由
- Domino の現状
- Domino は35年以上にわたり利用されている製品で、現在も市場は活況。
- ユーザー数は多く、旧バージョンのまま利用される「塩漬け運用」も多い。
- バージョンアップを推奨する理由
- サポートが終了したテクノロジーへの脆弱性対応として必要。
- 新旧バージョンの互換性を担保している。
- Domino は他社製品との共存が可能。
- 新バージョンは V14.5で、新たな機能が追加された。
(本ページは後半です[前半も公開中])
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