2017年11月

06

【クラウドとデザイン思考】日本企業にはイノベーションの素養がある ~IBM デザイン・シンキング~(前編)

interviewee:長尾 政明 氏

IBM iX Creative & Design 統括
IBM デザイン思考推進リーダー
IBM Studios Tokyo スタジオリーダー

  • 経歴 ・・・ コンサルティングファームにおいて、戦略・トランスフォーメーション領域でのコンサルティングに従事した後、事業会社に移り、新規事業企画 (大手電機メーカー)、グローバルオペレーション企画 (海外通信機器メーカー) 等を経験。
    IBMにおいては、電機・電子業界コンサルティング、戦略コンサルティングを経て、現在はC&D 統括として、IBMデザイン思考推進リーダー、IBM Studios Tokyo スタジオリーダーを務める。クライアントと共に、新しい顧客体験の創造とビジネスデザインを実行、またデザインカルチャーの組織への浸透・実践に取り組んでいる。
  • 専門分野・・・IBMデザイン思考、新規事業企画、ビジネスモデル、イノベーション、FORTH公認ファシリテーター

 interviewer:NI+C パートナーズ 企画推進部 加古

当インタビューの背景

今回のインタビューのきっかけは、デザイン思考とクラウドと題した特集記事です。素人ながら”デザイン思考は何かから、クラウドとの親和性について”執筆してきました。考察を進めていくうちに、日本の企業はデザイン思考を効果的に導入することが難しいのではないか?という疑問にたどり着きました。

この疑問を紐解くには、やはり、デザイン思考の推進に実際に取り組んでいる方にお話をお伺いするのが良いのではないか?ということになり、日本 IBM で第一人者の長尾氏にインタビューのお時間をいただくことになりました。

 

IBM デザイン・シンキングを担う組織

― お話しにくいかもしれませんが、こういうところが難しいんですよとか、成功、及び失敗事例も含めてざっくばらんにお話いただければと思います。まず初めに、長尾様のお仕事、お立場や役割についてお聞かせください。

私は、 IX (インタラクティブ・エクスペリエンス)担当、コンサルタントとして GBS という組織にいます。 IBM グローバルでは、”デジタル・ストラテジー・アンド・インターラクティブ・エクスペリエンス”という顧客体験やユーザー体験、といったお客様に近い部分を担当するチームというイメージです。私には、クリエイティブ・アンド・ デザイン、ここでは顧客体験を作るにあたってデザインやアプリケーション、その前段のそもそもどういうユーザー体験が求められているのかを考えるミッションがあります。

最近 IBM は、エクスペリエンスを全面に押し出し始めています。 これまでのように戦略や要件定義を理詰めで考え、落としこんでも、結局ユーザーが使いたい、または必要な機能にはならないことが多いということを経験してきました。機能をたくさん詰め込んでしまうと、お腹がいっぱいの状態になってしまうのです。

例えば、(テーブルにあったリモコンを指し)テレビのリモコンにはこんなにボタンがありますが、使うボタンはほんの一部です。ボタンが多すぎるのです。(赤、青、黄色・・・ 等のボタンを指しながら)このボタンは、何かしら投票する時などにしか使わないですよね。そもそも使いこなしている人はほとんどいない。同じように、モバイルやクラウド、特にフロント寄りでは、 IoT、 AI 、何でもできるとして、何でも乗っけたくなるのですが、結局無駄なものができてしまい、響かないのです。

 

ユーザー体験をエンリッチするために

響く体験、生き残るためにユーザの体験をエンリッチするものでなければならない」、と言うのが2012年にジニー・ロメッティが就任した時の言葉です。「クライアント・エクスペリエンスの今後が、 IBM 成長の鍵となる」と。この瞬間、デジタル・リインベンション、そしてエクスペリエンスが IBM の中心となりました。このデザインを先頭になってやるというのが、我々のチームです。

その中には UX (User Experience) などの上流工程をデザイン・シンキングを使ってデザインしている者もいれば、それを受けて様々なアプリを開発したり、プロダクトにつながるもの、また簡易的なサービスをデザインする者もいます。更に広告代理店系の人材、デジタルマーケティングとかデジタルクリエイティブという人達もいます。大手広告代理店との差別化として、例えば、デジタルマーケティングと IBM のマーケティング関連のオファリングと上手く組み合わせてサービスを作っていくなど、 全く同じことをやるのではなく、デジタルの世界でも、試行錯誤しているところです。

他にはモバイルとか モバイル・エクスペリエンスの部隊、マーケティング&コマース、セールスフォースの部隊、 エクスペリエンス・アナリティクス、アナリティクス・ ソリューションもあります。

顧客接点のいろいろな体験マーケティングのソリューションを持っているというよりは、後ろに一緒にいて体験を作っていくように関わっていきます。その時の道具として使っているのが IBM デザイン・シンキングです。共創のためのフレームワークと言うアプローチ方法を適応しています。

これらが C&D  (クリエイティブ アンド デザイン)がやっていることで、私は、それをリードしています。いわゆるデザイナーやクリエイティブな人材を抱えていますが、普通のコンサルティングと同じ稼働率で評価されるイメージです(笑)。

 

― そこは、なかなか変えることが難しいですよね。

確かに、そこは難しいですね。

 

IBM デザイン・シンキング

-では、IBM デザイン・シンキングについてお聞きしてもよろしいでしょうか。

今の IBM デザイン・シンキングの始まりは、2012年、ジニー・ロメッティは就任の際に、「クライアント・エクスペリエンスが重要だ」と語ったところからです。クラウド、 SaaS といったフィジカルなものではなく、お客様がサービスを試し、良かったら採用する形になる。そうであれば、最初から体験が物を言ってくる、これが重要だ、とも言っています。それを受け、テキサスのオースティンにいるフィル・ギルバートという GM がトップとして 「IBM デザイン」という組織を作りました。そのミッションは、「デザインとデザイン・シンキングのカルチャーを IBM に浸透させる」というものです。

今では、デザイナーを1600人以上抱え、デザイン組織としても有数の規模になっていますが、デザイナーを何人にするということよりもデザインカルチャーを IBM にインストールする、それが浸透して全社員がお客様やユーザーに共感して物事を考えて解決していく、というような組織になりたいということなのです。

そして、私には、デザイン・シンキングを日本の IBM 社内で推進するという役目があります。コンサルタントで稼ぐというのと、他の部門に対してのトレーニング実施、さらに浸透させるためのフォローアップ、これらのバランスが結構難しいです。

今は、営業チーム向けのデザイン・シンキング・トレーニングを四半期に 1、2 回程度行っています。GBS の中途採用者に関しては毎月月初にプログラムとして実施しています。他部門でもニーズがあります。先日もクラウド & コグニティブの部門で 3 日間のイベントをお手伝いしました。 もっと展開できると思っていますが、今はトレーニング (その場で実際の問題を解決するために活用するアクティブラーニングの形をとります)を切り口に浸透させていきたいと考えています。

日本企業には、イノベーションの素養がある

― ここで、デザイン・シンキングって本当に難しいの?という問いについてお考えをお聞かせいただけますか。

デザイン・シンキングは去年結構流行ってましたよね?今年も引き続き流行っていますが、そろそろバズワード化してしまって、結局あれは大したことなかったとなる可能性があります。 それが IBM 社内では起こらないように、きちんと理解してもらった上で、日々お客様サービスやトレーニングでも価値が出るように、日々試行錯誤しています。

先ほど、デザイン・シンキングが日本では難しいんじゃないかという話がありましたよね。確かに難しいんですが、アメリカ人に言わせてみると日本で騒がれていること自体が不思議なようです。

 

デザイン・シンキングのパイオニア達は日本の『下町ロケット』を参考にした?!

デザイン・シンキングは 1990 年から 2000 年にかけてアメリカ西海岸でスタートしました。その前から、もちろんデザイナーが無意識のうちにやっていたと思いますが、明確にそういう言葉が出てきたのはその頃です。Stanford d.School や IDEO (※)のトム・ケリー、デビッド・ケリー、ビル・モグリッジなどが始めたのです。
※IDEO(アイディオ)は、アメリカ合衆国カリフォルニア州パロアルトに本拠を置くデザインコンサルタント会社。

彼らを含め、アメリカのデザイン・シンキングに関わる人に言わせると「なぜ日本人は騒いでるんだ?(デザイン・シンキングは)日本人が元々やっていたことを割と参考にしながらやってるんだよ」、ということだそうです。これは、よく言われます。

 

― はい、私もそう思います。日本の企業には元々”イノベーション”の素養があるということですね。

多分 Honda さんにしても皆さん、下町ロケット(※)の世界で、大部屋で部門や部署がどうとか関係なくお客様や自分たちの課題があってそれに対してみんなでやってみる。任せて、それぞれの英知を発揮してやってみる。試行錯誤しながら進めていくというようなものだったと思います。正にこれはデザイン・シンキングの世界で、日本にはもともとあった素養なのです。海外から効率化といったものが入ってきて、日本は優等生として取り入れてしまった。その結果、組織が出来上がって、サイロ化して、今では隣の部門が何をやっているのかわからない、そんな縦割りの状況が多く見受けられるようになってしまったのです。弊社でも色々チームを作ってしまうと、そこでどうしても垣根ができてしまう。そういったものを見直したのがアメリカの西海岸のスタートアップの人たちだと思うのです。
(※)池井戸潤の小説、2015 年にテレビドラマ化され話題を呼んだ。

ですので、もともと日本にはそういう素養があります。一度”ガラガラポン”してみてみるのは良いのかなとも思います。

 

重厚長大な組織でもデザイン・シンキングを導入できる

IBM でも 2012 年から本格的に全社を挙げてデザイン・シンキングの導入を始めています。グローバルでは、38 万人の社員の内、9 万人ぐらいが IBM デザインシンキングバッジ認定制度での認定を受けて実践しています。日本だとそれが 7,000 人程度の人間が同様の認定を受けています。

GE 社(※)では、デザイン思考を早くから取り入れていて、リーンスタートアップを取り入れた、ファーストワークス手法を作っています。重厚長大な企業もスタートアップかの如く実践しています。日本の企業も頑張れると思います。ただそこに行くきっかけ、壊すきっかけになるような衝撃、というのがまだまだ足りないのかなと思います。しかし、十分危機感はあるような気がするのですが、今の状況だと。まずは、小さくても良いから試してみる、という思いきりが必要じゃないかなと思います。
※ゼネラル・エレクトリック(英語: General Electric Company、略称: GE)は、アメリカ合衆国コネチカット州に本社を置く、多国籍コングロマリット企業。

 

- 私も難しいとは言っていますが、日本の企業が元々やっていることというのは、理解しているつもりです。それでも最近の状況にマッチしないんじゃないか、例えば失敗を許さない雰囲気、コンプライアンスだとか、縦割りの組織であるとか。 IBM がデザイン思考をやると、聞いた時に面白いなあ、と思ったんです。ある意味そことは離れた会社という勝手なイメージがあったので。そこに”デザイン思考”を取り入れていくということは、皆さんがどう苦労され、チャレンジされているのかは、多くの日本企業にとって参考になるのではと思っています。

 

いくら IBM や GE 社あっても、市場に正式に出した段階、正式リリースした段階などで失敗があった、というのはダメです(笑)。ただ、ここでの小さな失敗はすぐにアップデートしたり軌道修正することもできるので、そういった学習サイクルが早く回ることがどのタイミングであっても大事かと。もちろんそうならないように非常に早いタイミング、これまでよりもずっと早いタイミングで試行(失敗)をするというのがやはり重要です。そのタイミングの失敗だったら、許すよというのが大事です。プロジェクトも後半で、より具現化しなきゃいけない、かなりお金も投入したという段階で、ユーザーテストやユーザーと検証してやっぱり失敗でしたというのはダメです。

 

本当に早い段階で、まずはアイデアを試す。仮説でもいいからアイデアを作ってみる。アイデアを形にして検証して…というサイクルを早く回してみる。その中で失敗した、で終わるのではなく、その失敗から学んだことを活かして次のステップに進む。なぜ失敗したかということを理解する上では、その過程、その行為を評価する、ということが揃って IBM でも許されてるんじゃないかなという風に思います。

 

マネージメント層のコーチング・スタイルの変化も必須要件

完全に何をしても失敗してもいい、というものでもないですが、アーリーフェイルア、というよりはランニングですね。そこから何を学習するか、最終的に失敗してしまったら失敗ですけれども、途中の失敗はまだ学習の糧です。マネージメント層もそこをちゃんと理解しないといけない、助言するとしてもこれを前提としたコーチングの方法を身につけなければなりません。

 

かなり早い段階でこれまでと同じ尺度で、「それいくらになるの?」とお金の話を出すとか、失敗したからだめだよねとか。そういうやり方ではなくて、例えば、ある施策を 10 人のうち 2 人だけすごく欲しいと言っているとします。その場合、見極めて完全に方向転換するのか?この二人というのは実は形にして見せて見ると他の人を取り込めるぐらい先見性を持ったユーザーの 2 人なのか?このような問いができるコーチングや助言が必要です。次のステップに進めるために上手くラーニングを回すための助言が必要なのです。

>> 後編に続く….. 公開済み! ↓ 
「日本企業にもできるデザイン・シンキング、イノベーションの具体的な方法とは?」後編

その他の記事

2025年08月04日

【てくさぽBLOG】IBM watsonx OrchestrateのADKを使ってみた

こんにちは。 てくさぽBLOGメンバーの高村です。 早速ですが、今年5月に開催されたIBMの年次イベント「Think2025」で、watsonx Orchestrateの新機能が発表されました!その中の一つとして、開発者向けの「Agent Development Kit(以下、ADK)」があります。今回はこのADKを活用し、watsonx Orchestrate環境への接続やエージェントの追加といった操作を行い、その使用感をご紹介します。  なお、watsonx Orchestrateについては、今年2月、3月に公開した「watsonx OrchestrateやってみたBLOG」でご紹介しておりますので、是非こちらもご一読ください。 【てくさぽBLOG】IBM watsonx Orchestrateを使ってみた(Part1) 【てくさぽBLOG】IBM watsonx Orchestrateを使ってみた(Part2) 目次 はじめに ADKとは? ADK使ってみた さいごに お問い合わせ はじめに Think2025で発表された新機能は、6月に環境へ追加されました。それ以前の環境とは、メニュー構成や操作方法、機能名称に変更があります。 例えばこれまで「Skill」と呼ばれていたものが「Tool」へと名称変更されています。 アップデート後の環境につきましては、別ブログにて改めて詳しくご紹介させていただく予定ですので、ぜひご期待ください! ADKとは? まずはADKについてご紹介します。ADKとは開発者向けにwatsonx OrchestrateのAgentやToolをスクラッチ開発するための開発キットになります。ローカル端末などに導入し、pythonベースで開発を行うことができます。 また、ADKとは別に、watsonx Orchestrate Developer Editionをローカル端末に導入することで、ADKで開発したAgentやToolのテストが可能になります。なお、watsonx Orchestrate Developer EditionはDockerコンテナ上で動作し、現時点のハードウェア要件はCPUは最小8コア、メモリは最小16GBが必要です。詳細はInstalling the watsonx Orchestrate Developer Editionをご確認ください。   ADKとwatsonx Orchestrate Developer Editionを利用することで、コードの迅速な作成・修正や柔軟なカスタマイズに加え、環境へのデプロイ前にローカルでテスト・修正が可能となり、作業効率の向上が期待できます。 ADK使ってみた 前述ではADKでAgent開発し、watsonx Orchestrate Developer Editionで動作確認、SaaS watsonx Orchestrateへインポートする構築の流れをお話しましたが、今回の検証における動作確認は検証環境として利用しているIBM Cloud 上のwatsonx Orchestrate利用します。よって前述したwatsonx Orchestrate Developer Editionは利用せず、ADKからwatsonx Orchestrate検証環境へAgentとToolを直接インポートし、動作確認を行いたいと思います。また、ADKのインストール先は自分の端末ではなく、IBM Cloud上に構築したUbuntuのVirtual Server Instance(以下、VSI)を使用します。検証環境の構成イメージは下記の図の通りです。 尚、ADKのインストール要件はPython 3.11以上、Pip、そして仮想環境(以下venv)が必要です。詳細については、Getting started with the ADKをご確認ください。 それでは早速使ってみましょう! VSIのプロビジョニング まずはADKをインストールするVSIをプロビジョニングします。本ブログではプロビジョニング方法について詳しく記載いたしませんが、手順は「【てくさぽBLOG】IBM Power Virtual ServerのAIX環境とIBM Cloud Object Storageを接続してみた(Part1)」のVSI for VPCの作成をご参考ください。 OSはUbuntu 22.04 LTS Jammy Jellyfish Minimal Install、リソースは2vCPU,4GB RAMで作成しました。VSI作成時にSSH鍵が必要なるので作成を忘れないようにしてください。 作成すると数分で起動します。端末からSSHログインするため浮動IPが必要になります。赤枠で囲った浮動IPを作成しインスタンスに紐づけします。以上でVSIの作成は完了です。 Ubuntuの設定 ターミナルを開きsshでUbuntuにログインします。私はWindowsのコマンドプロンプトを使用しました。Ubuntuユーザでログイン後、rootパスワードを設定し、スイッチできるようにします。 ubuntu@nicptestvsi:~$ sudo passwd root New password: Retype new password: passwd: password updated successfully ubuntu@nicptestvsi:~$ su - pythonのバージョンを確認したところ3.10.12でした。ADKの要件は3.11以上ですので、バージョンアップが必要になります。最初は3.13にバージョンアップしてみたのですが、後続作業と最新バージョンではパッケージが合わなかったのかうまく動かず…仕切り直して3.11を利用することにしました! root@nicptestvsi:~# apt install python3.11 バージョンアップ後、デフォルトバージョンとして3.11を指定します。 root@nicptestvsi:~# sudo update-alternatives --install /usr/bin/python3 python3 /usr/bin/python3.10 1 sudo update-alternatives --install /usr/bin/python3 python3 /usr/bin/python3.11 2 sudo update-alternatives --config python3 update-alternatives: using /usr/bin/python3.10 to provide /usr/bin/python3 (python3) in auto mode update-alternatives: using /usr/bin/python3.11 to provide /usr/bin/python3 (python3) in auto mode There are 2 choices for the alternative python3 (providing /usr/bin/python3).Selection Path Priority Status ------------------------------------------------------------ * 0 /usr/bin/python3.11 2 auto mode 1 /usr/bin/python3.10 1 manual mode 2 /usr/bin/python3.11 2 manual modePress <enter> to keep the current choice[*], or type selection number: 2 root@nicptestvsi:~# root@nicptestvsi:~# python3 --version Python 3.11.13 次に下記コマンドを実行して任意のvenvを作成します。 python3 -m venv /path/to/nicpse/project/your-venv-adktest <環境のパスを指定 venvを活性化してログインします。下記コマンド結果のようにvenvに入れましたらUbuntuの設定は完了です。 root@nicptestvsi:~# source /path/to/nicpse/project/your-venv-adktest/bin/activate (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~# ADKのインストール 以下コマンドを実行してADKをインストールします。ADKは6月時点で1.5.1が最新バージョンです。 (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~# pip install ibm-watsonx-orchestrate Collecting ibm-watsonx-orchestrate Downloading ibm_watsonx_orchestrate-1.5.1-py3-none-any.whl.metadata (1.4 kB) Collecting certifi>=2024.8.30 (from ibm-watsonx-orchestrate) Downloading certifi-2025.6.15-py3-none-any.whl.metadata (2.4 kB) Collecting click<8.2.0,>=8.0.0 (from ibm-watsonx-orchestrate) Downloading click-8.1.8-py3-none-any.whl.metadata (2.3 kB) Collecting docstring-parser<1.0,>=0.16 (from ibm-watsonx-orchestrate) Downloading docstring_parser-0.16-py3-none-any.whl.metadata (3.0 kB) Collecting httpx<1.0.0,>=0.28.1 (from ibm-watsonx-orchestrate) Downloading httpx-0.28.1-py3-none-any.whl.metadata (7.1 kB) ----中略---- (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~# orchestrate --version ADK Version: 1.5.1 ADKの環境設定 次にADKの環境設定を行います。watsonx OrchestrateのインスタンスIDが必要になるため、watsonx OrchestrateのSetting画面に入り確認します。下記画面をご参考にしてください。 環境設定コマンドはこちらになります。-nの後はvenv名を指定し、-uの後はインスタンスIDを指定します。 (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~# orchestrate env add -n <仮想環境名> -u <環境のインスタンスID> [INFO] - Environment 'my-name' has been created [INFO] - Existing environment with name 'nicpse' found. Would you like to update the environment 'nicpse'? (Y/n)y [INFO] - Environment 'nicpse' has been created 以下コマンドを実行して、IBM Cloud上のwatsonx Orchestrateと認証設定をします。APIキーの取得方法は「【てくさぽBLOG】IBM watsonx.aiを使ってみた(Part2)」のAPIキーの取得をご確認ください。尚、リモート環境に対する認証は2時間ごとに期限切れになります。期限が切れた場合は再度認証する必要があります。 (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~# orchestrate env activate nicpse --apikey <APIキー> [INFO] - Environment 'my-ibmcloud-saas-account' is now active [INFO] - Environment 'nicpse' is now active 下記コマンドを実行してCLIから利用できる環境のリストを表示します。IBM Cloud上のwatsonx Orchestrateがactiveとなっていました! (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~# orchestrate env list nicpse https://api.us-south.watson-orchestrate.cloud.ibm.com/instances/XXXXXXXX (active) local http://localhost:XXXX Toolとagentのインポート 次にToolとAgentのインポートを行います。ToolとはAgentがタスクを実行する際に利用する機能です。今回は、IBM様より共有いただいたyfinanceを活用したToolおよびAgentのコードを、ADKを用いてインポートします。なお、yfinanceはヤフーファイナンスから株価などの金融データを取得するためのPythonライブラリです。 最初にToolのインポートを行います。下記の様に、scpなどでToolファイルとrequirements.txtをディレクトリにアップロードしておきます。requirementsファイルは他のモジュールと依存関係がある場合使用します。 (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~/orchestrate_tool/py/source_02# ls -l total 12 -rw-r--r-- 1 root root 0 Jun 24 04:42 __init__.py drwxr-xr-x 2 root root 4096 Jun 24 04:38 __pycache__ -rw-rw-r-- 1 ubuntu ubuntu 8 Jun 24 03:02 requirements.txt -rw-rw-r-- 1 ubuntu ubuntu 1778 Jun 24 02:46 yfinance_agent.py 下記コマンドを実行してToolファイルとrequirementsファイルをインポートします。企業情報を取得するstock_infoと株価を取得するstock_quoteの2つのToolがインポートされました。 (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~/orchestrate_tool/py/source_02# orchestrate tools import -k python -f "./yfinance_agent.py" -r "./requirements.txt" [INFO] - Using requirement file: "./requirements.txt" [INFO] - Tool 'stock_info' imported successfully [INFO] - Tool 'stock_quote' imported successfully listコマンドを実行するとインポートされたToolを確認できます。 (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:# orchestrate tools list ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┳━━━━┳ ┃ Name ┃ Description ┃ Permission ┃ Type ┃ Toolkit ┃ App ID ┃ ┡━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╇━━━━╇ │───────────┼────────────┼── │ send_mail_brevo │ send a meil using Brevo. │ write_only │ python │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ ├─────────────────────────────────┼──── │ stock_quote │ 企業のTickerSymbolを用いて株価… │ read_only │ python │ │ │ ├─────────────────────────────────┼──── │ Untitled_6160RC │ No description │ read_only │ openapi │ │ │ ├─────────────────────────────────┼──── │ stock_info │ 企業のTickerSymbolを用いて企業… │ read_only │ python │ │ │ └─────────────────────────────────┴──── 次にAgentをインポートします。下記コマンドを実行します。 (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~/orchestrate_tool/py/source_02# orchestrate agents import -f ./yfinance_agent.yaml agent listコマンドでインポート済みのAgentを確認できました。Agentが使用するToolも表示されています。 (your-venv-adktest) # orchestrate agents list ┏━━━━━━━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━━━━━━━┳━━━━━━━━ ┃ Name ┃ Description ┃ LLM ┃ Style ┃ Collaborators ┃ Tools ┃ Knowledge Base ┃  ┡━━━━━━━━━━━━━━━╇━━━━━━━━━━━━━━━╇━━━━━━━━ │ yfinance_age… │ 企業の会社情… │ watsonx/meta- │ react │ │ stock_info, │ │ │ │ │ llama/llama-3 │ │ │ stock_quote │ │ ││ │ │ -2-90b-vision ││ │ -instruct │ │  IBM Cloud上のwatsonx Orchestrateで動作確認 インポートしたAgentとToolをIBM Cloud上のwatsonx Orchestrateで確認します。 watsonx Orchestrateへログインし、BuildからAgent Builderを選択します。 yfinanceエージェントが表示されているので、クリックします。 クリックすると、Agent作成画面に入ります。UIから基盤モデルを変更したり、Agentの振る舞いなど変更することができます。 スクロールして、Toolsetを確認するとADKからインポートしたToolが登録されています。 右のPreviewからAgentの動きを確認することができます。今回はDeployせずPreviewで確認します。入力欄には「IBMの株価は?」と質問してみます。しばらくすると本日の株価が回答されました。Show Reasoningを開くと推論過程を確認することができます。株価を取得するTool「stock_quote」を使用し、AIがユーザの入力から自動的にTicker symbolを入力していることがわかります。 次に「IBMの企業情報」と質問をします。しばらくするとAIがユーザの入力からTicker symbolを入力し、Tool「stock_info」を利用して企業情報を取得、回答されました。ユーザの入力内容からAgentが使用するToolを選択し、実行していることがわかります。   さいごに ADKのご紹介とADKを使ってToolとAgentのインポートを行いました。 ADKのインストールおよび設定について、Pythonバージョンの設定やvenvの作成でつまずく部分はありましたが、venvが作成できればその後の設定はスムーズに進められました。 今回はVSI上のUbuntuサーバにADKをインストールしましたが、ご自身の端末に導入することで、より気軽にAgent開発を行えるかと思います。なお、今回は検証対象外でしたが、watsonx Orchestrate Developer Editionを利用する場合は、インストール要件としてやや高めのスペックが必要になる点にご注意ください。 検証時のADKのバージョンは1.5.1でしたが、7月末では1.8.0が最新バージョンとなっています。比較的頻繁にアップデートされますので適宜Release Notesをご確認ください。バージョンアップでコマンドオプションも変更される場合があるため、マニュアルを確認するかコマンドに`--help`を付与してパラメータを確認することをおすすめします。   お問い合わせ この記事に関するご質問は以下の宛先までご連絡ください。 エヌアイシー・パートナーズ株式会社 技術企画本部 E-mail:nicp_support@NIandC.co.jp   .anchor{ display: block; margin-top:-20px; padding-top:40px; }

2025年07月11日

【参加レポート】Domino Hub 2025

公開日:2025-07-11 みなさまこんにちは。ソリューション企画部 松田です。 2025年6月19日・20日と2日間に渡って開催された「Domino Hub 2025」に参加しました。これは HCL Ambassador有志が企画・実行する Dominoコミュニティイベントです。去年に続き、今回が3回目の開催となります。 昨年同様、今回もエヌアイシー・パートナーズはスポンサーとしてご支援させていただき、両日参加いたしました。そのレポートをお送りします。 目次 イベント概要 セッション内容 - Domino 14.5 リリース 特徴的機能とライセンス改定 -ロードマップ -お客様事例:曽根田工業様 最後に 関連情報 お問い合わせ イベント概要 「Domino Hub」は、HCL Ambassadorが主宰となり、Dominoの利用者、開発者、ソリューションベンダーが一堂に会するコミュニティイベントです。今回は1日目がオンライン、2日目はオンサイトのみの開催でした。 特に2日目は参加率が非常に高かったとのことで、会場も大変盛況でした。結婚式場としても使われている今回の会場は、中庭から陽の光が差し込み、解放感があるラグジュアリーな空間で、一般的なビジネスミーティングよりも上質な雰囲気が感じられました。 併せて展示ブースも設置され、Dominoアプリケーションがスマートフォンやブラウザで使えるようになる「HCL Nomad」などのHCL製品とともに、様々なビジネスパートナー様の多彩な関連製品が数多く展示・紹介されていました。 セッション内容 2日間で全22セッションが行われました。セッションはHCLをはじめ、HCL Ambassadorから、様々な開発ベンダー、製品ベンダー、エンドユーザーからの事例紹介などのセッション、そしてパネルディスカッションがありました。まずHCLからのセッション内でのトピックをお伝えします。機能のみならずライセンスまわりで大きなニュースもありました。 Domino 14.5 リリース 特徴的機能とライセンス改定 Domino Hubの2日前、2025年6月17日にリリースされました。 Domino IQ 特徴的な機能で最も注目すべき、今回もご説明に時間を割かれていたのが「Domino IQ」です。 一言で言えば「Domino内にローカルでLLMを持たせ、蓄積されてきたDominoアプリ内の情報も取り込み、セキュアな環境で生成AIを用いた業務を実現する」ものです。 企業内業務で生成AIをどのように実装し利用していくかは今、皆様の大きな関心事項であられると思います。自社のDomino環境内で、Dominoアプリケーションを用い、Notesクライアントからそれが実現できることになります。 (画像クリックで拡大) Nomad for Web COM対応 またNomad for WebがCOMに対応したことにより、これまではNotesクライアントだけでしかできなかったExcelやPowerPointを埋め込んだDiminoアプリもブラウザから利用できるようになりました。 ライセンスダッシュボード:DLAUの統合 これまでGitHubからダウンロードしてセットアップしていたDomino License Analysis Utility (DLAU)がDomino内にデフォルトで統合され、The Domino License Administration (DLA) となりました。 (画像クリックで拡大) ライセンス改定 そしてライセンスにも大きなベネフィットが付加されました。CCB Termライセンスにはこれまで「Domino Leapで5アプリケーションまで開発・利用が可能」という権利が含まれていましたが、2025年7月1日からその制限がなくなりました。すなわち「2025年7月1日以後有効なCCB Termライセンスをお持ちのお客様は、Domino Leapのフル機能が利用できる」となります。 同時に、Domino Leapライセンスの利用範囲であるHCL Enterprise Integrator(HEI)の利用権利も含まれます。これでCCB Termライセンスのみで、追加費用なく「ブラウザによるノーコード/ローコード開発」「基幹業務とDominoアプリケーションの連携」が可能になります。 さらにCCB Termで利用できるSametime Chatで添付ファイルと画像添付も可能になりました。 ロードマップ Domino、Notes、Verse、Nomadなど各ソリューションについてのロードマップも紹介されました。先々の計画は出てこないものですが、このようにHCLから明確に提示されることにより、Dominoをお使いのお客様はこれからも安心して利用を継続していただけると思います。 Dominoのロードマップ(画像クリックで拡大) Notesのロードマップ(画像クリックで拡大) Nomad, VerseといったエンドユーザーのUI部分が短期間でバージョンアップされていく。(画像クリックで拡大) お客様事例:曽根田工業 様 Dominoユーザーの有限会社曽根田工業 代表取締役 曽根田 直樹 様より、Domino事例のご講演がありました。曽根田様は2001年に静岡県磐田市で個人で起業され、切削機械の刃物を製造されています。曽根田様のお話で非常に興味深かった部分を抜粋致します。 "独立・起業するにあたり、前職で使っていたNotes/Dominoを自社でも使うことにした。現在は大手メーカーからの発注依頼や過去に作った品番の再発注など数多く受けており、当時のCAD/CAMのデータや販売管理データなどをDominoに入れて運用している。 オンプレミス環境のリスクやセキュリティ、IT技術のトレンドに合わせてクラウド化を検討した場合、Dominoからは離れたほうがいいのではないか?と思い、他社SaaS製品も検討しトライアルで利用登録をした。 しばらく触れずにいたところ、アカウント情報に登録していた支払い口座から利用料の引き落としがされていなかったためアカウントが凍結、さらに保存していたデータも突然消去されてしまっていた。支払いが滞っただけで中身まで削除されてしまうようなシステムには会社の大事な資産であるデータを載せられないので、「Dominoを『やめることを止める』判断」をした。" Dominoから他製品への移行を検討され断念されるお客様は多く、その理由は「Dominoの業務アプリケーションを、サービス内容を落とさずに別プラットフォームに移行することがはなはだ困難である」ということをよくお聞きしますが、この点にも意外な理由が潜んでいました。 最後に 初の2年連続開催となった今年のDominoHubは、コミュニティの力を象徴するかのような盛り上がりを見せました。14.5のリリース、生成AIの実装、ライセンス強化など、今後のDominoの発展を確信させる要素が数多く披露されたほか、実際のユーザー事例も非常に示唆に富むものでした。加えてロードマップの提示による未来への安心感も得られました。 DominoHubは単なる情報共有の場に留まらず、技術、コミュニティ、そしてビジネスの未来を交差させる特別な場となっています。これからもこのような取り組みが継続していき、多くのDominoユーザー、デベロッパー、そして販売パートナーが更なる価値を引き出していけることを楽しみにしています。これからもDominoと私たちの未来を築いていきましょう。 関連情報 「Domino Hub」大阪開催 Domino Hubは、2025年9月18日に大阪でのオンサイト開催が決定致しました。詳細およびお申し込みについては、こちらのリンクからご確認ください。 お問い合わせ エヌアイシー・パートナーズ株式会社E-mail:voice_partners@niandc.co.jp   .highlighter { background: linear-gradient(transparent 50%, #ffff52 90% 90%, transparent 90%); } .anchor{ display: block; margin-top:-20px; padding-top:40px; } .btn_A{ height:30px; } .btn_A a{ display:block; width:100%; height:100%; text-decoration: none; background:#eb6100; text-align:center; border:1px solid #FFFFFF; color:#FFFFFF; font-size:16px; border-radius:50px; -webkit-border-radius:50px; -moz-border-radius:50px; box-shadow:0px 0px 0px 4px #eb6100; transition: all 0.5s ease; } .btn_A a:hover{ background:#f56500; color:#999999; margin-left:0px; margin-top:0px; box-shadow:0px 0px 0px 4px #f56500; } .bigger { font-size: larger; } figcaption { color: #7c7f78; font-size: smaller; }

back to top