ITトレンドとして「ハイブリッド・クラウド」という流れがありますが、一般的に「ハイブリッド」と言えば「ハイブリッドカー」が思い浮かぶのではないでしょうか。ということで、今回は、ITトレンドのハイブリッド・クラウドをハイブリッドカーの歴史を紐解くところから、考えていきたいと思います。やや強引ではございますが、お付き合いいただければ幸いです。
ハイブリッドカーの歴史
世界初の「量産ハイブリッドカー」として、1997年12月 プリウスは”21世紀に間に合いました“のキャッチコピーのもと、発売が開始されました。価格は、215万円、当時同じガソリン車の4ドアセダンと比較すると50万円ほど割高な価格設定でしたが、最新テクノロジー車としては破格の低価格で、補助金も追い風となり、販売台数を伸ばしました。
発売時点で欧米の自動車メーカーの反応は、非常に冷ややかなものでした。それは、「ハイブリッドカーはつなぎの技術」という認識で、次世代カーは、電気自動車や燃料電池車であり、ハイブリッド・カーには利点はないと考えられていました。
しかし、日本では、補助金の追い風、ホンダ、日産など、トヨタ以外の自動車メーカーの意欲的な追随、更に燃費が悪いのが当たり前だったミニバンへの搭載など、徐々に「環境にやさしい車」としての地位を築いていきました。また、アメリカでは、環境意識の高いハリウッドセレブたちがこぞってアカデミー賞の授賞式にプリウスで乗り付けるなど、欧米でも注目を集めるようになりました。
プリウス発売から遅れること10年、GM がシボレー・ボルトを、2009年にはメルセデス・ベンツが S400 ハイブリッドを発売しました。いまや、欧米メーカー各社からハイブリッドカーが、更に大型車や軽自動車にもハイブリッド技術が採用され、スタンダードなテクノロジーとして確立されていることは皆さんもご承知のとおりです。
クラウド・コンピューティングの流れ
さて、前置きが長くなりましたが、クラウド・コンピューティングの世界に話を移しましょう。
今、クラウド環境は、目覚ましい勢いで様々な企業に利用されています。日本でも大手銀行が大規模導入を発表するなど、大企業でのクラウドへの移行は更に加速するものとみられています。
料金体系のバリエーションが増え、アプリケーションをオンプレミスからクラウドに移行するツールの発達、また、ハイパー・コンバージド・システムなどの新たな技術がクラウド環境の構築や運用の簡略化の推進に貢献しています。
注目されるハイブリッド・クラウド
前述の自動車の世界では「ガソリン車から電気自動車/燃料電池車へ」と考えられている間に、現実解となるハイブリッドカーでプリウスが成功を収めました。
IT トレンドでも「オンプレミスのクラウド型 IT インフラか、パブリック・クラウドか」という二つの選択肢の中で自動車業界と同じようにやはり、「ハイブリッド・クラウド」が注目されています。「ハイブリッド・クラウド」とは、
”オンプレミスとパブリックという異種のクラウドを連携して使い分け、両者のメリットを最大限活用すること、およびそのための仕組み” 出展:IT Leaders【最終回】ハイブリッドクラウドはオンプレミスもクラウド型に変革 2015年12月22日 |
とのことです。プライベート、およびパブリックを上手く使い分け、そのメリットを享受することが今、常識といっても過言ではない状況になっています。しかしながら、クラウド導入の際に、オンプレミス型のクラウドか、パブリック・クラウドか、どちらを選択するか?という悩みは尽きません。日経クラウドファーストの記事によると “パブリッククラウドをコスト削減を目的に導入しようとして、実はかえって高コストになってしまった” というケースが多いとのことです。
参考: 日経クラウドファースト 「知らない間に高額請求、クラウド破産にご用心」 2017/02/22 |
上記の記事のように、先進企業でのクラウド利用が広がったことにより、各種クラウドのメリット・デメリットが見えてきています。
パブリック・クラウドを利用することで、構築を容易にし、短期間でアプリケーションをまわし始めることが可能になります。しかし、経験として、アプリケーションの成熟とともにかえってコストが高くなってしまう場合があるということがわかってきました。システムによっては、オンプレミス型のクラウドの方がコスト安となる場合があり、このことからも、パブリック、プライベートの両方の利用を最適化する「ハイブリッド・クラウド」は過渡期のつなぎの技術ではなく必然的な流れとしてとらえることが自然と考えられます。
ハイブリッド・クラウドの利用状況
「70%の企業が従来型ITとクラウドが混在した環境を今後も利用する」 と回答、
IBM 社の調査によると
“従来型ITとクラウドが混在した環境を今後も利用すると回答した企業が70%に及んでいる” 出展:『躍進するハイブリッドクラウド-デジタル変革を加速する- 』日本IBM 2016年2月 |
とのこと。クラウド環境のハイブリッド化は常識との認識より、企業がパブリック・クラウドとプライベート・クラウドの両方を採用する状況は今後も続くと考えられます。
ハイブリッド・クラウド利用で成果を挙げる企業
ハイブリッド・クラウドの利用で成果を挙げる企業でチェイサー(利用の初期段階)とフロントランナー(競争優位を獲得している先行企業)では、各領域においての成果の割合は2~4倍の差があります。
出展:『躍進するハイブリッドクラウド – デジタル変革を加速する -』日本IBM 2016年2月
先進企業とこれからチャレンジする企業とで大きく差があるのが「デジタル・ビジネスの推進」です。再び IBM 社の調査によると
“デジタル・リーチの重要性を認識しているフロントランナーの中で、ハイブリッド・クラウドを利用して付加価値を高めると同時に、プラットフォームを問わずシームレスなユーザー体験ができる新しいデジタル・サービスを提供する割合が、チェイサーに比べて 4 倍高いことが明らかになりました。
驚くべきことに、フロントランナーの 82 パーセントは、ハイブリッド・クラウドにおいて設定可能な API を組み合わせて用いることにより、製品やサービスの革新を迅速かつ頻繁に行っています。また、ハイブリッド・クラウドは、イノベーションのプロセスをワークフローの合理化を通じて加速することができます。” |
としており、デジタル・サービスを提供している企業が4倍多く、さらに製品サービスのイノベーションをハイブリッド・クラウドを活用して実現していることを物語っています。
オンプレミス型の既存 IT システムをパブリック・クラウドを経由して素早く API として公開するなど、デジタル・ビジネスを推進することが可能です。既存の企業情報資産を API として公開することにより、外部の開発者が自ら利用できるようになり、革新的なアイデアをアプリ化し、そのことにより新たな顧客体験を提供したり、企業のブランド価値を引き上げることができるのです。
まとめ
ハイブリッドカー、そしてクラウド・・・
前述のハイブリッドカーは当初、エンジン車から電気自動車や燃料電池車への移行の過渡期に出てきた技術のように思われていました。しかし、プリウスの成功により、電気自動車や燃料電池車への投資を推し進めていた欧米の自動車メーカーはハイブリッドカーへの投資を数歩遅れて開始し、後塵を拝しました。
もちろん、電気自動車や燃料電池車への切り替えは、益々進むと思われますが、ハイブリッドカーが一世を風靡したという、この流れは今の IT テクノロジーを考える上で示唆を与えてくれていると思います。
クラウド・コンピューティングのこれからは、既定路線としてハイブリッド・クラウドを見据え、その活用を検討することが重要です。また、レガシー・システムと新しいテクノロジーを理解した人材を確保し、適切に配置することもポイントとなるでしょう。
ハイブリッド・クラウドによって成果を挙げるには様々な領域でのアプローチが可能です。セキュリティや経験の少なさから二の足を踏んでしまっているのであれば、企業内の情報資産に目を向け、ハイブリッド・クラウドを活用し、安心して API を公開することで、新たな企業価値を生むことも一つの検討材料になるのではないでしょうか。
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