普段の製品・ソリューション紹介だけでは聞き出せない情報を「実際のところはどうなんだろう?」という素人視点で、専門家に聞いてみるシリーズです。
題して「実際どうでしょう」。。。どうぞ、ご覧ください。
今回は、以前動画撮影にご協力いただいたエバンジェリストの安井様にインタビューをさせていただきました。
<聞いてみて良かった(*´ω`*) メリひろ担当がエキスパートにインタビュー>
安井様は、大学の教壇でも活躍されており、1話では完結しないぐらいさまざまな引き出しをもっておられました。
IBM システムズ & テクノロジー・エバンジェリスト
日本アイ・ビー・エムに入社。当初は、旧藤沢事業所で生産管理に従事する。
その後、AS400の初期メンバーに参画し、2008年からPower Systemsのエバンジェリストとして活躍中。
新しいことをするのが好き。
「ビジネス用のコンピュータとは何か」を大学生に興味をもってもらおうと、大学の教壇に立ち、意欲的に活動をしている。
※2013年11月時点のプロフィールです。
大学での講義が実際のビジネスに役立っている
— 今回は、インタビューにご協力いただきありがとうございます。(インタビューアー:重山)
※以前は、「IBM i for Business Intelligence」という内容で動画撮影いただきました。
安井:動画の撮影も緊張しますが、インタビューも緊張しますね。
— インタビューでは、あらかじめ参考にいただいている資料を元に会話を膨らましていますので、気楽にお願いします。
まず、IBM iと急に入っても固くなってしまうので安井さんのプロフィールを教えてください。社会人当初より日本IBMにいらっしゃるのですか。
安井:はい。大学卒業後これまでずっと日本IBMで働いてきました。当初は、旧藤沢事業所で、生産管理に従事し、ジョブ・ローテーションの際に、AS/400の初期メンバーに参画しました。
その後、2008年からPower Systemsのエバンジェリストを担当しています。エバンジェリストという制度が始まったのも、ちょうどこの時期でエバンジェリストの中では1番の古株です。(笑)
また最近では、“アカデミック・イニシアティブ”というプログラムがあり、大学で講義をしたりしています。
— そのような制度があるのですね。大学ではどのような内容を教えているのですか。
安井:大学では、「ビジネス用のコンピュータとは何か」を理解してもらうのを目的にした授業を受け持っています。学生は日頃からPCやスマホには触れているが、社会人になると今までとは違うシステムに触れるので、その際にすぐに適応できる人材の育成を意識しているようです。
ビジネス用のコンピュータという意味では、その現場にいるということから、私に白羽の矢がたちました。当初はIBM iに早い段階で触ってもらおうとも思いましたが、製品機能を習得するよりも、ビジネス用のコンピュータの特徴とかあり方に興味を持ち理解してもらうことに主眼を置いています。
講座タイトルに「ビジネス」とあって、ちょうど就職活動を意識する学年を主な対象にしていることから、毎年100名を超える履修希望者がおり、手前味噌ではありますが人気講義の一つだと言っても良いかも知れません。(笑)
また、他の大学院で社会人にも教えていますが、少人数ではあっても社会人が自ら時間とお金を投資しているわけですから皆さん積極的で、質問やツッコミ何でもありの、雑談のような議論のような授業の進め方をしています。
ただカバーしなければならないポイントはありますので、それなりに時間調整には苦労しますが。
— 私は大学時代、情報系ではなかったので、その講義には興味があります。
大学の講義とエバンジェリストとしての2足のわらじは大変なイメージですが・・・
安井:よく大変でしょ?と言われますが、私もこれらの活動を通じて多くを学んでいます。
大学生はIBM i , System zやIBMのビジョンに無関係に生活している人たちです。例えば、以前「スマータープラネット」を学生に説明する機会がありましたが、学生にわかりやすい言葉や表現に希釈するため、それなりの手間隙をかけた事前の準備が欠かせません。
この時間は、私にとって良い学びとなり、その後の仕事でお客様とのコミュニケーションにおいても応用することができ、大学での講義は実はビジネスにも役立っています。
— では、大学生の立場にたって、質問させていただきます。(笑)
いただいた資料に「25年間継続されている設計思想」とありますが、ちょうど私が生まれたのと同時期ですね。それが今でも受け継がれているって、何だか感慨深いです。
安井:重山さん、若いですね。その設計思想に関しては、ご説明させていただきますね。
仮想化環境においても変わらない IBM i の価値
25年間継続されている設計思想
安井:変わらない設計思想とありますが、変わるものと変わらないものがあります。
— 奥が深そうですね。詳しく教えて下さい。
安井:はい。なるべくわかりやすくご説明させていただきます。
まず、IBM i は、フランク・ソルティスという技術者が設計したのですが、ソルティスは、“究極のビジネスコンピュータを作ろう”という思想のもと、テクノロジーやビジネスだけではなく哲学レベルで考えました。
その設計思想で変わらないものとして、下記の4点を代表的なものとしてあげることができます。
- アプリケーション資産継承
- 必要機能一式を統合
- 誤動作を防ぎセキュリティー向上
- パフォーマンス追求、ディスク管理の手間削減
まず、1点目「アプリケーション資産継承」です。
アプリケーションはテクノロジーの進化によって影響を受けやすいのですが、テクノロジーはどんどん進化しても、ビジネスは必ずしもそれと同期して変わるとは限りません。
ビジネス・プロセスとかそれを支えるアプリケーションの変更は、全く別の視点から行なわれるはずです。
そこで、テクノロジーとビジネスとを切り離すための両者間のクッションとして機能する、仮想的なマシンとでも呼ぶべき階層:
TIMI(Technology Independent Machine Interface)を導入する事を考えました。
これによって例えばプロセッサーのビット数が上がるといったような、土台になるテクノロジーの変更があったとしても、ユーザはアプリケーションの修正やリコンパイルをせずにそのまま利用することができます。
— PCでは32Bitから64Bitになると動かなくなるアプリがありますので、レベルが違うかも知れませんが、すごいなと思ってしまいます。
安井:ユーザから長く愛されているのはこの思想が貢献していると思います。
2点目は「必要機能一式を統合」です。
IBM iは今でこそ大きな拡張性を持っていますが、元々は中堅・中小のお客様をターゲットに開発されたシステムでした。そのようなお客様は必ずしも多くのシステム要員を抱えていませんから、導入後に「すぐに使える」というのはビジネスでは大事なポイントです。
また、サーバーとして求められる機能一式が、最初から製品の中に含まれていますから、万が一トラブルに見舞われたとしても、お客様はどのベンダーのどのモジュールに問題があるのかを、切り分けるために悩む必要がありません。
— スマホで言うとアップルのiPhoneのように製品のトータルの完成度を維持できる仕組みが品質やサポートに良い影響を与えるのですね。AS/400ユーザの安心感はこの“統合“が効いているのですね。
安井:そうですね、3点目が「誤動作を防ぎセキュリティー向上」です。
データにはすべて意味があります。それをコンピュータにも認識させることを思想として取り入れました。
例えば、データに「商品番号」と「価格」があるとします。消費税の計算をする場合に、価格ではなく商品番号の方に消費税をかける演算は人間ならしないですよね。
聞くと当たり前ですが、コンピュータにとって、文字列、数値はどちらも単なる0と1の並びにすぎず、データの意味は理解できません。データには意味があるとしてその属性を明確にし、実行できる演算内容(メソッド)をそこに紐付けるような仕組みを採用しました。
これは今で言うところの「オブジェクト指向」の考え方ですが、そのような言葉さえなかった時代にすでにこの考えを採用していました。
— データに意味を持たせることによって、誤作動を減らすという発想はなかなか思いつかない気がします。
安井:ビジネス用のコンピュータなので、経理、経営など、複数の部門が一台の上で同時に複数アプリケーションを動かすことになるので、この思想は重要です。
最後、4点目は「パフォーマンス追求」です。
近代のマシンにおいては、CPUの動作サイクルはナノ(10のマイナス9乗)セカンド以下、HDDはミリ(10のマイナス3乗)セカンド台のレスポンスです。
HDDはシステムの中ですごく遅いのです。最近になってSSDなどが普及してきましたが、当時はこのHDDに頼らないシステムを考えたのです。
つまり、できるだけメモリだけでアプリケーションを動かそう、それを効果的に行なうためにもHDDとメモリの区分けをなくそうという設計です。そしてこらら4つの点は、実際はAS/400の前身であるSystem/38からの思想なので、35年前からになりますね。
— うーん、すごいです。ここまでの設計思想を伺っていると、ハードウェア中心の考えではないのですね。
安井:その通りです。「マシン」の定義はハードウェアではなく、ソフトウェア的に構成されたマシンと考えたのです。
システム全体をこのように考えて作り上げられたマシンは、商用システムとしては他に例を見た事がありません。
— 本当に勉強になります。まだ、インタビューのスタートのつもりで「設計思想」をお伺いしたら、これほど深く、マシンとユーザについて考えられていたので感動しました。例えとして適切かどうかわかりませんが、「ロボット(工学)三原則」を聞いた時のように、最小限で完璧な組み合わせの思想だと思いました。
私自身はIBM i を使ったことは無いのですが、よく「とにかく壊れない、止まらない」と聞いていたので、ハードウェアとしての堅牢性が高いイメージを持っていましたが、それだけではなかったのですね。
安井:はい。IBM iには、もっと沢山の技術が盛り込まれており、進化し続けています。そして、どのような技術なのかという点に目が行き勝ちですが、設計者のソルティス博士もその著書の中で言っているように、どうしてその技術が実装されたのか? という根っこのところを理解する事も大事なのだと思います。
— 安井さんの講義を受けた学生も社会人になって、すごく助かっていると思いますよ。
安井:そうあってほしいです。(笑)
このように学生への講義でもマシンの歴史を話しているのですが、製品が世の中で長く使われる、市場で信頼を得るには「アプリケーション資産継承」が一番重要なのは揺らがないと思います。
— 次のテーマとして、「IBM iの運用コストの優位点」と「IBM iの今後」についてお伺いしていと思います。
両テーマとも、ここまでの設計思想を聞いておくと、その延長上の話としてわかりやすくなりそうです。
次回に続く
Vol.13 IT業界で25年継承される設計思想とは? その2
私は社内のインフラを管理する仕事にも携わっており、アプリケーションの資産継承の重要性を少しは理解しているつもりですが、ハード新調やOSのバージョンが変わってもアプリはそのまま使えるというのは、対費用効果の面でインパクトがあると思いました。