本格的なAI時代の到来で、企業にとってIT基盤の存在感はこれまで以上に重みを増しています。IBM Power11は、そうした時代の要請に応えるべく誕生した真のエンタープライズ・サーバーです。堅牢な信頼性と高い処理性能に加え、外付けカードIBM Spyre Acceleratorによって、地に足がついたAIワークロードをすぐに実装できる実用性を備えるに至っています。既に先行ユーザーは、大きな業務効率化の効果を体感しており、このサーバーは単なるハードウェアを超えて、次世代の標準基盤となる期待を集めています。
今回は、日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)テクノロジー事業本部 Powerテクニカル・セールス部長 釘井 睦和 氏をお迎えし、AI時代をリードするべくして誕生したIBM Power11の“覚悟”について伺いました。
出席者
ゲスト
| 日本アイ・ビー・エム株式会社 テクノロジー事業本部 Powerテクニカル・セールス部長 釘井 睦和 氏 |
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インタビュアー
| エヌアイシー・パートナーズ株式会社 技術企画本部 テクニカル・サポート部 部長 広橋 稔 |
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本格的なAI時代の到来で、さらに重みの増すIT基盤
広橋:
経営とITが不可分となった今日、企業のお客様が直面している課題としてどのようなものがあると考えておられますか。
釘井氏:
本格的にAIの時代が到来したことが非常に大きいと思います。企業競争力の維持を図る上で、もはや、AI活用を抜きに戦略を立てられないというところまで来ています。実践段階に入ってきたこともあり、アナリスト機関IDCによれば、これからはAIエージェントが自らアプリケーションを書くようになると予測されています。その結果、アプリケーションの数は爆発的に増加し、今後10億もの新しいアプリケーションが出現すると予測され、そのうち3分の1はAIによって開発される見込みです。こうなってくると、アプリケーションを支えるインフラは、これまでにないスピードと規模でアプリケーション増加への対応と高い可用性を求められます。計画停止すら許されないミッションクリティカルな業務が増えていくことでしょう。そのような世界では、油断をするとシステムのサイロ化やデータ爆発も起きやすくなるため、その対策も必要です。
その一方で、ランサムウェア攻撃を筆頭に、セキュリティリスクも劇的に高まっており、対策強化も喫緊の課題です。だからといって、ITばかりに予算を使うわけにはいきませんから、そこはコスト最適化を図る目線も要求されます。さらに、少子高齢化社会の進行で、IT人材も確保しづらい状況が続いているため、より少ない人員でより多くのことをカバーできるかといった観点での運用効率化も恒常的なテーマとなっています。つまり、今日の企業が対峙している課題は文字どおり山積しているといえます。
広橋:
確かに、日ごろパートナー企業やエンドユーザー企業のお悩みを聞く中で、こうしたお話はよく伺います。特にAI活用については、意欲を持ちつつも、プレッシャーも感じておられるようです。
AI時代のニーズに応える真のエンタープライズ・サーバー
釘井氏:
こうした中、今年登場したIBM Power11は、本格的なAI時代のニーズに応える、真のエンタープライズ・サーバーとして位置づけられています。このサーバーは、単なるハードウェアを超えたまさに“企業の中枢を支える基盤”として設計されており、Powerとして従来から定評のある堅牢性と可用性をさらに進化させつつ、計画停止をほぼ不要とする自律的な運用機能や強靭なセキュリティを標準装備しました。また、最新のDDR5メモリと強化されたI/Oアーキテクチャにより、高負荷のトランザクション処理や大規模データ解析なども余裕を持ってこなすとともに、AI推論も得意とします。IBM Power11は、企業がAI時代に向けて加速できるようIBMが考え抜いたフルスタックのイノベーションです。
広橋:
IBM Power11を特徴づけるキーワードをいくつか挙げていただけますか。
釘井氏:
一つは、「0」(ゼロ)です。これは、エンドツーエンドの自動化を実現し、計画的なダウンタイムを0にする、つまり、無停止運転を可能にすることを意味します。
従来はメンテナンスウィンドウを設けて実施していたファームウェア更新、I/Oアダプタ更新、仮想化ソフトウェア更新などを、IBM Power 11ではAutomated Platform Maintenance(APM、プラットフォーム自動保守)機能として、管理コンソールであるIBM Hardware Management Console(HMC)からワンクリックまたは準自動で実行可能です。環境をチェックする更新前準備、パッチ配布、ワークロードの退避・復帰を一連のフローで自動化できるため、停止せずに更新できるというわけです。
また、運用データを横断的に集約し、watsonxですぐに実行できる提案と自動化を結びつける、アプリケーション運用向けのAIオートメーション基盤 IBM Concertがあります。Concert for Powerでは、Powerインフラの脆弱性を検出して、現行バージョンに照らして優先度をAI算定、その後に推奨手順を提示し、必要に応じて更新をゼロ計画停止で実行するところまで担います。ここでいう実行とは、HMC/PowerVMが担う処理をConcertが呼び出して一気通貫に自動実行することを意味しています。
広橋:
サーバー停止は業務に支障を及ぼしかねず、利用部門や経営層からの圧力も大きいため、情報システム部門としてはなるべく回避したい運用ですから、安定して動き続けてくれるならそれに越したことはないですね。
釘井氏:
はい。もう1つのキーワードは「<1分」(1分未満)です。IBM Power 11では、1分未満でランサムウェアの脅威を検出し、自動応答とリカバリを実現します。ここで活躍するのが、IBM Power Cyber Vaultソリューションです。これは、IBM Power11サーバーとIBMストレージ(FlashSystem/DS8000)を核に、改ざん不能な隔離スナップショットを定期取得し、その健全性をチェックした上で、リカバリするというところまでを担うサイバー・レジリエンスソリューションです。実装に当たっては、IBM エキスパート・ラボが、高い品質のデリバリーとExpertise Connectと称する実装後のサポートを提供します。

広橋:
1分未満というのはリカバリまでが対象でしょうか。
釘井氏:
1分未満は、検出を対象としています。健全性のチェックや実際のリカバリにはもう少し時間がかかります。
広橋:
そうであっても、最近のランサムウェアは凶悪化の一途をたどっていますから、早く気づけることで、迅速な初動を取れそうですね。
IBM Spyre Acceleratorがすぐに使えるAIワークロードを提供
広橋:
IBM Power11では、プロセッサーという点でも、フラッグシップモデルでいうと、前世代が最大 240 コア構成までであったのに対して、最大256コア構成まで拡張でき、メモリやI/O に関しては、前世代は当初 DDR4 ベースの OMI-DDIMM でスタート。後にDDR5 も選べるようになったのに対し、IBM Power11 では DDR5 が前提に設計が最適化されました。IBM Power10+DDR4 構成比で、高負荷域でレイテンシが最大 15%改善されたと聞いています。
そして、何よりAIの機能が進化しましたね。IBM Power10では、CPUコア内に行列演算を担うMatrix Math Accelerator(MMA)を内蔵し、追加GPUなしでも推論を引き上げるアプローチであったのに対し、IBM Power11では、外付けカードである IBM Spyre Acceleratorが接続可能になりました。
釘井氏:
IBM Spyre Acceleratorは、IBM Power11の核心の一つといえるでしょう。これは、AI推論や生成AI、ensemble AIを実運用で支えるために設計されました。これまで、基幹業務サーバーとAI基盤は別々に構築されるケースが大半で、そこではデータ転送コストや、業務適用への遅延、セキュリティリスクの問題がありました。IBM Spyre Acceleratorはこのような分離状態を解消し、IBM Powerという一つの環境に統合し、基幹処理と低遅延推論を同じスタックで実現できるということになります。
そして、これが大きなポイントなのですが、IBM Spyre for Powerでは、サーバー上でAIカタログを提供します。そこには、例えばITサービスデスクアシスタントなど業界横断で利用できるAIワークロード、業界ごとに特化した、金融機関向け、製造業向けなどといったAIワークロードが並んでおり、次々クリックしていくだけでお客様企業に合ったAIワークロードを選択でき、しかもサーバー上でただちに実装できます。

広橋:
実装までできるのですか。私は言葉どおりカタログだと思っていました。本当にすぐに使えるAIですね。お客様にも大きなニュースとして受け止められそうです。これはIBM Power11ポートフォリオのすべてで利用できるのでしょうか。
釘井氏:
はい、IBM Spyre Acceleratorは、IBM Power Virtual Serverを除く、全ての機種でお使いいただけます。今のところ、カードの出荷は2025年12月を予定していますが、コンフィギュレーションは現時点でも作成していただくことが可能です。
先行ユーザー企業は、既に大きな業務効率向上効果を享受
釘井氏:
IBM Spyre Acceleratorの早期適用プログラムに参加されたお客様は、既に大きな業務効率向上を達成されています。例えば、Hans Geis社は、世界に190の拠点と8,000人以上の従業員を擁する大手物流プロバイダーで、基幹ERPシステムにIBM iを採用されています。同社は、電子メールで送られてきた注文情報を基幹システムに入力する業務をAIで実現。注文処理スピード5倍を達成されました。また、業務処理時間が80%削減し、従業員はより多くの注文を少ない労力で処理可能になったといいます。これにより、運用コストの削減とより高度な業務への人材活用も実現しました。
広橋:
IBM Spyre Acceleratorには、お客様企業の中核業務にフィットするAIワークロードが揃っているのですね。
釘井氏:
その通りです。今日、企業のお客様に「生成AIを使っておられますか」とお尋ねすると、多くが「使っています」と言われるようになりました。しかし、「それを業務のワークフローの中で活用されていますか」とお尋ねすると、なかなか手は挙がりません。IBM Powerの担当者としては、IBM Power11とIBM Spyre Acceleratorによって、AIの業務利用を浸透させていきたいと考えています。これらを使って、業務効率向上や意思決定の高度化、お客様体験の改善など、IBM Powerに蓄積された重要なデータを活用しながら、エンタープライズ用途にAIを導入していただき、企業競争力を加速していただきたいですね。保有データの特性からネットワーク越しのSaaSを利用するのに躊躇されていたお客様も、これなら安心してお使いいただけます。特に、金融機関、医療機関などセンシティブなデータをお持ちのお客様には最適なプラットフォームと確信しています。ぜひ引き続きご注目いただければと思います。
広橋:
釘井さん、ありがとうございました。エヌアイシー・パートナーズにおいても、IBM Power11はもちろんのこと、関連するIBMの運用効率化ソリューションや、システム全体のソリューション提案にさらに注力していきたいと考えています。また、IBM TechZoneの活用を始めとして、技術サポートや勉強会など、リセラー様がお客様へのご提案に必要な情報・スキルアップも合わせて支援いたしますので、ぜひお気軽にお声がけください。

