2017年07月

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クラウドとデザイン思考 Vol.1 ~そもそも最近よく聞くデザイン思考って何?~

最近「デザイン思考」という言葉をよく聞くようになってきました。IBM社が大量のデザイナーを採用していると話題となっています。そんな中、そろそろ「デザイン思考」って何?自社も取り組むべきなの?と、疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。

Wikipedia によると「デザイン思考」とは、

” デザイン思考(でざいんしこう、英: Design thinking)とは、デザイナーが
デザインを行う過程で用いる特有の認知的活動を指す言葉である。”

とのことですが、正直いいまして、私には全く理解できませんでした。

もう少しわかりやすい定義はないかと探してみますと、イノベーション創出サービスを提供する btrax の記事によると、

” 全てを “Why” から始め、最終的にイノベーションを創り出すプロセス”
出展: btrax, 「【やっぱりよくわからない】デザイン思考ってなに?

とあり、問いを元にイノベーションを創出するための過程とのことで、おぼろげにその概要が見えてきました。

しかし、これでもデザイン思考とは何なのかを理解するにはなかなか難しいと感じました。
そこで、最近よく聞くこの「デザイン思考」について書いてみたいと思います。

 

ユーザー中心の思考法からイノベーションを生み出す

 

思考法としての起源は1960年代後半にさかのぼるようです。ビジネスへの応用は、スタンフォード大学で、後に IDEO を創業するデビッド・ケリーによって開始されたと言われています。 ※ IDEO :カリフォルニア州パロアルトに本拠を置くデザインコンサルタント会社

デザイン思考の「デザイン」とは、いわゆる、デザイナーが絵を描いたり、色を塗ったりすることではありません。デザインには、「新しい機会を見つける為の問題解決プロセス」という定義もあり、デザイン思考においては、この意味になります。

デザイン思考のビジネス応用の研究をスタートさせたスタンフォード大学には d.school という学科横断型のプログラムがあります。機械工学、コンピュータサイエンス、ビジネス、法律、文学など様々な学部学科から学生や教職員が集結、デザイン思考を学びながら、分野を越えてイノベーションを生み出していく力を身につけています。

その d.School 発行のデザインガイドによるとデザイン思考には、5つのステップがあります。

DesignThinkingProcessImage_600px

デザイン思考、人間中心の協調的問題解決アプローチ

Step1: 共感(Empathize)    ・・・ 共感のためのヒアリング
Step2: 問題定義(Define)    ・・・ 本当に解決すべき問題を定義する
Step3: 創造(Ideate)       ・・・ 問題解決のアイデアを拡散させる
Step4: プロトタイプ(Prototype) ・・・学びを得るために試行する
Step5: テスト(Test)      ・・・ 解決策を改善し評価する

※ 上記のステップを繰り返し改善する

これらを進め、繰り返していくことで、既成概念を排除し、ユーザーに焦点を当てた商品やサービス、またチーム全員が同じ方向を目指して、デザインすることが可能となります。

デザイン思考において最も重要なことは、「ユーザーに焦点を当てる」ということです。とにかく、デザイン思考は、ユーザー中心、ユーザー・ドリヴンな思考法ということがポイントです。

 

なぜいまデザイン思考なのか?

 

それでは、なぜ今、デザイン思考が注目されているのでしょうか。

現在、グローバルエコノミーにおける先進企業は、生き残りをかけ、イノベーションを生み出し続けなければならい状況にあります。日本では、優等生とされていた大企業の没落、海外企業への身売りなど、これまでのビジネスモデルや製品サイクルが急激に変化する状況にあります。

日本のみならず、全世界的に新興国発の企業、またベンチャー企業などから攻勢を受け、競争も激化し、大胆に収益モデルの転換を余儀なくされています。

また、スマートフォンを始めとするテクノロジーはどんどん進化するものの、成熟した社会におていては、ヒット商品が生まれにくい状況にあります。単なる性能強化や機能の充実では消費者を満足させ続けられなくなってきています。

このような状況下において、顧客が真に欲するもの、顧客すら気づいていないニーズを掘り起こす、「イノベーションを生み出し続ける」ユーザー中心の思考法としてデザイン思考が注目されているのです。

 

IT 業界と「デザイン思考」

 

さて、それでは我々の IT 業界でのデザイン思考の浸透度はどのようなものになっているのでしょうか。

日経ビジネスオンラインによると IBM 社はグローバルで、

“2012年には375人にすぎなかったIBMの社内デザイナーの数は、2015年には1100人にまで増加。さらに2017年には1500人に増やす計画だ。”

出展: 日経ビジネスオンライン, 「米IBM、2017年にはデザイナー1500人体制へ」, 2016年7月28日

としており、デザイン思考を現場で実践するためのデザイナーを相当な勢いで増やしています。

また、

“独ソフトウェア大手SAPも変革の手段としてデザイン思考を活用したグローバル企業です。直近5年で全世界の売り上げを1.4兆円から2.7兆円まで2倍近く伸ばした背景に、デザイン思考がありました。”

出展: Forbes, 「世界的企業は今、なぜ「デザインx経営」なのか?」, 2017年3月29日

とあり、SAP は、デザイン思考によって既に結果を出している企業の一つとのことです。余談ではありますが、スタンフォード大学の d.School は、SAP 創始者のハッソ・プラットナーの個人の寄付により設立されたことからも早い段階から SAP がデザイン思考に注目していたことがわかります。

Salesforce 社でも Ignite と呼ばれるデザイン思考の専門支援チームが、顧客のためのデジタル・トランスフォーメーションのビジョン作りを支援しています。

例を挙げるときりがないほど、多くの IT 企業でデザイナーが活躍し、デザイン思考が活用されていることがわかります。

 

以下は Techcrunch が、IT関連企業でのデザイナーの需要はこれまでになく高まっているとし、6社でのザイナーとディベロッパーの比率を割り出したもののまとめです。
明らかに、IT 関連大手企業でのデザイナーの採用が増えていることがわかります。

Atlassian Dropbox Intercom
2012年 2017年
1:25 → 1:9
2013年 2017年
1:10 → 1:6
2017年
1:5
LinkedIn Uber IBM
2010年 2017年
1:11 → 1:8
2017年
1:8
2012年 2017年
1:72 → 1:8

出典: Techcrunch, 「過去5年間でデザイナーの採用目標が倍増―
―大手6社のデータに見るデザイン人材の動向,
2017年6月2日

 

 

とは言ってもデザイン思考ってそんなに簡単なの?

 

それでは、デザイン思考を日本の IT 企業が実践していくことは、簡単なのでしょうか。

これは、「その会社による」としか言えません。

 

単純に「デザイナー」と呼ばれる方を社員として迎えたり、プロジェクトごとに配置したりすれば成功するようなものでもありません。前述の d.School がまとめた「デザイン思考に必要な39のメソッド」では、その題名だけからも 39 ものメソッドが必要というこで、その難しさを物語っています。

日本でもデザイン思考を大学で教えたり、研修が受けられるようになったりしてきました。しかし、短期研修ではなかなか上手く実践するところまで到達するのは難しく、また大学で勉強してきたとしても受け入れ側の態勢が整っていない、というのが現状のようです。

 

そこでまずは、自社が「デザイン思考」のメリットを享受しやすい文化にあるか?というところからチェックしてみるのはいかがでしょうか。

<デザイン思考のための社風チェック>

  • 行動よりも先にリスクに目が行ってしまう
  • 製品開発は、プロセスごとに縦割り、分業で、企画から製造までメンバーが共に創っている感覚がない
  • ユーザーの声を傾聴するよりもコントロールすべきだと考えている
  • ブレーンストーミングをやったことがない、やっても上手くいかない
  • 会議ではいつも決まった人が発言している

上記に一つでも当てはまることがあれば、デザイン思考を実践する前に自社のマインドセットを切り替えに注目した方がよいかもしれません。

 

多くのデザイナーを採用している IBM 社であっても、デザイン思考の導入には以下のようなアプローチを踏んでいます。

” IBMは巨大かつ複雑な組織で、製品のテクノロジーも複雑です。デザイナーが入社後、それぞれのチームに入る前に“橋”をかけるようなサポートを行う必要がありました。現在、新たなデザイナーに対して3カ月のブートキャンプ・プログラムを実施していますが、私は、その設計と運営、管理を行いました。

また、このデザイナー向けのプログラムを実施していく中で、IBM全社員に対しても、デザイン及びデザイン思考について教育を行い、会社を変化させないといけないことがわかりました。なぜなら、全社員も、企業としてどのような方向に変化していくのかを知る必要がありますから。

そこで一人でも多くのIBM社員がデザイン及びデザイン思考を体験し理解するための教育プログラムをつくりました。デザイナー向けから全社員向けに、私の役割はここ数年でこうした変化を遂げてきました。”

出典: Forbes,  「IBMがデザイナーを1000人雇い、デザイン思考を推める理由」, 2017年3月24日

 

まずは、デザイン思考を知り、この思考法を社内で展開できる雰囲気か判断し、そうでなければまずは、その目的づけ、会議や打ち合わせのやり方、ユーザーとの接し方、縦割りのプロセスなどを見直すところから始めてみてはいかがでしょうか。

いきなり、「デザイン思考」ありきからスタートすると、単なる思考法マニュアルになってしまい、「デザイン思考でやってみたが何も起こらない」となってしまう可能性があります。

それでは、デザイン思考そのものの恩恵を十分享受し、真のイノベーションに到達することは難しいでしょう。

 

クラウドとデザイン思考

 

では、具体的に何か製品開発にデザイン思考を応用した例はないかと探してみると、身近な良い例がありました。それはBluemix です。Bluemix はデザイン思考を元に開発された製品なのです。

”The Bluemix team used IBM Design Thinking to focus on users—not functions or capabilities—with the goal of letting developers focus on their work, rather than on infrastructure and configuration.

【抄訳】Bluemix チームは、IBM デザイン・シンキングを使用して、インフラやコンフィグではなく、開発者が自分の仕事に集中できるように、「ユーザー」~ 機能や能力ではない ~ に焦点を当てました。”
出展: IBM Design, 「Case study: IBM Bluemix」, 2014年7月17日

また、当プロジェクトでは、多くの人数と時間をユーザーとの時間に費やし、マネジメント、エンジニアリング、設計、マーケティングに至るまで、一同が関わり、共創することで、計画より半年以上前倒しして、Bluemix を完成させることができたとのことです。

ここでは、多くを触れませんが、このような形で、IBM 社のクラウド戦略の根幹をなす製品開発にデザイン思考が活用され、成果が出ていることがわかります。

 

Bluemix でのケーススタディでもわかる通り、イノベーションのプラットフォームとしてのクラウド活用が今後進んでいくことは間違いないでしょう。それは、Bluemix の特長を例にとると、

  • 100以上のサービス連携が提供される
  • これらの組み合わせで、より早く幅広いアプリケーションを作ることが容易
  • 使用インスタンス等で課金されるため都度必要な分のコストで小さく始められる

など、デザイン思考のような、プロトタイピングを重視する早期実行型の思考法にマッチしやすいと考えられるからです。

今後は、IT企業だけではなく、別業態からもクラウドを中心にイノベーションを進めていく企業がどんどん増えるはずです。これらの企業や迎え撃つ既存の IT企業の開発者は、サーバー構築や運用の労力にとらわれず、プログラミングに集中できるBluemix をベースに新たなサービスを模索したり、構築を進めたりすることは自然な選択ではないでしょうか。

更に、デザイン思考をベースに開発された Bluemix 上で、デザイン思考を活用し、イノベーションを実現する、これらは非常に相性の良い組み合わせかと容易に想像できます。

 

今後もデザイン思考の取り組みにも注目していただければ幸いです。次回は「デザイン思考導入を阻むもの」について考えてみたいと思います。

 

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2025年08月04日

【てくさぽBLOG】IBM watsonx OrchestrateのADKを使ってみた

こんにちは。 てくさぽBLOGメンバーの高村です。 早速ですが、今年5月に開催されたIBMの年次イベント「Think2025」で、watsonx Orchestrateの新機能が発表されました!その中の一つとして、開発者向けの「Agent Development Kit(以下、ADK)」があります。今回はこのADKを活用し、watsonx Orchestrate環境への接続やエージェントの追加といった操作を行い、その使用感をご紹介します。  なお、watsonx Orchestrateについては、今年2月、3月に公開した「watsonx OrchestrateやってみたBLOG」でご紹介しておりますので、是非こちらもご一読ください。 【てくさぽBLOG】IBM watsonx Orchestrateを使ってみた(Part1) 【てくさぽBLOG】IBM watsonx Orchestrateを使ってみた(Part2) 目次 はじめに ADKとは? ADK使ってみた さいごに お問い合わせ はじめに Think2025で発表された新機能は、6月に環境へ追加されました。それ以前の環境とは、メニュー構成や操作方法、機能名称に変更があります。 例えばこれまで「Skill」と呼ばれていたものが「Tool」へと名称変更されています。 アップデート後の環境につきましては、別ブログにて改めて詳しくご紹介させていただく予定ですので、ぜひご期待ください! ADKとは? まずはADKについてご紹介します。ADKとは開発者向けにwatsonx OrchestrateのAgentやToolをスクラッチ開発するための開発キットになります。ローカル端末などに導入し、pythonベースで開発を行うことができます。 また、ADKとは別に、watsonx Orchestrate Developer Editionをローカル端末に導入することで、ADKで開発したAgentやToolのテストが可能になります。なお、watsonx Orchestrate Developer EditionはDockerコンテナ上で動作し、現時点のハードウェア要件はCPUは最小8コア、メモリは最小16GBが必要です。詳細はInstalling the watsonx Orchestrate Developer Editionをご確認ください。   ADKとwatsonx Orchestrate Developer Editionを利用することで、コードの迅速な作成・修正や柔軟なカスタマイズに加え、環境へのデプロイ前にローカルでテスト・修正が可能となり、作業効率の向上が期待できます。 ADK使ってみた 前述ではADKでAgent開発し、watsonx Orchestrate Developer Editionで動作確認、SaaS watsonx Orchestrateへインポートする構築の流れをお話しましたが、今回の検証における動作確認は検証環境として利用しているIBM Cloud 上のwatsonx Orchestrate利用します。よって前述したwatsonx Orchestrate Developer Editionは利用せず、ADKからwatsonx Orchestrate検証環境へAgentとToolを直接インポートし、動作確認を行いたいと思います。また、ADKのインストール先は自分の端末ではなく、IBM Cloud上に構築したUbuntuのVirtual Server Instance(以下、VSI)を使用します。検証環境の構成イメージは下記の図の通りです。 尚、ADKのインストール要件はPython 3.11以上、Pip、そして仮想環境(以下venv)が必要です。詳細については、Getting started with the ADKをご確認ください。 それでは早速使ってみましょう! VSIのプロビジョニング まずはADKをインストールするVSIをプロビジョニングします。本ブログではプロビジョニング方法について詳しく記載いたしませんが、手順は「【てくさぽBLOG】IBM Power Virtual ServerのAIX環境とIBM Cloud Object Storageを接続してみた(Part1)」のVSI for VPCの作成をご参考ください。 OSはUbuntu 22.04 LTS Jammy Jellyfish Minimal Install、リソースは2vCPU,4GB RAMで作成しました。VSI作成時にSSH鍵が必要なるので作成を忘れないようにしてください。 作成すると数分で起動します。端末からSSHログインするため浮動IPが必要になります。赤枠で囲った浮動IPを作成しインスタンスに紐づけします。以上でVSIの作成は完了です。 Ubuntuの設定 ターミナルを開きsshでUbuntuにログインします。私はWindowsのコマンドプロンプトを使用しました。Ubuntuユーザでログイン後、rootパスワードを設定し、スイッチできるようにします。 ubuntu@nicptestvsi:~$ sudo passwd root New password: Retype new password: passwd: password updated successfully ubuntu@nicptestvsi:~$ su - pythonのバージョンを確認したところ3.10.12でした。ADKの要件は3.11以上ですので、バージョンアップが必要になります。最初は3.13にバージョンアップしてみたのですが、後続作業と最新バージョンではパッケージが合わなかったのかうまく動かず…仕切り直して3.11を利用することにしました! root@nicptestvsi:~# apt install python3.11 バージョンアップ後、デフォルトバージョンとして3.11を指定します。 root@nicptestvsi:~# sudo update-alternatives --install /usr/bin/python3 python3 /usr/bin/python3.10 1 sudo update-alternatives --install /usr/bin/python3 python3 /usr/bin/python3.11 2 sudo update-alternatives --config python3 update-alternatives: using /usr/bin/python3.10 to provide /usr/bin/python3 (python3) in auto mode update-alternatives: using /usr/bin/python3.11 to provide /usr/bin/python3 (python3) in auto mode There are 2 choices for the alternative python3 (providing /usr/bin/python3).Selection Path Priority Status ------------------------------------------------------------ * 0 /usr/bin/python3.11 2 auto mode 1 /usr/bin/python3.10 1 manual mode 2 /usr/bin/python3.11 2 manual modePress <enter> to keep the current choice[*], or type selection number: 2 root@nicptestvsi:~# root@nicptestvsi:~# python3 --version Python 3.11.13 次に下記コマンドを実行して任意のvenvを作成します。 python3 -m venv /path/to/nicpse/project/your-venv-adktest <環境のパスを指定 venvを活性化してログインします。下記コマンド結果のようにvenvに入れましたらUbuntuの設定は完了です。 root@nicptestvsi:~# source /path/to/nicpse/project/your-venv-adktest/bin/activate (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~# ADKのインストール 以下コマンドを実行してADKをインストールします。ADKは6月時点で1.5.1が最新バージョンです。 (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~# pip install ibm-watsonx-orchestrate Collecting ibm-watsonx-orchestrate Downloading ibm_watsonx_orchestrate-1.5.1-py3-none-any.whl.metadata (1.4 kB) Collecting certifi>=2024.8.30 (from ibm-watsonx-orchestrate) Downloading certifi-2025.6.15-py3-none-any.whl.metadata (2.4 kB) Collecting click<8.2.0,>=8.0.0 (from ibm-watsonx-orchestrate) Downloading click-8.1.8-py3-none-any.whl.metadata (2.3 kB) Collecting docstring-parser<1.0,>=0.16 (from ibm-watsonx-orchestrate) Downloading docstring_parser-0.16-py3-none-any.whl.metadata (3.0 kB) Collecting httpx<1.0.0,>=0.28.1 (from ibm-watsonx-orchestrate) Downloading httpx-0.28.1-py3-none-any.whl.metadata (7.1 kB) ----中略---- (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~# orchestrate --version ADK Version: 1.5.1 ADKの環境設定 次にADKの環境設定を行います。watsonx OrchestrateのインスタンスIDが必要になるため、watsonx OrchestrateのSetting画面に入り確認します。下記画面をご参考にしてください。 環境設定コマンドはこちらになります。-nの後はvenv名を指定し、-uの後はインスタンスIDを指定します。 (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~# orchestrate env add -n <仮想環境名> -u <環境のインスタンスID> [INFO] - Environment 'my-name' has been created [INFO] - Existing environment with name 'nicpse' found. Would you like to update the environment 'nicpse'? (Y/n)y [INFO] - Environment 'nicpse' has been created 以下コマンドを実行して、IBM Cloud上のwatsonx Orchestrateと認証設定をします。APIキーの取得方法は「【てくさぽBLOG】IBM watsonx.aiを使ってみた(Part2)」のAPIキーの取得をご確認ください。尚、リモート環境に対する認証は2時間ごとに期限切れになります。期限が切れた場合は再度認証する必要があります。 (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~# orchestrate env activate nicpse --apikey <APIキー> [INFO] - Environment 'my-ibmcloud-saas-account' is now active [INFO] - Environment 'nicpse' is now active 下記コマンドを実行してCLIから利用できる環境のリストを表示します。IBM Cloud上のwatsonx Orchestrateがactiveとなっていました! (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~# orchestrate env list nicpse https://api.us-south.watson-orchestrate.cloud.ibm.com/instances/XXXXXXXX (active) local http://localhost:XXXX Toolとagentのインポート 次にToolとAgentのインポートを行います。ToolとはAgentがタスクを実行する際に利用する機能です。今回は、IBM様より共有いただいたyfinanceを活用したToolおよびAgentのコードを、ADKを用いてインポートします。なお、yfinanceはヤフーファイナンスから株価などの金融データを取得するためのPythonライブラリです。 最初にToolのインポートを行います。下記の様に、scpなどでToolファイルとrequirements.txtをディレクトリにアップロードしておきます。requirementsファイルは他のモジュールと依存関係がある場合使用します。 (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~/orchestrate_tool/py/source_02# ls -l total 12 -rw-r--r-- 1 root root 0 Jun 24 04:42 __init__.py drwxr-xr-x 2 root root 4096 Jun 24 04:38 __pycache__ -rw-rw-r-- 1 ubuntu ubuntu 8 Jun 24 03:02 requirements.txt -rw-rw-r-- 1 ubuntu ubuntu 1778 Jun 24 02:46 yfinance_agent.py 下記コマンドを実行してToolファイルとrequirementsファイルをインポートします。企業情報を取得するstock_infoと株価を取得するstock_quoteの2つのToolがインポートされました。 (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~/orchestrate_tool/py/source_02# orchestrate tools import -k python -f "./yfinance_agent.py" -r "./requirements.txt" [INFO] - Using requirement file: "./requirements.txt" [INFO] - Tool 'stock_info' imported successfully [INFO] - Tool 'stock_quote' imported successfully listコマンドを実行するとインポートされたToolを確認できます。 (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:# orchestrate tools list ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┳━━━━┳ ┃ Name ┃ Description ┃ Permission ┃ Type ┃ Toolkit ┃ App ID ┃ ┡━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╇━━━━╇ │───────────┼────────────┼── │ send_mail_brevo │ send a meil using Brevo. │ write_only │ python │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ ├─────────────────────────────────┼──── │ stock_quote │ 企業のTickerSymbolを用いて株価… │ read_only │ python │ │ │ ├─────────────────────────────────┼──── │ Untitled_6160RC │ No description │ read_only │ openapi │ │ │ ├─────────────────────────────────┼──── │ stock_info │ 企業のTickerSymbolを用いて企業… │ read_only │ python │ │ │ └─────────────────────────────────┴──── 次にAgentをインポートします。下記コマンドを実行します。 (your-venv-adktest) root@nicptestvsi:~/orchestrate_tool/py/source_02# orchestrate agents import -f ./yfinance_agent.yaml agent listコマンドでインポート済みのAgentを確認できました。Agentが使用するToolも表示されています。 (your-venv-adktest) # orchestrate agents list ┏━━━━━━━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━━━━━━━┳━━━━━━━━ ┃ Name ┃ Description ┃ LLM ┃ Style ┃ Collaborators ┃ Tools ┃ Knowledge Base ┃  ┡━━━━━━━━━━━━━━━╇━━━━━━━━━━━━━━━╇━━━━━━━━ │ yfinance_age… │ 企業の会社情… │ watsonx/meta- │ react │ │ stock_info, │ │ │ │ │ llama/llama-3 │ │ │ stock_quote │ │ ││ │ │ -2-90b-vision ││ │ -instruct │ │  IBM Cloud上のwatsonx Orchestrateで動作確認 インポートしたAgentとToolをIBM Cloud上のwatsonx Orchestrateで確認します。 watsonx Orchestrateへログインし、BuildからAgent Builderを選択します。 yfinanceエージェントが表示されているので、クリックします。 クリックすると、Agent作成画面に入ります。UIから基盤モデルを変更したり、Agentの振る舞いなど変更することができます。 スクロールして、Toolsetを確認するとADKからインポートしたToolが登録されています。 右のPreviewからAgentの動きを確認することができます。今回はDeployせずPreviewで確認します。入力欄には「IBMの株価は?」と質問してみます。しばらくすると本日の株価が回答されました。Show Reasoningを開くと推論過程を確認することができます。株価を取得するTool「stock_quote」を使用し、AIがユーザの入力から自動的にTicker symbolを入力していることがわかります。 次に「IBMの企業情報」と質問をします。しばらくするとAIがユーザの入力からTicker symbolを入力し、Tool「stock_info」を利用して企業情報を取得、回答されました。ユーザの入力内容からAgentが使用するToolを選択し、実行していることがわかります。   さいごに ADKのご紹介とADKを使ってToolとAgentのインポートを行いました。 ADKのインストールおよび設定について、Pythonバージョンの設定やvenvの作成でつまずく部分はありましたが、venvが作成できればその後の設定はスムーズに進められました。 今回はVSI上のUbuntuサーバにADKをインストールしましたが、ご自身の端末に導入することで、より気軽にAgent開発を行えるかと思います。なお、今回は検証対象外でしたが、watsonx Orchestrate Developer Editionを利用する場合は、インストール要件としてやや高めのスペックが必要になる点にご注意ください。 検証時のADKのバージョンは1.5.1でしたが、7月末では1.8.0が最新バージョンとなっています。比較的頻繁にアップデートされますので適宜Release Notesをご確認ください。バージョンアップでコマンドオプションも変更される場合があるため、マニュアルを確認するかコマンドに`--help`を付与してパラメータを確認することをおすすめします。   お問い合わせ この記事に関するご質問は以下の宛先までご連絡ください。 エヌアイシー・パートナーズ株式会社 技術企画本部 E-mail:nicp_support@NIandC.co.jp   .anchor{ display: block; margin-top:-20px; padding-top:40px; }

2025年07月11日

【参加レポート】Domino Hub 2025

公開日:2025-07-11 みなさまこんにちは。ソリューション企画部 松田です。 2025年6月19日・20日と2日間に渡って開催された「Domino Hub 2025」に参加しました。これは HCL Ambassador有志が企画・実行する Dominoコミュニティイベントです。去年に続き、今回が3回目の開催となります。 昨年同様、今回もエヌアイシー・パートナーズはスポンサーとしてご支援させていただき、両日参加いたしました。そのレポートをお送りします。 目次 イベント概要 セッション内容 - Domino 14.5 リリース 特徴的機能とライセンス改定 -ロードマップ -お客様事例:曽根田工業様 最後に 関連情報 お問い合わせ イベント概要 「Domino Hub」は、HCL Ambassadorが主宰となり、Dominoの利用者、開発者、ソリューションベンダーが一堂に会するコミュニティイベントです。今回は1日目がオンライン、2日目はオンサイトのみの開催でした。 特に2日目は参加率が非常に高かったとのことで、会場も大変盛況でした。結婚式場としても使われている今回の会場は、中庭から陽の光が差し込み、解放感があるラグジュアリーな空間で、一般的なビジネスミーティングよりも上質な雰囲気が感じられました。 併せて展示ブースも設置され、Dominoアプリケーションがスマートフォンやブラウザで使えるようになる「HCL Nomad」などのHCL製品とともに、様々なビジネスパートナー様の多彩な関連製品が数多く展示・紹介されていました。 セッション内容 2日間で全22セッションが行われました。セッションはHCLをはじめ、HCL Ambassadorから、様々な開発ベンダー、製品ベンダー、エンドユーザーからの事例紹介などのセッション、そしてパネルディスカッションがありました。まずHCLからのセッション内でのトピックをお伝えします。機能のみならずライセンスまわりで大きなニュースもありました。 Domino 14.5 リリース 特徴的機能とライセンス改定 Domino Hubの2日前、2025年6月17日にリリースされました。 Domino IQ 特徴的な機能で最も注目すべき、今回もご説明に時間を割かれていたのが「Domino IQ」です。 一言で言えば「Domino内にローカルでLLMを持たせ、蓄積されてきたDominoアプリ内の情報も取り込み、セキュアな環境で生成AIを用いた業務を実現する」ものです。 企業内業務で生成AIをどのように実装し利用していくかは今、皆様の大きな関心事項であられると思います。自社のDomino環境内で、Dominoアプリケーションを用い、Notesクライアントからそれが実現できることになります。 (画像クリックで拡大) Nomad for Web COM対応 またNomad for WebがCOMに対応したことにより、これまではNotesクライアントだけでしかできなかったExcelやPowerPointを埋め込んだDiminoアプリもブラウザから利用できるようになりました。 ライセンスダッシュボード:DLAUの統合 これまでGitHubからダウンロードしてセットアップしていたDomino License Analysis Utility (DLAU)がDomino内にデフォルトで統合され、The Domino License Administration (DLA) となりました。 (画像クリックで拡大) ライセンス改定 そしてライセンスにも大きなベネフィットが付加されました。CCB Termライセンスにはこれまで「Domino Leapで5アプリケーションまで開発・利用が可能」という権利が含まれていましたが、2025年7月1日からその制限がなくなりました。すなわち「2025年7月1日以後有効なCCB Termライセンスをお持ちのお客様は、Domino Leapのフル機能が利用できる」となります。 同時に、Domino Leapライセンスの利用範囲であるHCL Enterprise Integrator(HEI)の利用権利も含まれます。これでCCB Termライセンスのみで、追加費用なく「ブラウザによるノーコード/ローコード開発」「基幹業務とDominoアプリケーションの連携」が可能になります。 さらにCCB Termで利用できるSametime Chatで添付ファイルと画像添付も可能になりました。 ロードマップ Domino、Notes、Verse、Nomadなど各ソリューションについてのロードマップも紹介されました。先々の計画は出てこないものですが、このようにHCLから明確に提示されることにより、Dominoをお使いのお客様はこれからも安心して利用を継続していただけると思います。 Dominoのロードマップ(画像クリックで拡大) Notesのロードマップ(画像クリックで拡大) Nomad, VerseといったエンドユーザーのUI部分が短期間でバージョンアップされていく。(画像クリックで拡大) お客様事例:曽根田工業 様 Dominoユーザーの有限会社曽根田工業 代表取締役 曽根田 直樹 様より、Domino事例のご講演がありました。曽根田様は2001年に静岡県磐田市で個人で起業され、切削機械の刃物を製造されています。曽根田様のお話で非常に興味深かった部分を抜粋致します。 "独立・起業するにあたり、前職で使っていたNotes/Dominoを自社でも使うことにした。現在は大手メーカーからの発注依頼や過去に作った品番の再発注など数多く受けており、当時のCAD/CAMのデータや販売管理データなどをDominoに入れて運用している。 オンプレミス環境のリスクやセキュリティ、IT技術のトレンドに合わせてクラウド化を検討した場合、Dominoからは離れたほうがいいのではないか?と思い、他社SaaS製品も検討しトライアルで利用登録をした。 しばらく触れずにいたところ、アカウント情報に登録していた支払い口座から利用料の引き落としがされていなかったためアカウントが凍結、さらに保存していたデータも突然消去されてしまっていた。支払いが滞っただけで中身まで削除されてしまうようなシステムには会社の大事な資産であるデータを載せられないので、「Dominoを『やめることを止める』判断」をした。" Dominoから他製品への移行を検討され断念されるお客様は多く、その理由は「Dominoの業務アプリケーションを、サービス内容を落とさずに別プラットフォームに移行することがはなはだ困難である」ということをよくお聞きしますが、この点にも意外な理由が潜んでいました。 最後に 初の2年連続開催となった今年のDominoHubは、コミュニティの力を象徴するかのような盛り上がりを見せました。14.5のリリース、生成AIの実装、ライセンス強化など、今後のDominoの発展を確信させる要素が数多く披露されたほか、実際のユーザー事例も非常に示唆に富むものでした。加えてロードマップの提示による未来への安心感も得られました。 DominoHubは単なる情報共有の場に留まらず、技術、コミュニティ、そしてビジネスの未来を交差させる特別な場となっています。これからもこのような取り組みが継続していき、多くのDominoユーザー、デベロッパー、そして販売パートナーが更なる価値を引き出していけることを楽しみにしています。これからもDominoと私たちの未来を築いていきましょう。 関連情報 「Domino Hub」大阪開催 Domino Hubは、2025年9月18日に大阪でのオンサイト開催が決定致しました。詳細およびお申し込みについては、こちらのリンクからご確認ください。 お問い合わせ エヌアイシー・パートナーズ株式会社E-mail:voice_partners@niandc.co.jp   .highlighter { background: linear-gradient(transparent 50%, #ffff52 90% 90%, transparent 90%); } .anchor{ display: block; margin-top:-20px; padding-top:40px; } .btn_A{ height:30px; } .btn_A a{ display:block; width:100%; height:100%; text-decoration: none; background:#eb6100; text-align:center; border:1px solid #FFFFFF; color:#FFFFFF; font-size:16px; border-radius:50px; -webkit-border-radius:50px; -moz-border-radius:50px; box-shadow:0px 0px 0px 4px #eb6100; transition: all 0.5s ease; } .btn_A a:hover{ background:#f56500; color:#999999; margin-left:0px; margin-top:0px; box-shadow:0px 0px 0px 4px #f56500; } .bigger { font-size: larger; } figcaption { color: #7c7f78; font-size: smaller; }

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