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インタビュー

2014年04月02日

実際どうでしょう Vol.14「エンドポイント管理、あの製品の誕生秘話を聞きました」

普段の製品・ソリューション紹介だけでは聞き出せない情報を「実際のところはどうなんだろう?」という素人視点で、専門家に聞いてみるシリーズです。 題して「実際どうでしょう」。。。どうぞ、ご覧ください。 今回は、C&SI(Tivoli)関連のスペシャリストである廣田様にインタビューをさせていただきました。当然IBM (Tivoli)Endpoint Managerにも詳しく、BYODを率先されており、インタビュー中にお使いになっていたPCはリンゴのマークだったのは新鮮でした。 <聞いてみて良かった(*´ω`*) メリひろ担当がエキスパートにインタビュー> プロフィール:日本アイ・ビー・エム株式会社 廣田 俊和 様 ソフトウェア事業 Cloud & Smarter Infrastructure事業部 シニア・セールス・スペシャリスト IBMでは公共(通産省)担当から製造関連の担当へ、その後、1996年にIBMがTivoli社を買収してすぐ97年から製品担当に従事。 ※ 2014年3月時点でのプロフィールです。 — 本日はよろしくお願いします。PCやスマートフォンなどのデバイスに関して、MDM、BYOD、セキュリティなどについてお聞かせください。 いきなりですが、IBMが買収したモバイル・セキュリティのFiberlink社の製品・サービスとIBM (旧Tivoli)Endpoint Managerの違いをざっくりと教えて頂けないでしょうか。(インタビューアー 重山) 廣田:はい。利用形態としては、FiberlinkはSaaS、IBM Endpoint Managerはオンプレミスであり、特徴としては、Fiberlinkはモバイル、IBM Endpoint ManagerはPCとお考えください。ただ、Fiberlinkのオンプレミス版も今後リリースされる見込みです。 — 素人から見ると違いがわかるような、わからないような・・・ 廣田:そうですね、それではIBM Endpoint Managerの誕生秘話をお話しましょう。歴史や背景がわかれば方向性も理解しやすいでしょう。 — IBM Endpoint Manager、通称IEM(アイイーエム)として「MERITひろば」でも紹介している製品ですね。ストーリーがわかると理解が深まります。お願いします。 エンドポイントマネージャー誕生秘話 廣田:IBM(社内)は全世界で約90万台のクライアントが稼働しています。 昔は端末管理、つまりPCのセキュリティ管理は各地域に任されていました。 — きゅ、90万台ですか、具体的に想像しがたい数ですが、セキュリティパッチの配布管理などは国や地域別に実施されていたということですね。 廣田:そのとおりです。日本IBMではISSIと呼ばれる社内システムがセキュリティパッチの配布管理をしていました。この各地域での個別管理をやめてグローバルで均一の管理をするためにBigFix(ビッグフィックス)というベンダーの製品を採用しようと検討をしました。 — そのクライアントの数とグローバル拠点に対応した製品だったということですね。 廣田:はい。導入検討を進めていると、これは良い製品だという話になり・・・ — もしかして、ですが・・・ 廣田:正解です。(笑)その製品を買収しようという運びになりました。IBM Endpoint ManagerはこのBigFixのクライアント管理製品をベースにしているのです。 さらにですね、FiberlinkはSaaSでPC端末管理機能があるのですが、この機能の元はBigFixをOEMとして使っていたので、IBM Endpoint Managerと共通な仕組みが多いのです。 — FiberlinkもBigFixの一部の機能を組み込んで、その後IBMがBigFix、続いてFiberlinkを買収したのですね。BigFixから見るとそれぞれ使われて、最期はIBMで合流したという感じですね。 廣田:そのとおりですね。 米政府機関のモバイル・セキュリティを管理 — 冒頭からFiberlinkの名前が登場しましたが、IBM FamilyになったFiberlinkについて特徴を教えて下さい。 廣田:Fiberlinkはモバイル・セキュリティ製品として多くの実績のある製品ですが、例えば最も厳しい運用基準のひとつであるアメリカ政府機関にも採用されています。 SaaSで提供される製品ですから、政府としても外部にデータを渡していることになり、通常より更に厳しい管理が求められます。3ヶ月に1回は米国の監査が入っていますが、いままで問題なく運用されています。 — 政府がSaaSを利用というのもすごいですが、モバイル・セキュリティはその方が良さそうですね。 廣田:SaaS形式で提供されるのですが、専用設備は不要なのです。同様のSaaSでよくあるのは、実はマシンを入れてくださいというケースもあるようです。しかし Fiberlinkは全く不要。すぐに利用できます。 — Fiberlinkのサイトを見ると「MaaS360」という名称になっていますが、MaaSというのはなんでしょうか。 廣田:Mobile as a Serviceの略です。 ちなみに、昨年末(2013年末)に日本IBMの社員のスマートフォンの管理はIBM Endpoint ManagerからFiberlinkに切り替えました。4日間で4万台の切り替えが完了しています。 — 4日は早い、スムーズな切り替えですね。それにしても4万台という話や冒頭のグローバルで90万台の管理を迅速に対応できるというのは製品の仕組みに特長があるのですよね? 端末CPU負担たったの2%でアップデート作業が進む 廣田:それでは IBM Endpoint Managerにフォーカスして、その強みについてご説明差し上げます。   廣田:まず、管理者画面ではパッチリストが表示され、全体から該当するマシンがピックアップされている状態なので、 「適応ボタン」を押すだけです。 全体としては中間サーバがなく、各クライアントがリレーしながらパッチ適応していきます。パッチファイルはメーカーからダウンロードしてキャッシュした状態で端末に配布します。 — パッチリストの適応中ってPCのCPU利用率があがって、業務に支障がでる場合がありますよね。 廣田:クライアントのCPU利用率の上限を設定することができるのですが、利用率は2%でも大丈夫です。 —  え?たったの2%ですか?それでパッチ適応配布の運用が可能なのでしょうか。 廣田:はい、大丈夫です。重山さんがお使いのThinkPadでもリレー機になれる程度の負荷です。CPUだけでなく、ネットワーク帯域の利用設定もできるので、既存のインフラへの影響は少なく運用できます。 「中間サーバ不要」で採用決定 廣田:あるお客様のお話です。インフラとして各代理店にはサーバ環境はなくネットワークのルーターだけであり、この環境において以前使っていたセキュリティ管理では、本社のサーバにアクセスが集中して大変だったそうです。かといって中間サーバを導入するのも困難でした。IBM Endpoint Managerは中間サーバが不要ですので、コスト的にも良かったそうです。 — すごいですね。その他にも強みを教えて下さい。 廣田:この中間サーバが不要という仕組みは旧来の「サーバ集中型」ではなく「分散型」だからこそできるのですが、この仕組みによりユーザが社内ネットワークにつないだ時に最適なリレーポイントを介し、さらに即時に差分情報だけを取得して管理できるのです。 — インターネットの仕組みのようですね。それが結局早くて、強いということですね。 廣田:はい、他にもOSのセキュリティパッチだけでなく、アプリケーションのパッチまでも管理対象としているのも特長です。近年はOSそのものよりも、Java等のミドルウェアからAdobeなどのソフトウェアも管理しなければセキュリティは担保できません。 テーマパークの安全にはあの製品が — C&SIブランドの製品としては、他にもサービス・マネジメントの「IBM SmarterCloud Control Desk(略称:ISCCD)」や企業資産管理の「Maximo」などもありますよね。本日は時間が足りないので、またの機会にお願いしたいのですが、ISCCDの紹介は「MERITひろば」をご参照いただくとして、Maximo について、事例やエピソードがありましたらお願いします。 廣田:たとえば、テーマパークで動いている乗り物の定期メンテナンスにはMaximoが使われていたりします。乗り物の安全は大事ですからね。 また、Maximoの話をすると「うちはプラントではないから関係ないよ」とおっしゃるお客様もいますが、動くものがあれば、必ず定期保守があると思います。Maximoなら機械のセンサーからの情報をもらって、バンドルされているCognos BIがレポートを出してくれます。機械の予防保全ができるのです。 — 先日のインタビュー(Vol.12 今更聞けない「進撃のHadoop」の基礎と豆知識)でもSPSSが品質保全管理に役だっているという話も出ました。 それにしても廣田さんの製品知識と守備範囲は広いですね。エンドポイント管理において個人スマートフォンの企業利用、つまりBYODについてお伺いするのを忘れていました。 最後にお願いします。先ほどからひとことお願いばかりですみません。(笑) 廣田:あと2時間くらいお話しましょうか?(笑) モバイルデバイス管理(MDM)は近年対応している企業様も増えておりますが、例えばMDMの基本機能として、デバイスを紛失した時に遠隔操作でデータを消去する「リモートワイプ」がありますが、データを全て消してしまうソリューションもあるのです。 — つまり、会社のデータを消すには個人のスマホのデータも全て消去されるということですね。それは困りますね。まぁ、紛失する方が悪いとはわかっていますが。 廣田:ですが、IBM Endpoint Manager (for Mobile Devices)は大丈夫です。特定のデータだけ、特定のアプリだけを消去するなどの設定が可能なのです。他にも沢山の機能がありますが、組み合わせてお客様にあった仕組みをご利用いただけます。 — 本日は沢山の話をありがとうございました。今度、そのテーマパークに行った時は、Maximoが安全に一役買っているんだなぁと感謝しようと思います。 廣田:そういえば、導入の際にスタッフがスーツ姿で現地に行って、すごく目立ったと言っていました。(笑)重山さんはプライベートでは仕事から離れて、楽しんで下さい。 — ありがとうございます。そのようにさせていただきます。

2014年02月25日

実際どうでしょう Vol.13「IT業界で25年継承される設計思想とは?- その2」

    ・大学生もわかる「ビジネス用マシン」の基本とは ・仮想化環境においても変わらない IBM i の価値 他 — 安井さんそれでは、引き続きお願いします。ここまでは設計思想について用意いただいたスライド2ページだけで1時間以上お時間を頂戴してしまいましたが、凄く楽しかったです。 IBM i は「長く使える」という声を良く聞く一方で、こう言ったらなんですが、最近のサーバーとしては「古いシステム・・・」「価格もそれなり・・・」というイメージもあります。この「でもお高いのでしょう?」という質問はいつもインタビューにあえて入れているのですが、これらの点について伺ってもよろしいでしょうか。(インタビューアー:重山)  古いのではなく、アプリケーション資産継承がうまくできているモデル 安井:はい、我々も製品に対する冷静な観察だけでなく、ネガティブなものも含めてどのようなイメージを持たれているか、という点にも注意を払っています。 IBM iに対する、逆風とでも言うべきイメージをあえていうなら次の2点だと思います。 1)古いシステムである 2)初期コストが高い 古くから存在するシステムである事は間違いありませんが、古いままのシステムではない事を、納得いただくよう努力しています。すなわち前回説明させていただいた4つの点は不変のものとして、それを土台に新しい機能を常に取り入れるようにしています。これを可能にしているのは、テクノロジーにとらわれない、仮想的なマシンであるところのTIMIです。柔軟な機能強化を可能にしています。 — 古いのではなく、25年前の設計思想がしっかりしていて現在も受け継がれているということですね。その設計のおかげで最新プラットフォームに対応しながらも、アプリケーション資産継承ができると。   安井:はいそうです。2点目の初期コストについては、他のサーバーと比較するのは難しいし、ともすると高いように見えてしまうのも事実です。例えばIBM iにはデータベースやシステム管理機能を含むなど、OS機能に大きな違いがあります。同等機能を前提とした比較になっているのか、という点にも注意を払わねばなりません。 しかし、いまのコンピュータシステムで一番高いのは「人件費」だというデータがあります。 — 「人件費」についてはトータルコストでもよく言われることなのですが、ビジネスの現場では、わかりづらい費用項目でもあると思っています。   DB管理者が居なくても運用できるシステムとして評価されている 安井:はい。IBM iにおける人件費の特徴について、具体的にご説明します。 このスライドを見てください。   出典:「IBM i for Midsize Businesses – Minimizing Costs and Risks for Midsize Business : International Technology Group October 2012 調査会社のデータですが、IBM iを含む3つのシステムにかかる要員数です。さらに人件費を年収ベースで表記しています。   —  えーっと、IBM iはどの業界でも要員数は1.0を下回っているのですね。あれ?IBM i の列には「DB管理者」 の年収が空欄になっていますが、これは・・・ 安井:そうです、DB管理者はいなくて大丈夫だったということを表しています。 —  これはすごいですね。工数が少ないとかは他の製品説明資料でも拝見しますが、そもそも他のシステム運用では必要とされる要員が不要というのは驚きです。理屈ではなくて実際に運用されているユーザからのデータを元にしているでしょうから、本当にすごいです。 運用コストにDB管理者を入れないで良いということは、他の業務に専念できますね。 こういった資料は導入検討のお客様も試算しやすいですね。この人件費分を利用年数で乗算した数字が比較している他製品との価格差に収まれば、確実に“買い”なわけですよね。 安井:実際のシステム検討では、そこまでシンプルではないとは思いますが、「人件費」が安くすむという点はIBM iの強みなのは間違いありません。   —  アプリケーション資産の継承、DB管理の容易さ、この2点だけでも運用コストが低減されるのは容易に想像できました。ありがとうございます。 パート1では、25年来続く設計思想、そしてパート2のここまでは導入検討におけるIBM iの強みを知りました。次に、今後のロードマップについて教えて頂けないでしょうか。   IBM i 宣言に見るPowerの将来とは? 安井:はい。それでは「IBM i と Powerの将来」についてお話します。 AS/400誕生から20周年を迎えたタイミングでもあるわけですが、2008年に「IBM i宣言」というものが公表されました。 これは、将来においてもこのシステムに対して継続的な投資をしていく事を、メーカーとしてお客様やビジネス・パートナー様に対してお約束するものです。 具体的な例として、プロセッサーテクノロジーにおいては、次世代サーバCPUの「POWER8」をこの夏に発表したところです。 —  将来にわたる投資宣言ということは、ユーザも安心して採用できますね。 安井:はい。次に直近として「2015 年に向けた IBM i 投資動向」についてご紹介します。 ポイントは以下4点です。 1. ソリューションの品揃え拡大 2. より簡素なシステム管理 3. 万一の際にも回復力のあるシステム 4. クラウド・コンピューティング   JAVAやPHP,さらにはRubyも稼動する まず、1つ目は業界標準テクノロジーの実装、つまりオープン化によって、より多くの種類のアプリケーションプログラムを稼働させていきましょうという点です。システムである以上は、アプリケーションの品揃えは重要です。ご存知のとおり、IBM iはRPGやCOBOLだけのシステムではなく、JAVAやPHP,さらにはRubyも稼動するようになります。すなわちPHPで記述されたオープンソース・アプリケーションも稼動するようになるわけです。 2つ目の「より簡素なシステム管理」は読んで字のとおりです。昨今は単一のハードウェア上で同時に様々な、そして複数のOSを稼動させる事が多くなってきています。IBM iは管理の容易なシステムと言われていますが、IBM iを含めて複雑化するシステム全体を、容易に管理できるようにします。ユーザーインターフェースをブラウザーに統一する、というのもその一つです。 3つ目の「万一の際にも回復力のあるシステム」ですが、複数サーバーを統合するという事は、裏を返すとリスクの集中とも言えます。一台一台のサーバーがダウンした時の影響は、より大きくなっていく傾向があります。システムそのものに冗長性を持たせる事も重要ですし、外部ストレージ製品が持つデータ・コピー機能を活かしたアベイラビリティ対策にも力を入れています。また、ダウンしてしまう際には必ずログを吐き出してくれれば、対策を講ずる事で次回の同様なトラフルを防ぐ事ができます。 —  ログを出さないで落ちるシステムの調査なんて原因特定できませんよね、基本的なことなのかも知れませんが重要だと思います。 安井:はい、基本的な技術をとことん実装できるのもIBMが統一して開発しているIBM iの強さの根源です。 最後に、4つ目は、クラウド・コンピューティングをサポートするための機能強化です。例えば、サービス・プロバイダが複数のエンド・ユーザー会社(第三者)にサービスを提供する際に、いくつかの必要となる機能があります。アプリケーションを停止させずに、サーバーをまたいでその環境を移動できる「Live Partition Mobility」の実装もその一つです。 —  ありがとうございます。実は、インタビュー前にこのスライドも拝見したのですが、体系的には理解できていませんでした。これで“ハラオチ“しました。 パート1の際に安井さんが仰っていた、「どうして、その技術が実装されたのか?いろんな機能が増えても、その視点で理解できれば、お客様にも説明、納得できる」という言葉のとおりです。 私は、昔の実際のAS/400を知らず、実際にIBM iを運用したことがないとう点で私も学生と同じレベルですから、今日はすごく内容の濃い講義を受けることができた気分です。 安井:大学院で社会人向けの講義もしておりますので、良かったら入学してください。 普段はあまり配っていないのですが、これが大学の名刺です。(笑顔で受け渡す) —  あ、ありがとうございます。そ、そうですね。勉強にも興味ありますが、今日のインタビューを広く、沢山の方に見ていただけるようにMERITひろばの運営に注力します。(笑)長時間本当にありがとうございました。今後もよろしくお願いします。 安井:こちらこそ、ありがとうございました。  

2013年12月20日

実際どうでしょう Vol.12「今更聞けない「進撃のHadoop」の基礎と豆知識」

普段の製品・ソリューション紹介だけでは聞き出せない情報を「実際のところはどうなんだろう?」という素人視点で、専門家に聞いてみるシリーズです。 題して「実際どうでしょう」。。。どうぞ、ご覧ください。 今回は、お二人の方に同時にインタビューさせていただきました。名コンビで実況中継と解説という雰囲気になり、とても沢山の話題を提供して頂きました。 <聞いてみて良かった(*´ω`*) メリひろ担当がエキスパートにインタビュー> プロフィール:日本アイ・ビー・エム株式会社 堀越 啓二 様 ・入社以来、研究部門に所属し製品担当になったのは去年の秋 ・趣味は5歳から続けているテニス、毎週テニスの試合を楽しんでいる 都築 英夫 様 ・身長183cm 、体重秘密。以前より片目の視力が極端に弱かったが、最近、両目とも人工レンズに交換し好調。3Dテレビが見られるようになって嬉しい。 ・料理は趣味というより日常。冷蔵庫にある余り物の即興料理が得意。 ※ 2013年12月時点でのプロフィールです。 —今日はよろしくお願いします。お二人は同期なのですね。(インタビューアー) 堀 越:そうです。ただ、一緒に仕事をするようになったのは昨年の秋からです。私が研究所からブランド/製品の担当になったのがきっかけです。 都 築:開発研究所ですが、今は研究員もお客様先に行き、接点を持つようにシフトしています。 堀 越:基礎研究の人達は研究に集中していますよね。 都 築:そうですね、とりわけ、特許をとるために研究している人達は別ですよね。日本IBMは実は、特許だけでビジネスになっている企業なのです。 堀 越:あれ、詳しいですね。 都 築:以前、特許ソリューションを担当しておりましてね、えーっと、そのソリューションというのは・・・ 堀 越:今日はHadoopがテーマですよね。 —そ、そうなのです、そのソリューションも興味あるのですが、まずは現在も注目されているHadoopについてお聞かせ願いますでしょうか。 都 築:了解しました。基本的な事項は堀越さんにお任せするとして、私は脱線担当ということで(笑) 堀 越:では適時私が振りますのでよろしくお願いします。(笑)   今さら聞けない?Hadoopの誕生の背景   堀 越:Hadoopは大量のデータを複数に分散して処理できるオープンソースのソフトウェアです。 採用企業は年々増えており、ビッグデータ活用には必要不可欠な存在になっています。 データ量の増加にともなうサーバーの増加をする場合は、プロセス同士の通信の監視や障害時の対応など、共有データ部分の管理が煩雑になります。いわゆるスケールアウトの課題です。 エンジニアにとって、分散処理は効果があるけれど、対応が面倒な存在だったのですが、Googleが先頭にたって開発したのがHadoopというフレームワークです。 そして、ペタバイトベンダーのYahoo!やFacebookなどがそのテクノロジーに注目して採用し、共同で開発して生まれたのが、ApacheプロジェクトのHadoopという訳です。 —元々はGoogleの開発だったのですか、知らなかったです。 都 築:そうです。背景を知ると面白いですよ。そしてHadoopといえば、MapReduce(マップリデュース)とHDFS(エイチ・ディ・エフ・エス)ですねMapとReduceという用語はLISPなどの関数プログラミングから来ていてですね、関数型言語なのですが・・・ 堀 越:都築さん、その話になると一般の読者はついていけないかも・・ — 堀越さん、ツッコミありがとうございます。実はすでにメモを取る手がフリーズしておりました。 都 築:あ、失礼しました。暴走したら止めて下さい。それでは何故Googleが開発したかという話にしますね。豆知識です。(笑) Googleの命は検索エンジンですよね。大量のデータ、当時で数億ページだったWebをクローリングして、ひとつひとつの単語にインデックスを付けるわけです。 ユーザが検索した単語にURLを繋げるというマッピングの作業なのですが、爆発的に増え続けているインターネットのページに対してGoogleは新しいページを数日でインデックスする事ができるのです。これらの基盤をHadoopは支えています。 えー、それでは本筋に戻しましょう。堀越さん、お願いします。(笑) 弱点を克服していくベンダー 堀 越:はい。解説ありがとうございました。それではHadoopの基本的なテクノロジーについて続けます。 Hadoop前は複数のマシンをプロセス監視(通信、障害検知)するためには逐一考慮して、プログラムする必要があったため、分散処理は大変だったのです。 Hadoop後は、プログラマーはそれらを気にすることなく分散処理を実装できるのですごく助かります。 都 築:実は、IBMはもっと昔に並列処理としてSP2というマシンがありましたし、DB2にもパラレルエディションというのがあって、分散並列処理で高速化したという点ではHadoopと同じでした。 —世の中に出すのが早すぎたのですね。   都 築:そうですね、ネット普及前だったので、それほど大きなデータではなかったという事でしょうか。 堀 越:確かにIBM独自の路線もあったのですが、オープン性をみて、Hadoopを採用したのです。 —先行開発だとすると通常は自社開発にこだわってしまいそうですが、切り捨てる決断も凄いですね。   堀 越:次に、Hadoopの構成を説明しましょう。 冒頭に出たMapReduceは処理の分散管理で、HDFSはストレージの管理、複数のマシンをひとつのマシンとして管理できる基本機能です。 とにかく、エンジニアは継ぎ足す度に、設定をかえていたので大変でした。この2つの機能で並列処理の利便性が格段に向上したのです。 都 築:この分散ファイルシステムの弱点はシングルポイントフェイラー(システムの冗長化が行なわれていない単一障害ポイント)ですが、全体を管理している人(Mainノード)をIBMは2重化して問題を解決しています。 —プロマネを二人配置するみたいにですね?   都 築:そうです、その人が急にいなくなっても大丈夫なように、つまり企業で使えるようにというのを意識しているのです。 堀 越:HDFSの良い点はデータ処理時間の短縮化ですね。そして、データ管理が強みもポイントです。 —Hadoop=大量データ=大企業向けというイメージですが。それだけじゃないということでしょうか。   堀 越:そうです、処理時間の短縮という点は色々な企業に適応できます。 夜間バッチでデータの加工、集計処理をしていたのが、昼間、その日に処理が完了したデータを見られるようになるというのは、企業収益の改善と直結します。 データの管理についてですが、RDBでの管理は、データが増えて、DBの表を大きくしていくとスケールアウトの課題にあたるのですが、HadoopはHBase(エイチベース)という分散データベースの仕組みを使っているので、表の追加・修正をする必要がないのです。 — それはいい事だらけではないですか? 堀 越:しかし、万能ではないのです。データのKeyと値で表現する、シングルデータ管理は得意ですが、リレーショナルな複雑なデータ管理は得意ではないのです。ですよね、都築さん。 欲しいデータそこにあるのに、取り出せない「暗黒大陸」   都 築:そうですね。やはり、トランザクションではなく、バッチ処理に向いていると言えます。 例えば、支店の売上げデータを締めて、集約して各支店の店長にレポートを出すという業務があったとします。データの量が増えていくけど、朝が来る時間はかわらない。 長くなるバッチ処理に担当者はドキドキしているのです。1日で終わらないケースもありますので、そうなると分析をしている担当は、データ待ちの時間がネックになります。 こういったシーンはよくあります。 ある銀行の分析担当の人は、欲しいデータはそこにあるのに、取り出せないので、「暗黒大陸」と呼んでいました。システム運用の方は対応したくてもバッチ処理や他の業務優先で対応できなかったのです。 —暗黒大陸ですか。(笑)すぐにデータを見たいフロントと様々なタスクをもっているバックエンドの対立というかジレンマは確かにありがちな課題ですね。 都 築:大量のデータを高速で処理できるというのはすごくメリットがあるのは、みんな知っていましたが、昔はサマリーデータ、つまり、1ヶ月分のデータをまとめて・・という業務が多かったのです。 堀 越:現在のように1週間でビジネスが変わってしまう時代では、それでは間に合わないですよね。 都 築:実は日本では昔からビジネスにおけるデータ把握はタイムリーに出来ていたので「あ、奥さん今日はそろそろおでんじゃないですか?いい大根あるよ」という商売ができていました。 しかし、マーケットの拡大や全国展開の大企業になると、データ集約が間に合わないので、粒度が荒くなっていきました。セグメント化してバルク(まとめて)でやらざるを得なかったのです。 ちょうど【顧客から「個」客へ】というのがIBMのスマーターマーケティングのスローガンになっていますね。 —そのテーマでもお話を伺いたいのですが、時間に限りがあるので、ぐっと我慢して、次のトピックスへお願いします。     技術者からみたら怖くて採用できなかった?   堀 越:では次にHadoopのオープンソースに対してベンダーが取り組んだことを話しますね。 HDFSでストレージ管理というのは新しく生まれた技術だったこともあり、本来ストレージとしてあるべき機能、例えばアーカイブ、スナップショットなどをサポートされていませんでした。 HDFS内のネームノードの高可用性がネックだったので、企業のインフラ管理者から見たら、対障害性という点で問題がありました。 都 築:もう、悪夢だよね。障害対応を考えると夜も眠れません。 堀 越:そう、技術者からみたら怖くて採用できないのです。(笑) その対策を各ベンダーが出していきました。 HDFSの単一障害点の課題解決をはかったストレージベンダーなどです。 都 築:HadoopはSNSを駆使している企業にユーザが多いのですが、そのユーザはコンプライアンスをあまり気にされない場合があります。あ、言い方悪いですね。新しいサービスを立ち上げるスピード優先という意味です。 そもそもHadoopにはロックダウンする仕組みがなかった。 サービスの継続提供と共にセキュリティの強化というコンプラの順守を各ベンダーも考慮したのです。 堀 越:あとは、Hadoopは物理サーバー上のクラスターで処理しているのですが、Hadoop用の物理インフラを別途管理する必要があります。 サーバーの仮想化、統合化が進んでいるのに独立して物理サーバーを用意するのは面倒です。Hadoop用、BI用、ローカルストレージなど個別にサーバーを立てていくのは非効率なのです。 そこで、現在はApacheのクラスターをサーバー仮想上の上で動かすプロジェクトを進めています。 各ベンダーはインフラの観点でビッグデータの活用にどのようなアプローチをするのかがKeyになっていますからね。 都 築:Googleの仕組みって実は一般企業には足りないところが色々あるのです。あ、語弊がありますかね。 ただ、これは悪いことではなくて、Googleは自らのサービスで必要なところに特化しただけなのです。 この潔さが良いところなのです。ところがジェネラルパーパスとして一般企業でも安心して使えるようにするとGoogleが捨てたところをフォローするなどの配慮が必要です。 しかも、スピードを犠牲にしないで改善してきたMapReduce機能について、IBMはものすごく改良して、早さを生かしたファイルシステムにしています。 オープンソースは新しい技術をどんどん出すというところにフォーカスされていてそれが推進力になっているのですが、IBMは企業のお客様が必要なところも大事にしています。 ビジネスで言えば、管理の大変さ、コンポーネントが増えれば、管理のポイントが増えるので運用コストが増えていく一方だったのです。あるお客様はサーバーを増やすという運用の困難さが採用の懸念点になるわけです。 堀 越:そこでアプライアンスというのがひとつの答えなのですね。 都 築:そうです、そうです。冷蔵庫を提供する感じです。配置して、電源を入れて、温度調整のつまみをガチャガチャっと回して、ハイ使えますという感じです。 堀 越:今の冷蔵庫はつまみではないでしょうけどね。(笑) 都 築:そうですね。(笑) その他にも開発支援ツールを出したりと、Hadoop関連では、周辺製品がどんどん出てきて、名前も”Pig”だったりして、動物園みたいになっています。 堀 越:しかも放し飼いね。 —Hadoopのロゴは黄色い象ですよね。それにしても放し飼いですか(笑)   都 築:そうです、もうね、象の周りに沢山の動物が放し飼いで・・・そこでZooKeeperを出して、全体を管理できるようにしています。 —その飼育員ですが、それは洒落ではなくて、プログラム名ですか? 都 築:はい。ZookeeperはApache Hadoopのサブプロジェクトです。設定情報の集中管理のサービスを提供するソフトウェアですね。 そのようなツールが必要なくらい、実は、普通にHadoopを入れようとすると大変なのです。 相性とかバージョンが合わないといったのはオープンソースでは良くある課題です。先端を追いかける人はそれでもいいのかもしれないが、一般企業ではそれでは不安です。 今は新しいシステムを導入するときはスタンドアローンということはなくて、必ず他のシステム経由のデータ連携がありますからデータアダプタを使ったりと様々な設定が必要なのです。 — それら煩雑な設定をまとめてくれるKeeperがいるということですね。 堀 越:そして、その分、値段も上がっていくこともある・・・(笑) 表に出てこない採用コストを削減するために 都 築:そこですね、沢山の周辺ツールやオプションがあるのはユーザの利便性向上にとって好ましいですし、必要なオプションを選択していけばいいという考えがあります。 しかし、パーツにわけたりするとお客様の 、予算、稟議プロセスも大変複雑になるのです。 この事務プロセスはコストなのです。 IBMが取り扱う製品だと何万パーツになる訳ですが、これでは事務プロセスが増えるだけです。 パーツを分けるのは個人ではメリットかもしれないが、企業だとコストになることが多いです。 —その観点はあまり聞いたことないです。確かに日本企業の予算獲得や稟議プロセスを考えるとお客様の担当者は次フェーズも含めて、まとめて予算申請しておきたいという要求はよくありますよね。   都 築:そうです。初期コストというのは分かりやすいですし、目立ちますが、運用コスト、障害時の対応コストに加えて、導入する際の検討、採用コストも考慮すべきです。 —決してベンダー都合ではなく、お客様が選択、採用しやすい仕組みを設けるのもベンダーの役割ですね。 都 築:はい、あとベンダーの役割としては、こういった新しい技術を知ってもらうための活動に力を入れるというのも大事です。 近年は一方的なメッセージや囲い込みではなく、オープンコミュニティにお客様も参加してもらい、認知してもらっています。 オープンコミュニティはお客様とベンダーの窓口として大事です。あ、またHadoopから離れちゃいましたね。 いつ採用すればいいのか?   堀 越:それではスタジオに戻します。(笑) なぜ、Hadoopなのか、いつ使うのか?という話をします。 都 築:「今でしょ!」 でいいですか? 年間大賞としても旬ですから、今のうちに使っておきましょう。 (一同 笑い) 堀 越:そうですね、今ですね。 何故ならば、過去において、企業は社内データの活用でよかったのですが、グローバルな競争に勝ち、ビジネスチャンス拡大にはマシンデータやSNSなどの外部データを積極的に取り込んでいくという綿密な情報戦略が必要です。その中ではHadoopは必然な存在です。 オープンソース+付加価値の製品が出てきているので、企業戦略として採用しやすくなっています。 こういったツールを活用してビッグデータへのベストとプラクティスを作るのが(MERITひろば運営会社の)NI+Cさんやシステムインテグレータ様 の力の見せ所なのです! —あ、ありがとうございます。「最後のひとこと」のようですね。   都 築:締め括りに入らなければならないところをまた脱線します。(笑) データ活用という意味では、データ・ソースというキーワードが大事です。 10月7日に開催されたIBM Think Forum Japan 2013で、ロメッティ(IBMのジニー・ロメッティCEO)がパナソニックの津賀一宏社長とパネルディスカッションをしていた時の話です。 パナソニックのカスタマーサポートでは一日に1万件の電話がくるらしいです。 これを分析すれば新しい製品のヒントがあるだろうと思って分析したら新しいアイデアは出てこなかったそうです。 そこで気がついたのは新製品開発には内部だけではなく、外部の人の声、つまり現在お客様では無い人の声を聞くのも大事だということです。 そこでSNSデータの有効活用に発展していくのです。 —なるほど。実際にやってみないと分からないことも多いですよね。脱線ついでですが、ビッグデータという意味ではマシンデータ、とりわけセンサーデータの活用について興味があります。 以前、データサイエンティストの中林さんにインタビューした時に、センサーデータの活用はこれから発展してく領域だと伺いました。   堀 越:国内大手重機メーカーは重機が地球の裏側で故障しても、アラートがあがって迅速にメンテパーツを送ることができるなどは有名な事例ですね。違うパーツを差すとエラーも出るすぐれものです。 都 築:確かに、アフターパーツの補完、管理はメーカーにとってコストなのです。 堀 越:さらに、故障前にアラートあげるという仕組みも進んでいます。 —SPSSも品質保全管理のソリューションとして出ていますね。あ、更に脱線しますね。   都 築:はい、MDA(Machine Data Analytics)は興味深いソリューションですよ。統計の世界ではオーバーフィッティングの問題があります。 データマイニングの世界では点をつなぐ重回帰の考えですが・・・(以下、ページの都合上省略。ご了承下さい。) よし、SPSSの話は次の機会にしましょう(笑) とにかく、現在、製造業においてアフターマーケットがアツいです。ここは日本企業が強いです。 —それでは、そろそろまとめをお願いします。   堀 越:Hadoopが必須技術なのは先ほど申し上げたとおりですが、それ以外にも技術の進歩は速いです。 使う側のユーザも進歩しなければ使いこなせないのですが、使う側が強い意思、意図をもっていなければならないと思います。我々はそれを支援するのです。 都 築:例えば我々(IBM)が、万年筆を製造する立場だとするとインク補填もいらないくらい、ずっとスラスラ書ける最高の万年筆を作ります。 周辺として専用の紙もあってインクもにじみません・・・という製品を売っていますが、「では直木賞はどうやってとるのですか?」とお客様に聞かれても我々は答えを持っていません。 そこはお客様の経営判断なのです。 —お二人ともありがとうございます。堀越さんにはきっちりと基礎を教えていただき、そこから都築さんが動物園から万年筆まで色々な例えをしてくださり、とてもためになって楽しいインタビューでした。

2013年12月11日

実際どうでしょう Vol.11「これぞモバイルアプリ開発の王道」

普段の製品・ソリューション紹介だけでは聞き出せない情報を「実際のところはどうなんだろう?」という素人視点で、専門家に聞いてみるシリーズです。 題して「実際どうでしょう」。。。どうぞ、ご覧ください。 <聞いてみて良かった(*´ω`*) メリひろ担当がエキスパートにインタビュー> 今回は、デモ動画撮影と同時に近年発展著しいモバイルとビジネスについてインタビューをさせていただきました。(インタビュアー:重山) プロフィール:日本アイ・ビー・エム株式会社:尾山 滋則さん プロフィール:日本アイ・ビー・エム株式会社 ソフトウェア事業 WebSphere事業部 パートナー営業部 尾山 滋則: 様 外資系データベースのメーカーに勤務。当時まだ新しかった、モバイルDB事業でプリセールスを担当 2013年5月より現職。 趣味はランニング。 ※2013年10月時点のプロフィールです。 モバイルファーストを支えるフレームワーク — 先程はデモ動画の撮影ありがとうございました。途中から弊社のスタッフも声だけ参加させて頂きました。(重山)   尾山:  一人でデモするよりもやりやすかったです。本当は実際にお客様に利用していただいている他のモバイルアプリをデモ動画として公開したかったのですが・・・ — そうですね、デモして頂いた、某企業で実際に使われている営業支援のアプリは動きも素敵でした。タブレット画面によりリアルタイムデータをお客様と一緒に見ながらなので、担当営業もそのお客様に対してもともて便利だと思いました。 このインタビューを見たお客様で個別に実例のデモを見たい場合は、尾山さんを直接呼んでいただくしかないですね。 尾山: はい。どこへでも伺いますよ。(笑) — さて、今日のテーマですが、私は「MERITひろば」を運営していてWebの戦略では「モバイルファースト」という言葉が認知されてきていると感じていますが、ビジネスモバイルの世界ではいかがでしょうか。 尾山: はい。日本IBMでも、モバイルファーストを提唱したサイトを公開していますし、モバイルが消費者の行動を変えているのは事実です。   ユーザの90%は常時デバイスを手元に置いている — モバイル(サイト)にも対応ではなく、モバイルから先にビジネス、システムを考えようということですよね。実際、スマートフォン、タブレットが普及しているのは、いち消費者としても実感していますが、ビジネスにおける市場性という意味ではどうでしょう。 尾山: はい、モバイルユーザの90%は常時そのデバイスを手元に置いており、トランザクションは年次50%増、ECも成長を続けています。   — なるほど、それをビジネスに活用する法人にとって完全に無視できない存在ですね。モバイルのビジネス活用という点で企業側が意識すべきことはなんでしょうか。 尾山: このスライドを見てください。74%のCIOがIT、の重要施策として「モバイル」を回答しています。   まずは、B2Cつまり、自社のお客様向けのアプローチか、B2E、自社の従業員向けの仕組みなのかでモバイル活用の効果は異なります。   私物モバイルの業務利用:会社が対応する VS 会社が支給する — 図の右下に表記されているBYOD(Bring Your Own Device)という言葉も最近良く目にします。私は個人でiPhoneを使っていますが、まだ社内システム連携という点では実現していません。ちなみに日本IBMではBYODの取り組みはいかがですか? 尾山: IBMは非常に先進的な取り組みをしている企業だと思います。先程デモで利用したiPhone、iPadは実は私物です。IBM Endpoint Managerを使って管理しているのでセキュリティは万全です。 — そうすると日本国内でもBYODは浸透していくと? 尾山: 海外では「自分のモバイルで仕事をしたい。会社がBYODに対応するべきだ!」という視点がありますが、日本企業の場合は、セキュリティの観点から、新たにモバイルを会社が支給するというパターンが多いと思います。 — 確かに友人は自分のiPhoneと会社支給のiPhoneで合計2台持っていました。それはかえって面倒ですね。 尾山: はい。しっかりと管理すれば個人のモバイルも十分仕事で使えます。   モバイル活用ビジネス 3つのアプローチ — 次ですが、例えば上司や経営サイドが「我が社もモバイルを活用したビジネスを強化する!」「モバイル活用で新規ビジネスだ!」という戦略を出した時に考えるべき事などを教えて下さい。 尾山: :そうですね、モバイルビジネスを考える上でのアプローチは3つあります。 コスト削減 売上拡大 ニューサービス(ビジネス) 最初の「コスト削減」は、ペーパーレス、BYODの活用による経費削減が考えられます。また、すでにモバイル開発を実施した企業がそのトレンドの早さや複数のプラットフォームでの開発に予想以上の開発コストがかかってしまった場合の開発プラットフォームの導入もコスト削減のひとつの考え方です。 2つめの「売上拡大」については、B2Cにおいては顧客との接点の増加が見込まれます。B2Eにおいては生産性の向上があります。例えば、お客様との商談の際にその場でお見積書等を発行できれば、よりビジネスが広がります。 3つめは、現在のビジネスを軸としてモバイル活用を展開した場合の「新規ビジネス、サービス」についての視点です。 — それぞれ、かなり幅の広い話になりそうですね。可能でしたら、3のニューサービス、つまりモバイルを活用した新規事業や活用事例を中心にお聞かせ頂けないでしょうか。 尾山: 承知しました。 IBMの製品事例ではないのですが、最近話題になった清涼飲料メーカーのキャンペーンがあります。購入したペットボトルのシリアルコードを入力するとWebから音楽がダウンロードできるキャンペーンです。モバイルを売上増/マーケティングに活用したわかりやすいケースです。 — あ、知っています。炭酸資料ですね。ボトルを買うと昔から現在のCMソングをダウンロードできるキャンペーンですよね。   新規事業のアイデアは必ずしも斬新である必要はない 尾山: はい。O2O(オーツーオー)の事例とも言えます。通常O2Oの場合はOfflineからOnlineつまりネットから店舗に来てもらうことを指していますが、直接店舗を持っている訳ではない飲料メーカーが、最終消費者に対して、楽曲をダウンロードしてもらい、モバイルですぐに聞けて、SNSでシェアすることで認知度があがり、つながりのある人が更に購買するという良い循環が生まれました。 — さすがだとは思いますが、仕組みを聞くと凄いというよりも、すでに普及している技術の組み合わせですよね。それをO2Oとして上手く広げたという印象です。 尾山: そうです。キャンペーンや新規事業のアイデアといっても必ずしも斬新である必要はなく、自社のコンテンツ、先の飲料メーカーの場合は歴史とCMソングをモバイルとネットを使って活用したということですね。 — そうか、コンテンツの活用ですね。いやぁ、事例は聞いていて楽しいです。他もお聞かせください。 尾山: そうですね、これも製品事例ではないですが、国内の企業の話です。 営業支援のアプリですが、ある担当営業は図面などで店舗のレイアウトを操作できるアプリが入っているタブレットをお客様に預けておいて、じっくり検討してもらい、後日打合せする方法をとったと聞きました。この方法が正しいかどうかは別にして、お客様とデータをすぐに共有し、直感的に操作できるこのタブレットの強みは旧来にはないツールです。 — 単なる紙の電子化ではないということですね。   モバイルアプリ先進業界と開発フレームワーク 尾山: そのとおりです。 モバイルは「カメラでQRコードを読み取り、ネットに繋げる」「GPSによる位置情報をチェックイン、つまりその場に居たという証拠とする」などのカメラ、センサー技術との組み合わせが新たなサービスを生み出しているのです。 例えば、映画館でポップコーンを購入した際のレシートの裏に印刷されたQRコードを使ってネットから特別な画像がダウンロードできるといった仕組みはそれほどコストがかかる技術ではないですが、お客様はその場にいるからこそ享受できるという特別なサービスに喜んでいただけるのです。 — ニューサービス、新規事業をお考えになる担当者にはモバイルを使うチャネルは考える必要がありそうですね。業界的にはどこがモバイル活用をリードしているのでしょうか。 尾山: さきほどのネットバンキングのように金融のお客様は取り組みが早いです。あとは、EC、流通、製造、製薬、医療業界も積極的です。 下図はIBM MobileFirst Platform Foundation(旧:Worklight)国内事例のひとつですが、都市銀行様のネットバンキングの例です。 採用の決め手は開発と展開を5ヶ月で実施するというミッションに対応したのがポイントです。モバイルアプリの開発に1年もかけているとプラットフォームが変わっちゃいますよね。やはり、開発プラットフォーム、アプリ開発フレームワークをきっちり利用することで、スピードと品質を得ることができるのは、すごく重要です。   知れば知るほどお値打ちなモバイルプラットフォーム — IBM MobileFirst Platform Foundationについて、沢山の機能があると思いますが頂戴した製品資料でいくつか気になる点があったので教えて下さい。 モバイルアプリ開発においては、UI(ユーザインタフェース)が重要なため、テスト行程の効率化、管理は重要だと思いますが、製品の説明に「ユーザの操作、文字入力、タッチ、スワイプを記録、再現できる」とありますが、これは先日、IBMの田村さんのインタビューでお伺いした際の新製品、Tealeafのようですね。 尾山: よく気が付きましたね、まさにTealeafモバイルがIBM MobileFirst Platform Foundationには組み込まれています。 — ええ?本当にあのTealeafが入っているのですが、すごい。 それは・・・なんと言いますか、お得な気がします。テレビショッピングのようなコメントですみません。(笑) もしかして、他にも含まれている製品があるのでは? 尾山: そうですね、実績のある製品機能をマルチブランドで取り込んでいくのはIBMとしては当たり前に思っていたので、強くアピールした事がなかったです。 — ある意味、その製品を知っている人には分かりやすいと思います。 尾山: 他にもRational Test workbenchが入っています。これにより、iOSもAndroidも含めてエミュレーションできるので、効率的なテストを実現します。 — それは凄いです。他にお客様に「ほほぉ」と感心された機能とかはないですか?欲張りな質問ですみません。 尾山: それでしたら意外と知られていないのがアプリの「ダイレクトアップデート」ができる事です。 また、Worklight Application Centerというアプリのダウンロード・センターを建てることができるので、従業員向けの場合、モバイルユーザに対して直接アプリを配布、更新の通知をすることができるのです。 — ちょっとまってください。ということは、iOSの場合でいうとアップルのApp Storeを経由しなくともアプリのダウンロード、アップデートができるということですか? 尾山: その通りです。 特にiOSのアプリの場合はちょっとした機能アップデートでもApp Storeに申請して、許可が出てから配布となるので、どうしても時間がかかります。デモの動画があるので、こちらをご覧ください。 — アプリのアップデートは必ずApp Store経由だと思っていました。これだと、細かい機能改善やユーザへのポップアップ通知も思いのままということですね。恐れ入りました。 すみません、尾山さんに謝らなくてはならないことがあります。 尾山: な、なんでしょうか。 — 私、製品資料を見ていたにも関わらず、マルチプラットフォームに対応した統合開発環境ツールという位置づけだけでIBM MobileFirst Platform Foundationを見ていました。 これは、まさにモバイル開発フレームワークの王道なのですね。 尾山: そう言って頂けると私もインタビューを受けて良かったと思います。より詳細な資料をお渡ししますので、ぜひ、MERITひろばをご覧の皆様にダウンロードしてもらいたいです。 — はい。活用させて頂きます。本日は長時間ありがとうございました。 尾山: こちらこそ、ありがとうございました。   編集後記 記事を書いている時に、ニュースで「EC利用40%がモバイルから、市場は160%成長で2015年には2兆円」という内容を見ました。モバイルファーストにより力を入れていくのは明らかで非常に勉強になりました。 実は、尾山さんも私も大阪の近いエリアの出身でしたので、ローカル話でも花が咲いたのですが、今回のテーマとは関係がないので、割愛させていただきました。(当たり前?) 文中の表現も標準語に合わせて一部修正しておりますが、ご了承ください。

2013年12月03日

実際どうでしょう Vol.10「IT業界で25年継承される設計思想とは?」

普段の製品・ソリューション紹介だけでは聞き出せない情報を「実際のところはどうなんだろう?」という素人視点で、専門家に聞いてみるシリーズです。 題して「実際どうでしょう」。。。どうぞ、ご覧ください。 今回は、以前動画撮影にご協力いただいたエバンジェリストの安井様にインタビューをさせていただきました。 <聞いてみて良かった(*´ω`*) メリひろ担当がエキスパートにインタビュー> 安井様は、大学の教壇でも活躍されており、1話では完結しないぐらいさまざまな引き出しをもっておられました。 プロフィール:日本アイ・ビー・エム株式会社 安井賢克 さん IBM システムズ & テクノロジー・エバンジェリスト 日本アイ・ビー・エムに入社。当初は、旧藤沢事業所で生産管理に従事する。 その後、AS400の初期メンバーに参画し、2008年からPower Systemsのエバンジェリストとして活躍中。 新しいことをするのが好き。 「ビジネス用のコンピュータとは何か」を大学生に興味をもってもらおうと、大学の教壇に立ち、意欲的に活動をしている。 ※2013年11月時点のプロフィールです。 大学での講義が実際のビジネスに役立っている — 今回は、インタビューにご協力いただきありがとうございます。(インタビューアー:重山) ※以前は、「IBM i for Business Intelligence」という内容で動画撮影いただきました。 安井:動画の撮影も緊張しますが、インタビューも緊張しますね。 — インタビューでは、あらかじめ参考にいただいている資料を元に会話を膨らましていますので、気楽にお願いします。 まず、IBM iと急に入っても固くなってしまうので安井さんのプロフィールを教えてください。社会人当初より日本IBMにいらっしゃるのですか。 安井:はい。大学卒業後これまでずっと日本IBMで働いてきました。当初は、旧藤沢事業所で、生産管理に従事し、ジョブ・ローテーションの際に、AS/400の初期メンバーに参画しました。 その後、2008年からPower Systemsのエバンジェリストを担当しています。エバンジェリストという制度が始まったのも、ちょうどこの時期でエバンジェリストの中では1番の古株です。(笑) また最近では、“アカデミック・イニシアティブ”というプログラムがあり、大学で講義をしたりしています。 — そのような制度があるのですね。大学ではどのような内容を教えているのですか。 安井:大学では、「ビジネス用のコンピュータとは何か」を理解してもらうのを目的にした授業を受け持っています。学生は日頃からPCやスマホには触れているが、社会人になると今までとは違うシステムに触れるので、その際にすぐに適応できる人材の育成を意識しているようです。 ビジネス用のコンピュータという意味では、その現場にいるということから、私に白羽の矢がたちました。当初はIBM iに早い段階で触ってもらおうとも思いましたが、製品機能を習得するよりも、ビジネス用のコンピュータの特徴とかあり方に興味を持ち理解してもらうことに主眼を置いています。 講座タイトルに「ビジネス」とあって、ちょうど就職活動を意識する学年を主な対象にしていることから、毎年100名を超える履修希望者がおり、手前味噌ではありますが人気講義の一つだと言っても良いかも知れません。(笑) また、他の大学院で社会人にも教えていますが、少人数ではあっても社会人が自ら時間とお金を投資しているわけですから皆さん積極的で、質問やツッコミ何でもありの、雑談のような議論のような授業の進め方をしています。 ただカバーしなければならないポイントはありますので、それなりに時間調整には苦労しますが。 — 私は大学時代、情報系ではなかったので、その講義には興味があります。 大学の講義とエバンジェリストとしての2足のわらじは大変なイメージですが・・・ 安井:よく大変でしょ?と言われますが、私もこれらの活動を通じて多くを学んでいます。 大学生はIBM i , System zやIBMのビジョンに無関係に生活している人たちです。例えば、以前「スマータープラネット」を学生に説明する機会がありましたが、学生にわかりやすい言葉や表現に希釈するため、それなりの手間隙をかけた事前の準備が欠かせません。 この時間は、私にとって良い学びとなり、その後の仕事でお客様とのコミュニケーションにおいても応用することができ、大学での講義は実はビジネスにも役立っています。 — では、大学生の立場にたって、質問させていただきます。(笑) いただいた資料に「25年間継続されている設計思想」とありますが、ちょうど私が生まれたのと同時期ですね。それが今でも受け継がれているって、何だか感慨深いです。 安井:重山さん、若いですね。その設計思想に関しては、ご説明させていただきますね。   仮想化環境においても変わらない IBM i の価値 25年間継続されている設計思想   安井:変わらない設計思想とありますが、変わるものと変わらないものがあります。 — 奥が深そうですね。詳しく教えて下さい。 安井:はい。なるべくわかりやすくご説明させていただきます。 まず、IBM i は、フランク・ソルティスという技術者が設計したのですが、ソルティスは、“究極のビジネスコンピュータを作ろう”という思想のもと、テクノロジーやビジネスだけではなく哲学レベルで考えました。 その設計思想で変わらないものとして、下記の4点を代表的なものとしてあげることができます。 アプリケーション資産継承 必要機能一式を統合 誤動作を防ぎセキュリティー向上 パフォーマンス追求、ディスク管理の手間削減 まず、1点目「アプリケーション資産継承」です。 アプリケーションはテクノロジーの進化によって影響を受けやすいのですが、テクノロジーはどんどん進化しても、ビジネスは必ずしもそれと同期して変わるとは限りません。 ビジネス・プロセスとかそれを支えるアプリケーションの変更は、全く別の視点から行なわれるはずです。 そこで、テクノロジーとビジネスとを切り離すための両者間のクッションとして機能する、仮想的なマシンとでも呼ぶべき階層: TIMI(Technology Independent Machine Interface)を導入する事を考えました。 これによって例えばプロセッサーのビット数が上がるといったような、土台になるテクノロジーの変更があったとしても、ユーザはアプリケーションの修正やリコンパイルをせずにそのまま利用することができます。 — PCでは32Bitから64Bitになると動かなくなるアプリがありますので、レベルが違うかも知れませんが、すごいなと思ってしまいます。 安井:ユーザから長く愛されているのはこの思想が貢献していると思います。 2点目は「必要機能一式を統合」です。 IBM iは今でこそ大きな拡張性を持っていますが、元々は中堅・中小のお客様をターゲットに開発されたシステムでした。そのようなお客様は必ずしも多くのシステム要員を抱えていませんから、導入後に「すぐに使える」というのはビジネスでは大事なポイントです。 また、サーバーとして求められる機能一式が、最初から製品の中に含まれていますから、万が一トラブルに見舞われたとしても、お客様はどのベンダーのどのモジュールに問題があるのかを、切り分けるために悩む必要がありません。 —  スマホで言うとアップルのiPhoneのように製品のトータルの完成度を維持できる仕組みが品質やサポートに良い影響を与えるのですね。AS/400ユーザの安心感はこの“統合“が効いているのですね。 安井:そうですね、3点目が「誤動作を防ぎセキュリティー向上」です。 データにはすべて意味があります。それをコンピュータにも認識させることを思想として取り入れました。 例えば、データに「商品番号」と「価格」があるとします。消費税の計算をする場合に、価格ではなく商品番号の方に消費税をかける演算は人間ならしないですよね。 聞くと当たり前ですが、コンピュータにとって、文字列、数値はどちらも単なる0と1の並びにすぎず、データの意味は理解できません。データには意味があるとしてその属性を明確にし、実行できる演算内容(メソッド)をそこに紐付けるような仕組みを採用しました。 これは今で言うところの「オブジェクト指向」の考え方ですが、そのような言葉さえなかった時代にすでにこの考えを採用していました。 —  データに意味を持たせることによって、誤作動を減らすという発想はなかなか思いつかない気がします。 安井:ビジネス用のコンピュータなので、経理、経営など、複数の部門が一台の上で同時に複数アプリケーションを動かすことになるので、この思想は重要です。 最後、4点目は「パフォーマンス追求」です。 近代のマシンにおいては、CPUの動作サイクルはナノ(10のマイナス9乗)セカンド以下、HDDはミリ(10のマイナス3乗)セカンド台のレスポンスです。 HDDはシステムの中ですごく遅いのです。最近になってSSDなどが普及してきましたが、当時はこのHDDに頼らないシステムを考えたのです。 つまり、できるだけメモリだけでアプリケーションを動かそう、それを効果的に行なうためにもHDDとメモリの区分けをなくそうという設計です。そしてこらら4つの点は、実際はAS/400の前身であるSystem/38からの思想なので、35年前からになりますね。 — うーん、すごいです。ここまでの設計思想を伺っていると、ハードウェア中心の考えではないのですね。 安井:その通りです。「マシン」の定義はハードウェアではなく、ソフトウェア的に構成されたマシンと考えたのです。 システム全体をこのように考えて作り上げられたマシンは、商用システムとしては他に例を見た事がありません。 —  本当に勉強になります。まだ、インタビューのスタートのつもりで「設計思想」をお伺いしたら、これほど深く、マシンとユーザについて考えられていたので感動しました。例えとして適切かどうかわかりませんが、「ロボット(工学)三原則」を聞いた時のように、最小限で完璧な組み合わせの思想だと思いました。 私自身はIBM i を使ったことは無いのですが、よく「とにかく壊れない、止まらない」と聞いていたので、ハードウェアとしての堅牢性が高いイメージを持っていましたが、それだけではなかったのですね。 安井:はい。IBM iには、もっと沢山の技術が盛り込まれており、進化し続けています。そして、どのような技術なのかという点に目が行き勝ちですが、設計者のソルティス博士もその著書の中で言っているように、どうしてその技術が実装されたのか? という根っこのところを理解する事も大事なのだと思います。 —  安井さんの講義を受けた学生も社会人になって、すごく助かっていると思いますよ。 安井:そうあってほしいです。(笑) このように学生への講義でもマシンの歴史を話しているのですが、製品が世の中で長く使われる、市場で信頼を得るには「アプリケーション資産継承」が一番重要なのは揺らがないと思います。 —  次のテーマとして、「IBM iの運用コストの優位点」と「IBM iの今後」についてお伺いしていと思います。 両テーマとも、ここまでの設計思想を聞いておくと、その延長上の話としてわかりやすくなりそうです。 次回に続く Vol.13 IT業界で25年継承される設計思想とは? その2 編集後記 私は社内のインフラを管理する仕事にも携わっており、アプリケーションの資産継承の重要性を少しは理解しているつもりですが、ハード新調やOSのバージョンが変わってもアプリはそのまま使えるというのは、対費用効果の面でインパクトがあると思いました。

2013年10月18日

実際どうでしょう Vol.9「40年変わらなかったストレージの歴史が動いた!」

普段の製品・ソリューション紹介だけでは聞き出せない情報を「実際のところはどうなんだろう?」という素人視点で、専門家に聞いてみるシリーズです。 題して「実際どうでしょう」。。。どうぞ、ご覧ください。 <聞いてみて良かった(*´ω`*) メリひろ担当がエキスパートにインタビュー> 個人のPCでも普及しているSSD、従来のハードディスクより凄く早いですよね。フラッシュ・ストレージ、半導体デバイスがサーバー利用になるとどのようなインパクトがあるのかをその道のスペシャリストである日本IBMの伊藤さんにお伺いしました。(インタビュアー:重山) プロフィール:日本アイ・ビー・エム株式会社:伊藤 孝行さん 日本アイ・ビー・エム株式会社、ストレージ事業部、製品企画・営業推進、パートナー開発・アライアンス・OEM担当 1997年から国内独立系ストレージベンダでソリューションセールス・OEMセールスとしてストレージ業界に参画。 通信事業者向け大規模クラウドストレージインフラのほか、2009年、電機メーカーの大容量のフラッシュストレージ・HDDストレージのプロジェクトにも参画。 2011年から外資系エンタープライズフラッシュストレージベンダーの事業開発経て2013年から現職。 ※2013年9月時点のプロフィールです。   — 先日のセミナーはありがとうございました。時間が足りなかったですね、もっとお伺いしたかったのでインタビューさせて頂きました。よろしくお願いします。(重山) 伊藤:こちらこそ、よろしくお願いします。 容量単位で国内一番の導入実績 — フラッシュ・ストレージの話に入る前に、伊藤さんのプロフィールをお聞かせください。IBMに入られたのは結構最近なのですね。 伊藤:はい。2013年2月からなので半年が経過したところです。 — 社会人のスタートは老舗の印刷会社に就職され、デジタル事業の立ちあげなどの新規事業にも参加され、そこからローエンドストレージ専業のストレージメーカーに転職、そこで更なる経験を積み、外資系フラッシュ・ストレージメーカーの事業開発を経て現在に至るということですね。 伊藤:そうです。入り口は印刷会社でしたが、子供の頃からコンピュータが好きでした。まだPCがない時代でしたが、小学校の頃の作文を読み返したら将来はコンピュータの仕事につきたいと書いていました。ローエンドストレージ専業会社の時代では、2009年~2010年当時で日本国内でかなり大容量のフラッシュ・ストレージをお客様に導入していたと思っています。新規開拓、ビジネス開発は好きな領域です。 — それだけ専門にやられていて、外からIBMやフラッシュ・ストレージを見ていらっしゃった伊藤さんが日本IBMに入られて、実際いかがですか? 伊藤:Texas Memory Systems社を買収した頃から、投資の意気込みを感じていました。IBMは、フラッシュ・ストレージ分野に関して、1,000億円の研究開発費を投じると発表しています。フラッシュストレージベンダー専業の他社は「年商」が300~400億円クラスと考えると、いかに巨額な投資かおわかりいただけると思います。 個人的にはIBMがミッドレンジの製品を自社開発のStorwizeシリーズで強化したことは新鮮な驚きでした。ハイエンドストレージのイメージが強かったためです。これによって製品ポートフォリオのバランスも取れ、お客様のビジネスの支援は万全です。 現在(2013年9月時点)、私はストレージ事業部に所属していますが、7月1日付けで、ストレージ事業部内にIBM FlashSystemの専任チームが設立され、活動しています。組織を見ても、それだけ力を入れている事がよくわかります。   HDDは40年前から大きく変化してないストレージ技術なのです — なるほど、IBMが力を入れているのは分かりましたが、市場性から見たらどうでしょうか。 伊藤:現在のコンピュータのアーキテクチャとしては、性能面でストレージだけが進化から取り残されていました。ハードディスクが誕生したのが1970年です。そこから、「磁気に記録する」という観点では大きな仕組みは変わっていません。 こちらの図のとおり、この30年でCPUパフォーマンスは年率で60%向上しているにも関わらず、ディスクは同5%です。   — 年率60%という数値も凄いですが、比較するとそれほど差があったのですね。   10時間が1時間へ、まさに桁違いのパフォーマンス 伊藤:システム導入案件においても、そもそもストレージがボトルネック(改善ポイント)だと認識されていない場合もあるぐらいです。 — コンシューマPCにSSDが利用されている現在、半導体ストレージは認知されてきていると思いますが、はやりサーバー製品でフラッシュを使うとなるとお値段が・・・・・ 伊藤:そうですね、フラッシュの場合従来のディスクストレージとくらべても容量単価が15倍〜20倍高いのは事実です。今後、普及と共にもっと下がるとは思いますが、価格を比較するとフラッシュ・ストレージの方が高いのは変わらないと思います。 — 私も、このインタビューを続けてきて、少しわかったことがあります。高価格の製品は希少価値で高いのではなく、その投資に見合うだけの効果が期待できるからだと思います。 伊藤:先にそう言っていただけると、話しやすいです。(笑)実際の話ですが、例えば半導体回路の設計で現在はシュミレーションに10時間かかっているのが1時間になる場合の対費用効果は明らかですよね。工程が短くなる、品質があがって収益性が高くなる、競争優位になるという競争優位性の教科書のような効果が出ます。 — それにしても、1/10の時間短縮は劇的な効果ですね。 伊藤:そうなのです。SSDも速いのですが、3倍から5倍の性能しか出せない事が実情で、その理由はSASインターフェース等、ハードディスクをエミュレーションしていることによるオーバーヘッドがあります。オールフラッシュ・ストレージであるIBM FlashSystemなら、フラッシュメモリーチップの性能を最大限発揮する専用のハードウェア設計となっている事から、桁違いの性能を得られる場面が出てくるのです。 「10時間が8時間に短縮されます」だと、「現状のままでいいか」と思われるお客様でも、1/10の1時間に改善されるならば、お客様の事業課題も大きく変化します。そういったご提案が出来るのも、この製品の強みです。 また、システムの一部であるストレージのコストが高いのではなく、システム全体の投資コストはむしろ下がる事が多いのです。   2012年頃からマーケットが動いている — エンタープライズ領域においても、フラッシュは最新テクノロジーではなく、導入検討が当たり前の年になっているのですね。 伊藤:そうですね、これは個人的な印象ですが、2012年くらいからマーケットにおけるフラッシュ・ストレージの許容性が変わってきたと感じています。3年ほどで大きな普及期がくると思います。 例えば企業における仮想化のテクノロジー、つまりHyper-V,VMwareは現在では日本でも当たり前ですが、米国やアーリーアダプターと呼ばれる先行着手ユーザから3年遅れで、やっと日本で大きく普及しました。 — こういった飛躍的な進化はIT業界にいてワクワクする要素の一つですね。どんどん進化していくのが楽しみです。 伊藤:逆説的な話で恐縮ですが、テクノロジーという意味では、実はNANDフラッシュメモリは、微細化の限界が近づいていまして、いまのままでは3年ほどで限界がやってくると言われています。 — NANDフラッシュメモリーの半導体技術の限界として、それ以上微細化できないということでしょうか? 伊藤:はい。この20年で13世代もの進化の結果、線幅はマイクロメートル(μm:0.001mm)からナノメートル(nm:0.001μm)へ進化し、チップあたりの容量は4,000〜8,000倍に増えました。詳細は割愛しますが、書き換え寿命は微細化と反比例しますので、現在主流の32nm、24nmの先の1xnmに到達した以降の次世代NANDフラッシュ技術では製品化が難しいと言われています。 そうは言っても、構造を3次元化するなどの次の技術が開発されてきていますので、何かしらの方法で進化はしていくと思います。   フラッシュ・ストレージの導入検討は経営効果からのアプローチが鍵 — なるほど、それは知りませんでした。 次ですが、IBMのALLフラッシュ・ストレージのロードマップの強みなどは先日のセミナーでも勉強させていただいたのですが、最後の方のいわゆる導入検討の段階がお時間が少なくて省略されてしまいましたが、改めてお聞かせ下さい。 伊藤:先ほどの投資コストの話の延長になりますが、「フラッシュ・ストレージの導入検討は経営効果から入り、必ずしもハード売りではない」と思っています。お客様は大きく分けると3つのタイプに分かれます。 ひとつは、投資効果が明確なケース。例えば統合ストレージ基盤を刷新した通販事業者様のように注文受付システムの応答速度が早くないとお客様を獲得できないのが明確な場合はすぐに導入が決まります。 2つ目は、システム部門が多忙というのもあるとは思いますが、投資効果を算出できていないケースです。例えばOracle等のDBサーバーのI/Oがボトルネックだと現状把握しているが、そのままIBM FlashSystemに載せ替え移植した場合に、データ処理性能の劇的な改善がどの程度なのかを把握していないため、導入検討が進まないケースです。 3つ目は、ディスクストレージのI/Oボトルネックに気がついていない等のケースで、認知して頂くために、効果的なご提案が必要です。 — 認知・啓蒙活動には「MERITひろば」でも貢献させていただきます!(笑) 伊藤:是非ご協力ください。私もセールスだけでなく、経営課題を解決するという視点で活動していきます。 — 今後のIBMのロードマップも注目しています。またアップデートがありましたら教えて下さい。本日はありがとうございました。 伊藤:こちらこそ、ありがとうございました。   導入効果予測「Oracle DB アセスメントサービス」実施中 パフォーマンス課題で悩まれているOracle DBユーザ様へ “現状のOracleDB処理時間のレポート”と“FlashSystem導入後の効果予測”を無償でご提供するサービスを実施しています。 「バッチ処理が時間内に終わらない」 「チューニングも限界」 「クライアント集中で遅くなる」 上記インタビューのとおり、これらの課題はディスクI/Oが原因かも知れません。Oracle DBユーザー様に、DB,アプリははそのままで、FlashSytemを導入した場合、何がどのように早くなるのかのレポートサービスを無償で実施しています。 お客様には、標準で稼働しているOracle AWRというツールのデータを送っていただくだけの簡単な作業です。   編集後記 伊藤さんは2009年の時点で、大手放送局の動画管理プロジェクトを担当し、約23テラバイトのSSD(半導体ディスク)ストレージも納入したそうです。 この分野では国内ではトップセールスだそうです。だからといって、イケイケな雰囲気ではなく、物静かに、しかし情熱的で知的で・・・と素敵な方でした。私も専門性を持ちながら幅広い知識をもったビジネスパーソンになりたいです。 (重山)

2013年07月30日

実際どうでしょう Vol.8「Webアクセス分析業務には価値がある、しかしそれだけではツライ」

普段の製品・ソリューション紹介だけでは聞き出せない情報を「実際のところはどうなんだろう?」という素人視点で、専門家に聞いてみるシリーズです。 題して「実際どうでしょう」。。。どうぞ、ご覧ください。   <聞いてみて良かった(*´ω`*) メリひろ担当がエキスパートにインタビュー> 「MERITひろば」の運営においても、Webサーバの生ログを分析したり、Google Analyticsを利用してアクセスログは見ているのですが、「ログ分析作業だけでは辛い」という担当者の心理をついた解説がわかりやすかったです。(インタビュアー:重山) プロフィール:日本アイ・ビー・エム株式会社:田村 浩二さん(写真左) 2002年早稲田大学を卒業後、国内広告代理店へ入社。 その後、Web系システム開発会社、デジタルマーケティングコンサル・Web開発会社での勤務を経て2011年1月よりIBMの戦略フォーカスである Smarter Commerce ならびに Enerprise Marketing Management (EMM)部門へ参画。 EMM各製品のプリセールスを担当。 趣味は波乗りと釣りとデジタルマーケティングの最前線で日本のWebビジネスを改革していくこと。 ※2013年7月時点のプロフィールです。   製品視点ではなく、お客様の商売、立場で何を解決できるのかという視点を大切に — いきなり素人発言で恐縮ですが、IBMが提唱しているインダストリーソリューションズ、スマーターコマース、エンタープライズ・マーケティング・マネジメント(以下EMM)の分野は沢山の製品群が存在していて、良くわかりません。一つずつの製品機能は見れば”なんとなく”わかるのですが・・・(重山) 田村:いえ、お客様もそう思われているでしょう。EMMを中心に、製品視点ではなく、ソリューション、つまりお客様のビジネスにおいて、どの領域で何を解決できるのかというシナリオ視点でご紹介差し上げます。このスライドをご覧ください。     田村: EMM(Enterprise Marketing Management、またはIntegrated Marketing Management)という考え方は、ガートナーが提唱しています。IBMはそのEMMを5つのマーケティング業務のプロセスとして定義しています。 デジタルマーケティングを含む企業のマーケティング業務には、収集、分析、決定、配信、管理というプロセスがあります。 分析の前にデータを集められるようにする、収集ですね。対象はお客様のお客様(消費者、エンドユーザ、個人)で、データはその人付随するプロファイル(誰、どこから、サイトの行動、取引履歴、コンタクト履歴)です。プロファイル情報を集めるのにも一苦労ですが、これらを人が見てわかるようにするのが分析ですね。 分析は「MERITひろば」でも実施していると伺っているGoogleAnalytics等のツールを使った分析ですね。IBMでは(旧称)Coremetricsという製品が該当します。ここまでの収集、分析は、ITツールを駆使して運営されている会社は増えてきました。 重要なのは、「この顧客には何をすべきか」という最良のマーケティングアクションを決める決定プロセスです。分析データから何を決定して、お客様にアウトバンド、インバンドを含めたコミュニケーション手段で配信して、その結果から何を得るか、このプロセス全体をどのように管理するかと続きます。   分析業務は次のアクションに繋がらないとわかるとつまらない作業 —- この図は全体を俯瞰できますね。私は、Web担当として、分析することに手一杯で次の決定以降の作業に繋がっていないという悩みはあります。   田村:はい。ちょっと乱暴な言い方ですが、分析はつらい作業ですし、次のアクションにつながらないとわかるとつまらない作業なのです。 — ありがたいです。実はその「分析はつまらない」という感覚にはすごく共感してしまいます。(笑) 田村:そうですね。この発言だけ取り上げられると私も立場上よろしくないのですが・・・(笑)しかし、お客様の本音だと思っています。 もちろん、分析には価値があるのですが、そこだけフォーカスして製品機能を語っても不十分です。 —- 発言内容はインタビュー記事を公開する前にチェックしてもらいますので、まずい解釈や表現は適切に編集しますから言ってください。(笑) 田村:はい。お願いします。(笑) 田村:実は先日、製造業のお客様への提案で、分析領域の説明はあえて減らしてみました。決定以降のプロセスの話を重点的にしたところ、ご担当者様も激しく同意してくださいました。 つぎに、業務担当者の領域別にソリューションを見てみましょう。   この図に製品名を大雑把に当てると以下のとおりです。 1.デジタル・マーケター向け :旧Coremetrics 2.カスタマー・リレーションシップマーケター(CRM) :旧UNICA 3.マーチャンダイジング、営業企画:DemandTec 4.マーケティング・リーダー  :旧 UNICA Marketing Operation 5.コールセンター、Web担当(注:上図には記載なし) :Tealeaf   Google アナリティクスでもそれなりのことができますよね? — この図は、どの業務のお客様に何を話すのかという整理ができていいですね。 では、ここまで聞いておきながら更に素人質問をしますが、Google Analytics(以下GA)があれば分析から決定作業につなげるレポートまで対応できているのではないかと思っていますが、いかがでしょうか。配信・管理は別だとは思いますが。GAは無料で使えますし。他の分析ツールと比較したことはないのですが、機能に遜色はないのではないかと思っています。   田村:良い質問ですね。 では、先ほどは5つのプロセスの話をしましたが、次はそのプロセスに製品を当て込んだスライドをご覧ください。       田村:英語の資料ですみません。一番左のCollectが収集、以下Analyze(分析)、Decide(決定)、Deliver(配信)、Integrate(統合、管理)のプロセスをレイヤーに分けて記述しています。丸の枠の中が各製品機能に該当します。 — あ、右上に新製品の「Tealeaf(ティーリーフ)」が入っていますね。ロゴ画像で、丸の囲みではないですが。   田村:新製品なので後から資料に足しているがバレましたね(笑) Tealeafについては、後ほど紹介させてください。 先ほどの質問に戻りますが、分析ツールの話は、Analyzeのレイヤーの「Digital Analytics」の丸の中の話になるのです。 —- 全体から見ると本当に一部分なのですね。   特定の領域だけで製品比較に注力しているだけでは全体の課題解決には到達できない   田村:はい。この領域で、GAや他社のエンタープライズ向け製品・・という比較に注力していても全体の課題解決にはなかなか到達できません。 — なるほど、Web担当者だけの視点ではありがちな議論ですね。 おや?Analyzeのレイヤーにある丸囲みの「Impression Attribution」とは何でしょうか。   田村:ネット広告業界において、アトリビューションとは、広告効果測定のことを示し、ここ数年昔から使われている効果測定の考え方のひとつです。クリックの前の「露出(インプレッション)」が後の成果にどれだけ貢献したかを理解する為の効果測定の手法です。 —- MarketingROIの領域ですね。知ったかぶりですみません。以前、広告代理店やデジタルマーケティング会社に在籍されていた田村さんなら当たり前の領域かも知れませんが、システムインテグレーター界隈の人間には馴染みがあまりない言葉に感じました。 では、先ほど触れた「Tealeaf」について教えて下さい。   サイト訪問者の行動を後からビデオ再生のように確認できる画期的なソフトウェア 田村:TealeafはWebサイトにおいて、利用者が直面した障害や問題などを可視化するソフトウェアです。利用者のWeb上での動線を再現することができる画期的なソフトです。 例えば、先日のサッカー日本代表戦を例にすると、試合結果が1対1だったと示すのがWeb分析ソフトウェアです。一方、その90分間に何があったのか、本田が後半46分に相手のハンドを誘ってPKを決めて・・・という過程を教えてくれるのがTealeafです。 —- 分かりやすい例えです。(笑)それにしても、どうしてそのようなユーザが見たWeb行動を再生できるのでしょうか。通常のツールはブラウザのクッキー情報を取得して分析対象としているだけで、そのような個別のトレースは難しいと思うのですが・・・ 田村:Tealeafはパケットをキャプチャしているのです。クッキーベースの製品とは根本的に違います。これによって、特定のサイト訪問者のWeb行動をビデオ再生しているように見て取れますので、非常に分かりやすいのです。ちょっと売込み宣伝になりますが、現時点で明確な競合製品もなく、引き合いが多い製品です。 —- でも、お高いのですよね?(笑) 田村:確かに定価で1千万円台(注:インタビュー時点での価格)ですが、PV(ページビュー)課金でご利用いただけますし、売上が発生するチャネルにおいて、Webが占める割合が高い、高くしたいお客様にとっては非常に有効なツールです。   Web分析市場は100億円、しかしビッグデータ市場で考えると3,000億円市場 —- この分野は今後も成長していくのですね。 田村:はい。少しマーケットの話をします。Web分析だけに限るとマーケットは100億円規模です。しかし、ビッグデータ市場として考えると3,000億円市場になるのです。 例えばIBM Digital Aalytics Accelerator(DAA)はWeb分析ソリューションとしてこの3,000億円マーケットに投入されています。IBMではSaaSベースでクイックに始められる製品からデータを自社内で抱えて、深く見ていく製品まで揃っているのです。 —- DAAのご紹介も先日MERITひろばの動画で解説いただきありがとうございます。マーケティング担当だけでなく、田村さんファンの方も是非ご覧いただきたいです。 田村:いえいえ、私ではなくソリューション、製品を見て下さい。(笑)   次ですが、レイヤー図一番下にある「Digital Data Exchange」とは何でしょうか。   会社の垣根を越えてデータ共有する仕組みで顧客に最適な体験を提供する 田村:はい。これは、自社Webサイトの管理外のデータとも連携していく仕組みです。広告業界では以前より、広告の枠情報を会社を超えて共有する仕組みがあります。広告在庫の需要と供給を個別のシステムを越えて共有するプラットフォームですね。 近年はさらに、DSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)、RTB(リアルタイム・ビッディング)、DMP(データ・マネージメント・プラットフォーム)といった広告を最適な人に、適正な価格で効率よく配信するためのプラットフォームが注目されています。これらは少し専門的過ぎるので、今回は割愛します。 — 会社の垣根を越えてデータ共有する仕組みが広告、デジタルマーケティングの世界では広がっているということですね。共有するというキーワードで思い出しのですが、ライバル企業のWebサイトのアクセス数やサイト訪問者属性をこっそり調べる方法なんて存在するのでしょうか?   田村:さすがに、競合サイトの情報をとることはできませんが、データ交換プラットフォームというのは、必要に応じて自社サイトの訪問データを社内外のアプリケーションと連携して、顧客に最適な体験を提供するという試みです。 — すごい視野の広い活動ですね。ここまで話を伺って、データ分析の領域だけしか考えていなかった自分が恥ずかしいです。冒頭の5プロセスを含めて全ての領域でサービスできるのがIBMの強みなのですね。   田村:ありがとうございます。そうです、例えば件の図の左下にTag Managerと書いてありますよね。これは、ひとつのタグを自社のWebに埋め込むだけで、あらゆるプロセスのデータ取得、管理ができるようになります。もちろん、IBM製品で統一すればタグはひとつですが、提携済みテクノロジーベンダーのJavaScriptタグも統一管理できるのがTag Managerです。 DataExchangeという意味ではIBMはサービスに利用している生データを提供できるのも強みです。GAもAdobeもレポートになる前の生データは提供してくれないが、IBMなら可能です。そのデータをSalesForceにつなげる等のデータ活用する機会がお客様に提供されます。 — 確かにGAを使っていても、分析結果のレポートは提供されますが、例えばユーザのIPアドレスなどのGAが使っている元データは提供されないですよね。この視点は忘れがちですが、デジタルマーケティングを本気でやるなら必要な情報だと思います。 田村:そのとおりです。   「サイトの最適化」だけでなく「顧客体験の最適化」が重要 — 今回のプロセスの話は良く聞いていると「商い」として当たり前の視点ばかりですね。確かに製品はハイテク化、細分化していますが、お客様との会話では、このような商いの視点をもっていれば、課題の洗い出しも解決の提示もスムーズになりそうです。 では、最後になりますが、田村さんご自身のデジタルマーケティングに対する思いをIBMビジネスとつなげて一言お願いします。 田村:はい。私は、「サイトの最適化」だけでなく「顧客体験の最適化」が重要だと常々思っています。 初めてサイトに来たお客様とリピーターでは、体験も目的も違う。コンバージョンレートだけで図ることはできないのです。 分析ツールだけでお客様をハッピーにできるとは思っていません。 IBMでは本日ご紹介させていただいたように、EMM,スマーターコマースを中心に部分的なソリューションから全体最適を視野に入れた中長期の話をお客様と共有できるのが強みです。 — お忙しいところありがとうございました。私もMERITひろばを見に来てくださった方の立場でWeb運営するように意識していきたいと思います。Tealeafを導入する価値があるぐらいの立派なサイトにしていきたいです。 田村:こちらこそ、ありがとうございました。採用お待ちしております。 編集後記 田村さんは広告業界、IT構築、デジタルマーケティングという3つ領域での知識と経験に長けているので、全体を俯瞰しながらも専門的な事を解説してくださいました。また、IBMのこの領域に対する力の入れ具合も強く、今後も目が離せないソリューション領域だと改めて思いました。 (重山)

2013年05月25日

実際どうでしょう Vol.7「BI導入プロジェクトは結婚生活によく似ている」

普段の製品・ソリューション紹介だけでは聞き出せない情報を「実際のところはどうなんだろう?」という素人視点で、専門家に聞いてみるシリーズです。 題して「実際どうでしょう」。。。どうぞ、ご覧ください。   <高田さんの話は技術ではなく、BIを通じてお客様との信頼関係から学んだ貴重な内容でした。これはセミナーでも聞けません。 (*´ω`*) >   今回は、弊社のBIの担当営業から「BIに関してはIBMの高田さんの話を一度聞いたほうがいいよ。すごく楽しいし、わかりやすいよ」という情報を入手して、早速アプローチしました。 ご本人いわく、「インタビューを受けるなんて始めて」とのことでしたが、真摯にお客様と向き合い、豊富な経験がある高田さんのお話はある意味人生を悟ったかの如く、私もたくさんの気付きをいただけました。 (インタビュアー:重山)   PROFILE ・日本アイ・ビー・エム株式会社 高田 和広 さん ソフトウェア事業 ビジネス・アナリティクス事業部 Cognos テクニカルセールス&ソリューションズ シニアITスペシャリスト ■SEとして生産管理のプログラムに携わり、ERPプリセールス経験を積みながら 2004年にCognosに入社。その後IBMブランドとなり、現在に至る。   MERITひろば事務局 重山 勝彦 (インタビュアー) ・日本情報通信株式会社。MERITひろば事務局。入社3年目にてMERITひろばの運営、コンテンツ全般を担当。 ※2013年4月時点のプロフィールです。   —– 本日(インタビュー実施日は3月末)は締めの時期にお時間いただいて恐縮です。 (重山)   高田: いえいえ、それよりもインタビューなんて始めてですが、私でええのでしょうか? —–  あれ、高田さんは関西弁なのですね、ご出身は大阪ですか?   高田: そうです。生まれも育ちも大阪市内です。インタビューは標準語が必要ですか? —– いえ、そんなことはありません。私も大阪出身です。・・・・(この後の二人のローカルトークは省略。以降はテキストコンテンツの便宜上、標準語にしています)   BI導入は結婚生活によく似ている —– ずっと、生産管理やERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)ソフトウェアの分野でエンジニアリング活動をされていて、BIのスペシャリストになられた訳ですね。   高田: はい。大福帳のERPを作ろうという時代です。大福帳と言っても今の若い方にはピンと来ないでしょうか(笑) とにかく、BIという言葉が浸透していない時代から、「データが集まったら何が見えるんかなぁ?」ということをしておりました。ところで、今日は何をお話しすれば良いでしょうか。 —– 興味があるのは失敗例です。すばらしい成功事例は他のWebサイトでも参照できますが、失敗から学ぶことを聞く機会はなかなかありません。言いづらいこともあるかと思いますが、お願いします。   高田: 沢山ありますよ(笑) —– BIは過去に何度かブームの波がありますが、今回のビッグデータブームで改めて注目されていると思います。こんどこそ失敗しないBI導入という視点でお話いただきたいです 。   高田: かしこまりました。いきなり結論を言いますが、BIの導入は「結婚生活」に似ています。 —– け、けっこん? 結婚生活ですか。ITの仕事をしていて結婚が例えなのは初めてです(笑)   高田: 結婚相手を探すとき、つまりBI導入前に見た目の美しさだけで決めてしまうは、その後うまくいかないこともあります。また、マルバツつけて年収(価格)や家柄(ブランド)だけで決めてしまうのもよくないですよね。   —– なるほど、そういう意味ですね。私は未婚なので、導入前の例えはわかる気がします。   高田: また、結婚後、つまりBI導入時や運用の際のプロジェクトは山あり谷ありで必ずしも順風満帆ではありません。これは、業務のメンバーとITのメンバーがお互いを信頼、尊敬をしながらも意見を言い合うのは生産的ですが、相手や道具の批判ばかりしていては、うまくいかないですよね。 帰宅して「俺(わたし)は仕事で疲れてるんだよ。」「わたし(俺)だって、家事が大変なのに!」と言い合っている夫婦と同じ状況です。 結婚前にお互いに結婚生活をどう過ごしたいか?という事をしっかり話しあい、共有されていれば、共同作業も順調にいくはずです。相手の尊重があってこそのプロジェクトであり、結婚生活です。   —–  なるほど。勉強になります。 高田: こんな偉そうな事を言って、大丈夫かな。このインタビュー公開されても、奥さんには内緒にしないといけないなぁ。(笑)   —–  でも深い話ですね。(笑)ここまでITの話はほとんど出ていませんが、このまま進めさせて下さい。   子供のテストが60点。それが良いのか悪いのかは数字だけではわからない 高田: はい。例えば、基幹システムはスタートを切る時に完璧に動かないといけないですよね。BIの導入もそう思われがちですが、スタート時のハードルを下げて、楽しみながら進めるといいと思います。実際そのようなプロジェクトの方がうまくいくケースがあります。 —– ハードルを下げるとは?   高田: はい。BIだからといって完璧にしようとか、難しく考え、身構える必要はないのです。 とにかく、「今まで見ている数字をどのように見たいのか?」を大事にしてください。 例えば、子供が学校のテストで60点の結果だからってそれが良いのか悪いのかは数字だけではわからないですよね。全員が30点以下なのに60点なのか、平均点が90点のテストで60点なのか。 このように、全体からの位置づけ見る、平均を見る、前回のテストからの変化を見たいでしょう。   —– 実際に、高田家ではどう評価されているのですか?   高田: 私はクラスや学年での順位を指標に、前回からの変化、比較を重要視しています。例えば、順位が落ちたとしたら、それには理由が有るはずです。直前に風邪を引いた 、勉強を怠ったなど。その原因を見つけ出し、改善していく事を子どもと話しています。 —– 数字を見る側に確固とした考えが必要なのですね 。   高田: はい。しかし高田家では順位と比較ですが、重山家では平均点との比較でも良いわけ言い訳です。企業も同じ「利益率」 を見ても企業の戦略や戦術の考え方から、A社とB社ではものさしの単位や見せ方が違う訳ですね。その違いから競争点があり、差別化戦略がうまれるのです。   止めた時文句を行ってくる人は普段見ている証拠だ —– そのような高田さんがお客様とプロジェクトで良い関係を築き上げているのですね。   高田: 私はいつもお客様に教えていただいてばかりです。 例えば、Cognosのバージョンアップのプロジェクトの話です。そのお客様は分析・レポートが200パターン導入されていました。バージョンアップのプロジェクトですから、ベンダー側としては当然200を前提に進めるわけです。しかし、お客様は200のうち、実際によく使われている20だけに絞ってバージョンアップすることにしました。 —– 残りの180パターンはどうされるのですか?切り捨てですか?   高田: 当然、そう思いますよね。お客様は「誰か怒って文句をいってきたら、そのレポートは必要としている人がいたとわかるので、その時点で対応していきます」とおっしゃいました。つまり文句を言って行ってくる人は普段見ている証拠だと。これは言われてみれば非常に合理的なのですが、実際はなかなか実施できないことだと思います。   —– できないですね。システムのバージョンアップの場合は、既存の環境をすべて活かすのが前提だと思い込んでいますから。   高田: そうですね。他の例ですが、営業の数字をみるBI導入プロジェクトであえて仕様書を作らなかったお客様がいらっしゃいました。 そのご担当者は「3年も同じ指標の見方をしているのは、会社が成長していないことになる。だから硬直化の要因になる仕様書は不要」というお考えでした。 財務会計の項目は基本的に普遍ですが、管理会計、営業情報の指標、項目は環境に合わせて変化していくのは当然です。 —– うかがった2つの事例は担当者に余裕というか自らのビジネスやビジョンを中核にされているので導入・運用に柔軟さがあるのですね。冒頭の「ハードルを下げる」ということですね。   高田: はい。システムの導入が目的化されてしまっているプロジェクトが多いのも事実です。数百×数百の項目をBIツールで無理やり処理しようと躍起になっているケースもよくあります。 時には他の方法を考えることや、BIツール以外で補足していく など、柔軟な発想が必要です。     あるお客様は原価管理シートを1ヶ月かけて作成し、報告していた —– 「システム導入が目的化される」・・・耳が痛いです。渦中にいると頑張ってしまいますね。 ところで、数百項目と聞いて思うのが、BI導入までも導入後でもExcelを利用しているお客様は多いのではないでしょうか。   高田: Excelは便利ですが、どうしても属人的になってしまいます。共有がうまくいかない。マクロを作った担当者が不在になり、メンテナンスできない。マクロ(VBA)プログラムの仕様書がないために読み取りコストがかかる。などです。これらの問題解決に加えて、 Excel運用からBI移行の メリットの一つは 「レポート作成の時間短縮」だと思います。   高田: あるお客様は原価管理シートを1ヶ月かけて作成し、報告していました。今日が3月末なら4月末の経営会議に提出されるわけです。その1ヶ月の間に為替もかわる時代に、1ヶ月遅れの情報で経営判断しなければならないのです。経営判断にはもっとリードタイムを縮めないといけないですよね。 —– そうですね、しかしながら、そのようなExcelヘビーユーザの現場の方が「ビジネス・インテリジェンス・ツールを導入します」と言われると身構えてしまいそうです。     私を驚かせるために使い方を工夫しいるお客様がいます 高田: そのようなお客様にはIBM Cognos Insight(コグノス インサイト)から始めるといいでしょう。いわゆるデスクトップBI、パーソナルBIと言われる製品で、業務担当者のご自身のPCで 利用できます。もちろんExcel等のスプレッドシートからのインポート、エクスポートもサポートしています。参考価格は5万円台(2013年3月時点での価格)です。   —– 結婚の話から、やっと製品の話にたどり着きましたね(笑) よく聞かれるかも知れませんが、競合他社のBI製品との違いは何でしょうか。   高田: 一言で言うと我々の製品は「アーキテクチャの底辺が統一されている」ため、機能拡張や開発の仮定で矛盾が発生しないことです。他にも(バージョン)10.2からはインメモリ型の高速分析が強化されています。Cogonosは自社のPureData System for Analytics(Netezza)やDB2、他の会社製品のDBも使えるし、同時にインメモリにも対応しているという点で非常に心が広い製品です。いや、八方美人なのかな(笑)   —– では最後にCognos製品のテクニカルセールスをしていた良かったなぁと思うことを教えて下さい。   高田: この製品は営業も導入も運用も長い時間が必要なため、確かに大変ですが、その分お客様との関係も深く、長くなるので、楽しいです。 私は導入後のお客様を定期的に訪問するのですが、あるお客様は私を驚かせるために行く度に新しい使い方をしており、得意げに説明してくださるのです。「高田さん、この使い方はどうでしょう?」と笑顔で私に言ってくれるのです。もうこれだけでもこの仕事をしていて良かったと思います。 また、他のお客様との会話で「高田さん、新規営業の行動指標(項目)は何だと思いますか?」と聞かれました。そうしたら、「名刺消費(名刺発注率)だ」とそのお客様はおっしゃって、目からウロコでした。 難しく考えずに、足元をみれば指標はころがっていることを教えてくださいました。 BIはお客様と根底を築きあげていく仕事なのでやりがいがある仕事です。 いようですね。(笑)   —– すごく素敵な話です。私はBI導入も営業もしたことがないのですが、大変な業務だろうという漠然とした感覚しかありませんでした。高田さんのお話を聞いていたら、BIの営業も経験してみたくなりました。   高田: 今から一緒に営業にいきましょうか? (笑)   —– ありがとうございます。しかし、このインタビュー記事を仕上げて、MERITひろばの皆様に高田さんのお話をお伝えする義務があるので、またの機会にお願いします。(笑)   インタビューも第2弾をお願いしてもいいでしょうか。   高田: もちろんです。こんな話でよければいつでもどうぞ。 編集後記 高田さんのお話は経験豊富なお坊さんのお説法を聞いているような、心に響く内容でした。実はインタビューでは、BI製品を販売するセールスパーソン向けの生々しい話が沢山ありました。それらの内容はビジネスパートナー向けサイトでご紹介しております。 (重山)

2013年03月25日

実際どうでしょう Vol.5「Lotusはソーシャルで新たに羽ばたく、ひとのつながりでビジネスが変わる」

普段の製品・ソリューション紹介だけでは聞き出せない情報を「実際のところはどうなんだろう?」という素人視点で、専門家に聞いてみるシリーズです。題して「実際どうでしょう」。。。どうぞ、ご覧ください。     <<納得のソーシャルエディション、これで仕事したいです。 (*´ω`*) >>   5年ぶりのメジャーバージョンアップ、そしてLotusの名称が変わっていくNotes。Notesの外も中も知り尽くしている担当者に、今後の方向性について伺いしました。私も仕事で日々使うNotes。SNSといえば、プライベートで使うFacebookですが、それらが組み合わさった”エンタープライズ・ソーシャル”の姿がはっきりと見えました。(インタビュアー:重山) PROFILE 日本アイ・ビー・エム株式会社 松田 秀幸 ・(旧:ロータス株式会社、英国IPベンダーブリッジ企業等を経て、現:日本アイ・ビー・エム株式会社でLotus製品を専門に扱うパートナー様担当営業で活躍) ・趣味はodsバージョンを手動で変更すること。好きな製品はImprov。 facebook:松田 秀幸 (IBM,Lotusに関する情報を発信) X(旧称:Twitter):HMATSUDA (hm_akn) MERITひろば事務局 重山 勝彦 (インタビュアー) 日本情報通信株式会社。MERITひろば事務局。入社3年目にてMERITひろばの運営、コンテンツ全般を担当。 ※ 2013年2月時点のプロフィールです。   Notesユーザはフォルダ分けする必要がない — 松田さんはロータス株式会社以降、いくつかの企業を経てIBMのロータスチームに戻られたという経緯なのですね。 (重山) はい。ロータスには、基幹系オフコンの営業からLotsu1-2-3の会社だと思って入社しましたら、「これからはグループウェアの時代だ」と言われました。当時はグループウェアという言葉自体、誰も知りませんでしたが。。 (松田) — ロータス社を離れていた期間はNotes以外のグループウェアも使っていたのですか? はい。前職ではNotesではないメール、カレンダーを使用しましたが、3日もしないうちに使いにくさを感じました。 — それはどのような点でしょうか? Notesはメールをフォルダに分ける必要がなかったのですが、そのグループウェアではフォルダに分けるしかなかったのです。しかし、フォルダ分けは難しいです。 例えば、パートナー様に提案資料をお送りした際に、「パートナー様のフォルダ」にするのか「提案資料」に分けたのか、あるいは「製品別」に入れたのか、後で分別がつかないからです。 — 確かに、メールを探す際に複数のファルダを探して意外に時間がかかったりすることがありますね。 その点、Notesは最初期から「すべての文書」というものがあり、全文検索インデックスさえ作っておけば後でどうにでもなるので、これほど便利なものはありません。単に私がフォルダ管理をを苦手にしているだけなだけかもしれませんが(・・笑)   ワークスペースは、スマートフォン アイコンUIのさきがけ!(←松田妄想) — 他にNotesの特長はどのような点があるのでしょうか。 はい、他に優れていると思う点は「ワークスペース」です。あのタブ毎にアイコンを並べられるユーザ・インターフェース(UI)です。DBをワークスペースで管理する際に、DBを視覚的に判断できます。   例えば、あるデータベースは名前ではなく「2つ目のタブの右側の赤い色アイコンだな」というように、感覚的にですぐに捉えることができるはずです。これは90年代から変わらず20年以上使用されており、人間が最も親しみやすいUIなのかもしれません。 — そうですね。私もワークスペースでの管理は非常に助かります。現在のスマートフォン・タブレット等のアイコンやタブブラウザで使われている・インターフェースと同じですよね。 はい。このような点がNotesのファンを魅了してきたポイントです。しかし、重山さんのようなデジタルネイティブ世代にはNotesのUIは多少古く見えるかも知れませんね。 — そうですね、松田さんを前にしては申し上げづらいです(笑) しかし、私はグループウェアはNotesしか使用したことがないですが、Notesの優れている点がを改めて認識しました。 それは、嬉しいお言葉です。   法人でのソーシャル活用は電子メール、携帯と同様に急速に普及する — IBM Notes/Domino 9 Social Editionがいよいよリリースされますね。ところで、“ソーシャルエディション”とは具体的に何でしょうか。SNSは個人では普及していますが、法人での利用はまだまだという感じがしています。 企業でのソーシャル活用は普及していくでしょう。新しいアーキテクチャというのは、ある一線を超えると急速に普及するのです。 例えば、法人でのメール、インターネット、携帯電話の利用がそうです。技術の変化により、メールで取引先や社内とコミュニケーションを取る働き方に変わりました。また、携帯電話の普及も爆発的な勢いがありました。 重山さんは、携帯電話の学生時代は携帯があるのがあたり前だったかもしれませんが(笑)いずれにしても、爆発的に普及が進むのはソーシャルも同様です。 実際に、Lotusのパートナー様セミナーでの「何がきっかけで参加したのか」というアンケート項目で、「SNS経由」が1/4を占めていました。PC,スマートフォンというプラットフォームの上で動くソーシャルですから普及の速度はもっと早いと思います。 — 今年がその爆発的な普及の年になりそうですね。ただ、昔からのNotesユーザにとっては大きな変化ですし、人によっては「SNSはプライベートで使うもの」というイメージがまだまだ強いのではないでしょうか? コンシューマエリアで普及した Facebook や X(旧称:Twitter)自体をビジネスで使おうという観点ではなく、そのアーキテクチャを会社でも、そしてビジネスでも使おうということです。 — おっしゃるとおりですね。別にFacebookを仕事で使おうと言っている訳ではないですよね。 製品の位置づけとしては、Notes/Dominoは単なるグループウェアではなくてコラボレーションツールという位置づけですよね。そのコラボレーションとしてソーシャルの仕組みを活用するのは当然のことという気がしてきました。   仕事で使うツールがソーシャル化するとビジネス・スタイルはどうなる? — しかし、私はプライベートのFB、X(旧称:Twitter)、LINEなどのツールと仕事のNotesは完全に切り分けて使っているのですが、それが一緒になるとどんな利用シーンになるのか、まだ想像がつきません。具体的に教えてください。 はい。例えば、仕事で朝一番にメールチェックすると、いま自分に必要なメールとそうでないメール、緊急度などの仕分けに時間がかかりますよね。 ソーシャルエディションでは、いま自分が見るべき情報がタイムライン上に表示されています。そこからメールやファイル、業務アプリケーションにアクセスできるのです。これは、非常に効率的です。 ※IBM Notes9、Activity Streamの画面ショット — これは・・・ずいぶん画面イメージが変わりますね。 ご安心ください。先ほど話したワークスペースのデザインは変わっていませんから。   ちょっとした“つぶやき”を誰かが発見し、距離の壁、組織の壁を越えてつながる 次に、ナレッジの共有という観点でお話します。 例えば重山さんが仕事でちょっとした気づき、発見があった時に全社員にメールしたり、会社のポータルの掲示板に書き込んだりしますか? — 全社メールまではしないです。 ソーシャルでは、誰に価値があるかを判断する前にちょっと自分で書き込んでいたこと(つぶやき)を仕事仲間の誰か、興味がある人がひろっていくのです。 このような敷居の低さが、グローバルの企業では距離の壁を、研究開発系の企業では研究チームの組織の壁を超える手法としてすでにIBM Connectionsで実績が出ている方法なのです。   実際に使っていて、日常的に起きているのですが、誰かが「お客様にこんな質問されたのだけど、調べてもわからない」というつぶやきに対して、「Aさんが詳しいよ」なんてコメントが付けられるのです。そこで、Aさんのプロファイルを見て、Aさんのファイルを見ると、関連した資料が置いてあります。そのファイルは、「いいね」の数やダウンロード数などでソートできるので、どれだけ人気や信頼性がある資料なのかがすぐにわかります。 注釈) インタビュー中は実際の画面を見せていただけましたが、Web掲載はできないためご了承ください。   — これは、便利ですね。 わかってきました。それでもまだ、資料などの静的なファイルとつぶやきなどの人の情報がどのように交わって活用されるのか、理解がぼんやりしています。別のアプローチで教えていただけないでしょうか。しつこくてすみません。表面的な理解で終わらせないのがこのインタビューのポリシーなので(笑)   “Notes”と”ソーシャル”の違いとは はい、とことんお付き合いしますよ。(笑) 「自分でとるべき情報が自分の元へ流れて、そして自分が出したい情報は自分が繋がっている周りに発信していく土台」とはなんですか?と聞かれたらそれは明らかに”ソーシャル”です。 それらフローな情報は、私たちの周りにフワフワと飛んでいます。それらを現在リアルタイムにPC・スマートフォン・タブレット端末から情報を周りに発信されています。   — では、Notesのようなグループウェアで共有される情報は必要がなくなるのでしょうか?   いえ、NotesのファイルやDBが必要ないと言うわけではありません。 Notesはビジネススキームに基づいたワークフローから、企業として管理する「固い情報」を蓄積し、それを様々な形でソート、分析、検索するのが得意です。しかしこれまで考えられなかった、人同士で共有する「柔らかい」情報も重要性を増しているため、「ソーシャルプラットフォームによる新しいビジネスコラボレーション」を私は提供したいと考えています。           — 新しいビジネスコラボレーション」とは具体的にはどのようなことを指しているのですか。   Notesに蓄積されている固い情報をソートして分析することもあれば、フローの情報を自分でどんどん取っていってリアルタイムにソートしてフィルタリングしてコメントする。それがまた人を介して広がっていく。そのデバイスはPCかもしれませんし、外出先だとスマートフォンかもしれません。 — 利用を検討している方には“ソーシャル”というキーワードより、フロー情報という表現の方が本質を正しく理解できそうですね。   そうですね。しかし、みなさんが普段お使いのSNSは、フロー”だけ”だと思うのです。しかしビジネスはフローだけではいけない。 IBMのソーシャルウェアは、フロー+ストック、そのどちらをもカバーします。故にビジネスエリアで大きな評価をいただいているのだと思います。   いよいよリリースされる9、 Social Edition、使ってみたい・・・ — 理解できました。ありがとうございます。こうなると、実際に使いたくなってきました。あ、宣伝ではなく、エンドユーザとしての本心です。(笑) Notesは大手企業で使われているイメージが強いかも知れませんが、私は10人の企業でも使ってほしいです。これは宣伝になってしまいますが、Lotus Domino Expressのキャンペーンは実績が多く、好評なため延長しております。オススメです。   — CMありがとうございます(笑)   ここまでお話を伺って思ったのですが、IBM Connectionsのソーシャル機能とNotesのシームレスな融合ですね。 大枠の理解としては Social Edition = Connections+Notes でも良いですか?   はい。だいたい合っている感じです!   — 今日までは、Lotusという名称が製品から段階的に消えていくのは寂しいと感じていましたが、今はワクワクしてきました。 そう仰って頂けるお客様やパートナー様が本当に多いのが我々にとって正に宝なのですが、Lotus Notesが世に出て20年以上経つのですから、生まれ変わって当然ですよね。   —  ところで、IBM Notes/Domino 9 Social Editionのリリースはいつでしょうか。   USで2013年3月を予定しています。※ 日本語版はその後続いてリリースされる予定です。 ※ 2013年3月12日 正式発表されました。(英語版は3月21日から提供開始、日本語版は4月以降の予定) — 製品のテクニカルなトピックスも教えてください。   色々ありますが、一つ上げるとしたら、Notesブラウザ・プラグイン(Notes Browser Plugin)ですね。セットアップしていただくと、今ご利用中のNotes DBがブラウザからそのまま利用できます。ワークスペースも利用でき、レプリケーションも可能です。ユーザ様からの期待も大きいです。     “つながり“というキーワードが全てをあらわす — そろそろ、最後の質問に入ります。何かのドキュメンタリーみたいですが、松田さんにとってIBM Notesとはなんでしょうか?   なかなか難しいご質問ですね… 人生、宇宙、すべての答…42・・・いや違う — では、今後の目標、抱負はなんでしょうか?という質問に変えさせていただきます。   そうですね、人と人とが相互に関連しながら一緒に仕事を進めていくにあたり、コミュニケーションの壁を下げ、活性化させ、相互の情報を出来る限り共有し、それをすぐに引き出せ、多様な分析をして知見を得、組織としての生産性を上げていく。 更には個々の価値を高め企業の価値を高め、最終的にお客様にご満足いただけるような仕事ができる環境をみなさまにご提供する。それがIBMの目標であり、無論私の目標です。 — 素晴らしい、目標ですね。ソーシャルをビジネスに活かすというぼんやりした話が具体的に理解できて、本当に良かったです。Social Editionは是非、職場で使いたいです。   今日は長い時間、ありがとうございました。 — ありがとうございました。

2013年03月10日

実際どうでしょう Vol.4「『PureFlexは高い製品だからこそ・・・』エバンジェリストへインタビュー」

普段の製品・ソリューション紹介だけでは聞き出せない情報を「実際のところはどうなんだろう?」という素人視点で、専門家に聞いてみるシリーズです。 掲載: 2013年3月   <重山は「PureFlexってお高いんですよね」程度のドシロウトでした。今回の話で柴田さんのファンになりました。 (*´ω`*) > 今回は、第1回の新井さんからの紹介でIBMエバンジェリストの柴田さんにお会いしました。 HP→Microsoft→IBMという経歴の持ち主で、ベンダー側の売込みにならない論法を身につけていらっしゃるザ・エバンジェリストという方でした。(インタビュアー:重山) PROFILE 日本アイ・ビー・エム株式会社 柴田 直樹さん システムズ & テクノロジーエバンジェリスト (PureSystems担当) High Performance Computing(HPC)/VDI/Cloud ソリューション ITmedia オルタナティブ・ブログ;My Life As Evangelist: ※ 2013年3月時点でのプロフィールです。 MERITひろば事務局 重山 勝彦 (インタビュアー) 日本情報通信株式会社 MERITひろば事務局 入社3年目にてMERITひろばの運営、コンテンツ全般を担当。   「オンプレミス」は「固定資産」だと思えばわかりやすい —– 本日は午後にマイナビのイベント※1で壇上に上がられるのですね。そんな忙しい時にインタビューのお時間頂戴して恐縮です。(重山)   ※1 2013.02.08 マイナビニュース仮想化セミナー ~仮想化環境に最適なIT基盤とは!?~ 【Day 2】今こそ仮想化基盤を再考しよう!   柴田: 体調も喉の調子も良いので、大丈夫ですよ。ぶっつけ本番も鍛えられていますから(笑) それよりも、インタビュー用の資料などは用意していないのですが、大丈夫ですか?   —– いつも雑談の雰囲気で進めているので、流れでお願いします。   経歴を拝見しますとHPC(High Performance Computing)※の分野にいらっしゃったのですね。 しかし、HPCって良く知らないのです。「グリッドコンピューティング」という単語ならなんとなく知っています。 ※単位時間当たりの計算量が非常に多い計算処理、まとはそのコンピュータを示す。(High Performance Computer) 膨大な時間やコストがかかる大規模な実験の代用や、不確定要素の多さから実験が困難な自然科学現象の解明といった目的で行われることが多い。   柴田: あ、いいですね。いきなり自社製品の話をしてもつまらないですからね(笑) HPCの世界では世の中で普及するずっと前から コモディティ(汎用製品)を並べていく「グリッドコンピューティング」がありました。車でいうとF1(HPC)の技術が一般車(汎用マシン)に落ちてきたようなものなので、例えば、並列、分散処理、ビッグデータも昔から関わっていて、なぜいまごろ賑わっているのだろう? というのが個人的な感想としてあります。   -—- 先に知り尽くしている技術ということですね。 あ、思い出しました。グリッドコンピューティングといえばGoogleの検索ポータルを支えているのが数千台のPCサーバを繋いで処理しているというWeb記事を見たことがあります。   柴田: よくご存知ですね。たしか当時、ひとつのリージョン(地域)で数千台だったと当時は聞いていました。   —– その技術はあまり企業のITには普及していない気がします。   柴田: はい、グリッド(コンピューティング)がなぜ流行らなかったのか。(実際には金融業界では積極的に採用された技術だと思います。) それは、一言でまとめると「標準化覇権競争が発生し、まとまらなかった。」のかなと想像しています。そうでなければ、仮想化統合の流れも、もっと早くきていたはずです。ビジネスの世界では、技術が評価されて普及するだけでなく、違う力学が発生しますからね。 また、ITの世界では、言葉を定義したモノ勝ちという風潮もあります。 例えば、“クラウド“も人によって定義が異なると思いませんか?   —– はい。おっしゃるとおりです。特に“プライベートクラウド”は社内なのか、社外なのか・・・等の前提を揃えておかないと会話が咬み合わないケースがあります。   柴田: 以前、メンバーと“オンプレミス“の定義を話し合った結果「固定資産でいいんじゃない?」という事がありました。   —– 固定資産ですか。面白いですね。確かにシステム用語ではなく、会計で定義したほうが法人としては概念を理解しやすいですね。   柴田: はい。固定資産と考えると償却する、つまり“使いきろう”という意識が強くなるじゃないですか。クラウドに対するオンプレミスという言葉はそのほうが分かりやすいはずです。   「既存システムをクラウドにするだけ」というメッセージは偏っている 柴田: 今は WindowsAzureやAWS(AmazonWebService)、もちろんIBMのSmater Cloudも含めて 大手のパブリック・クラウドが全盛と言われていいますが、私はこれらの「既存システムをクラウドにするだけ。ハードウェアを持つことはもう古い」的なメッセージは少し偏っていると思っています。   —– 偏っているとはどういうことでしょうか。   柴田: この話は、昨年(2012年)の10月に開催されたイベント“ISUC仙台大会※”で参加者とディスカッション形式のセッションをした際のテーマなのです。 いわば、クラウドについての“実際どうでしょう?“版で、世の中に多く出ている「常識」「風評」「メリット」「デメリット」などの信憑性についてお話ししました。一部ですが、自社サービスも含めた否定的な内容もあったので大丈夫かなぁと思ったのですが共感をいただきうれしかったです。 ※ iSUC(アイザック)は、IBMのユーザー団体《全国IBMユーザー研究会連合会》が主催するIBMシステム・ユーザーのための研修会 ※【白熱教室】 社内 IT システムのクラウド化 「真の考慮点」 – 世の中の常識は ウソ か ホントか !?     —– おととしのISUC大津大会はMERITひろばも出展していたのですが、昨年は参加できませんでした。一部だけでも結構ですので、その内容を教えて頂けませんか?   柴田: はい。もちろんです。 クラウド利用に関する考え方をご紹介しました。例えば、料金体系については、大手クラウド事業者のメッセージって「時間あたり◯◯で安いです」「使った分だけお支払い」という面がありますよね。 それは日本のビジネスにフィットするかな?という視点です。例えば、日本の中小企業様のITに利用可能な「流動的な運用費用」は果たしてどのくらいあるんだろう。。ということです。   —– トータルコストについては、ケースバイケースだと思いますが、「使った分だけ」という重量課金の仕組みは、最大のインフラを考慮して自社構築するよりコスト的に有効だろうというイメージがありますが。   柴田: 日本の企業のIT部門のSEは社員が中心ですが、例えば、北米では80%以上がアウトソーシングです。つまり最初から外注費という概念なんですね。そのため、ITコストの増減には慣れています。   一方、日本のIT部門の予算は、月額で流動的に使える金額幅は10万円以下がほとんどです。来月急に30万あがりますと言われても予算を確保していないので困ってしまいます。 ですから国内企業はクラウドといってもEaaS、PaaS、もさることながら VPS(バーチャル・プライベート・サーバ:ここでは仮想サーバサービスの意味)でコストを固定金額で利用するのとう方も多いということです。 日本の製造業や金融業などはかなり計画性が高い産業ですからね。それで年間運用できるのです。   —– なるほど、北米で流行っている仕組みをそのまま日本に適応するのは合わない場合があるということですね。   柴田: はい。個人的にはパブリッククラウドベンダーのメッセージは黒船的に感じます。 あ、IBMもそのようなメッセージを出しているので自社否定になっちゃいますね。間違っているという意味ではなく、そのまま鵜呑みしないで検討すべきと表現させてください。(笑)   —– はい。心得ています。(笑)   でも、警笛を鳴らせるのは、エンドユーザのお客様の視点がわかっているからこそ言えるのですよね。   PureFlexは高い製品だからこそ、納得して採用してほしい —– 今期から担当になっているPureSystems、特にH/WのPureFlexについてはどのように紹介しているのですか?   柴田: PureFlexはお客様から見て、価格だけ見ると 高い製品ですよね。   —– あれ、私がこのインタビュー中に勇気を持って「すごく高価格帯の製品ですよね?」って言おうと思っていたのに先に言われてしまいました。エバンジェリストとしては珍しいですよね。これだけの機能とサービスがある!というのが先にくると思っていました。(笑)   柴田: そうですね、エバンジェリストのイメージってスマートにテクノロジーとビジョンだけを話すと思われがちなのですが・・・(笑) 昨年、ある検証作業で、ローエンドモデルのx3300 M4(IBM System x3300 M4)を使ってパフォーマンス検証していたのです。CPUはインテル Xeon プロセッサーの2400系です。とにかく20万~30万台のサーバマシンです。これでラッシュテストをしたら凄く処理が早かったので衝撃的でした。これを知ってしまった上でPureFlex製品を紹介していくにはどうすればいいんだろうと悩みましたね。(笑) それもあって、高いからこそ、お客様にはちゃんと検討し、納得して購入してほしいという思いに至りました。つまり「高い理由と、高い出費でお客様にお届けできるPureFlexの価値」を共感頂ければ。という思いで製品の訴求をしているところなのです。 —– 柴田さんって本当に正直な方なんですね。(笑)具体的にはどのように紹介されるのですか?   柴田: お客様が求めているものは“リスクの低減”と“コストの削減”が必要なのです。 製品のパフォーマンスは最近のハードウェア十分過ぎるほどありますし、お客様も理解されています。ですから、“リスクとリスクヘッジをどのレベルまで考慮するか”をテーマに考え、お客様の反応を確かめながら紹介をしています。 例えば、昨年はとある中小規模のデータセンター事業者様にPureFlexの紹介でまわったことがあります。 ちなみに業界大手のデータセンター事業者様はこちらが売り込んだから買うというレベルではなく、自社で調達基準を決めておられます。もっとハッキリ表現するとベンダーの意見はをすべて共感してくれるなんてことはなかなか無いのかなと思っています(笑)   —– サーバの購入台数も多いですから、買い手側が強いのですね。Facebookのデータセンターはデータセンターやサーバ部品の仕様を公開してその“仕様に合わせた製品を売り込みしてこい“という感じですよね。   柴田: はい。ですから次にクラウドの中堅、中小事業者にご紹介に行くわけです。イメージとしては物理サーバ台数が3桁のレベルです。このゾーンの企業がPureFlexを採用してくれないかと考えたのです。 事業者は大手のコストメリットには太刀打ちできない分、インフラについては、すごく細かいところまで配慮されています。特に“リスク”対してはものすごく考えて、工夫されています。昨年、いくつかデータセンターでデータ消失やサービス中断などの事故がありましたが、あの事例では大手の資本があったからこそ大丈夫でした。 中堅・中小ではひとつのミスが事業継続できなくなるレベルですから。   —– そういえば、Azureサービスは、うるう年計算不具合で止まったりしていましたが、大手だから影響は大きくても即倒産にはならないですね。   データセンター事業者にどうしても消せないリスクを教えてもらいました 柴田: データセンター事業者の方々に教えていただいたのですが、対策を取り続けていてもどうしても消せないリスクの1つというのが「メンテナンス作業中にサーバのケーブルに触れてシステムエラーを起こす」ヒューマンエラーだそうです。 確かに、ラックに入っているサーバのケーブルは8ノードで40本くらいに刺さっているわけですね。こうなると設定変更や移設作業中に間違ったケーブルに触れて場合によっては抜いてしまったりすることにもなる訳です。 このリスクを減らすためにBladeを導入したと聞きました。なるほどと思った訳です。   —– その話は現場ならではですね。機能、性能、コストの比較ではなく、運用する観点で製品を採用されてきたのですね。   柴田: はい。例えば「こういったケーブルリスクも考えてPureFlexを採用を検討しています。」というメッセージはエンドユーザのお客様にお伝えしていいのではないかと思います。 それが付加価値の1つですから。それ以外にも話しきれないほどの価値はあるんですが、わかりやすい例を1つご紹介しました。 実際に、あるデータセンターでやっていることなのですが、「下位コースでは汎用的なXXXサーバを利用しています。上位コースは大手メーカー製です。」と料金プランに記載しているのですね。1.5倍程度しか差がないですから上位を選択されるお客様も増えるわけです。 —– エンドユーザから見てもリスクと対策の中身がわかるから安心ですね。   海底ケーブルの障害でデータ通信に大きなタイムロスを生むことがある 柴田: 他にもクラウド検討時に何がリスクなのか?という視点では海底ケーブルの話があります。 エンドユーザは「ディザスタリカバリ(災害対策)として、海外のサーバにもバックアップをとっています」とおっしゃるケースがありますが、3.11の震災の時に日本と海外をつなぐ海底ケーブルやルーターが故障して繋がらなくなった事実はあまり知られていません。 切れた回線は、他のルートを迂回することで継続して使えるのですが、その迂回ルートの通信には何時間も余計に時間がかかるケースもあり、ビジネス継続としては問題です。   —– 全然知りませんでした。そもそも世界のインターネットとつないでいる海底ケーブルがどうなっているのかも知りません。   震災時にどの回線に障害が発生したかは一般的には公表されていません。ケーブルのマップはWeb検索で簡単に見つけることができます。 注釈)インタビュー時にはそのデータを見せていただけましたが、掲載できません。ご了承ください。   —– いやぁ、この情報を知ってしまうと海外に2重化していれば万全とは限らないと思ってしまいます。   柴田: はい。ベンダーとしてもこのようなリスクを正直に話した上で最適な利用を提案した方がお客様の信頼を勝ち取れるのではと思っているのですが、なかなかそうはいかないようですね。(笑)   10年を見据えたシステム・・・では足りなかった 柴田: しかし、このようなリスクを真摯にお伝えすることで、お客様は「普通のサーバでいいんだっけ?、クラウド基盤はどこにしっかりと持つ必要があるんだっけ?」となりここでやっとIBMの話を聞いてくれるのです。   —– 時間はかかるかも知れませんが、リスクと向き合うという点で必要な話ですね。それにしてもエバンジェリストとしては製品のリスクを先に話すのは珍しいなぁと思ってしまいます。   柴田: もし私がエバンジェリストではなかったら、このようなリスクの話はしないで、「ハイ、機能はこうです、比較するとこうです、だからこのマシンです、クラウドはダメです IBMが一番です」という話をしていたかも知れないですよ(笑)   —– 聞いたことがある会話です。(笑)   リスクをお伝えして、興味をもってもらった後に、IBM Flex Systemsの話に進み、「今後10年のクラウド基盤として使い続けることができる製品」と紹介するわけですね。   柴田: 私の発言を調べていらっしゃいますね。 実はですね、う~ん、この10年を見据えたという表現は思い切って発言したつもりだったのですが、お客様はもっと長い期間を期待されている場合も多いのですね。とあるお客様からは「短いよ」と言われてしまいました。例えば 公益、政府系のシステム等はインフラを長期期間維持する必要がありますから。   —– 情報系のシステムなら10年あれば十分と思ってしまいます。しかし、今から10年前はどうだったかを考えてみればいいのですね。       WindowsXPは20世紀に基本設計されたが現在も主流 柴田: その通りです。 例えば、ブレードサーバー(IBM Blade Center)は「立派な10年選手」の製品ですが、現在も利用されています。ラックマウント型の基本設計をしている時にこれほどまでに仮想化が普及するとは誰も思っていなかったと思いますが、設計に余裕をもっていたからこそ、今日も問題無く利用いただいているのだなと思います。 ちょっと方向性は違いますが、クライアントPC向けのOSで言えば、WindowsXPは2000年に基本設計したOSです。つまり20世紀のOSがまだメインで使われていることになります。   —– ITの仕事についていると新しい製品や仕組みがどんどん出てきているのを日々感じていますが、利用者としては、長く使いたい、使わなければならないケースは多々あるのですね。 さてPureFlexは、ハードとソフトをベンダーがあらかじめ最適に組み合わせた製品、いわゆる「垂直統合サーバ」になると思いますが、最近はクラウド基盤のサーバとして勢いがあるように感じています。   柴田: 確かに垂直統合が他のサーバを凌駕するようなイメージをメディアが発信しているかもしれないですが、例えばPower Systems(AS/400)を選んだお客様などは必ずしも同意する訳ではありません。   また、Pure Flexは販売店がほいほいと売れる訳ではないのは、重々承知しています。そのような状況でクラウドサービスに魅了されるお客様が増えるのも良くわかります。だからこそ、選ぶ方には慎重に選んでほしいと思っています。   —– 「MERITひろば」のコンテンツ掲載の業務に携わって勉強になっているのは、ハードウェアもソフトウェアも機能で紹介する/売る時代は終わってきていて、性能が良いのは当然で、そこにお客様が共感できるストーリーがあると良いということです。なんだかワイナリーがワインを販売するのと同じですね。   「100年続くワイナリーで、全体の数%しか取れない品種を贅沢にしようし、防腐剤は一切使わずにオーガニックで醸造、空輸も一定の温度で管理して・・・」   日本人は良い物は高くても買う、コモディティは100円ショップで買う 柴田: そうそう、その通りです。   それを「ドイツワイン、辛口のシュペートレーゼ、1本50万円です。すごく美味しいです。」と言われただけでは買わないですよね。 日本人は良いものは高くても価値がわかれば買います。一方コモディティ製品は100円ショップで買います。100円ショップのグッズもちゃんと使えるじゃないですか(笑)   —– おっしゃるとおりですね。実は私はMERITひろばの運用以外で、部門システムのインフラの管理も担当しているのですが、例えば、私どもの会社(日本情報通信)がクラウドを検討すると想定した場合のポイントなどはありますか?   柴田: そうですね、企業の成長カーブとクラウドの利用度には傾向があります。 従業員規模では250名くらいまでは積極的にクラウドを採用していきます。10人、20人のベンチャーなどは全てクラウドで賄えますよね、その延長の目安が250名くらい。今度は250名から500名くらいに成長していくと、クラウド投資額が膨大になっていくので、今度はオンプレ、固定資産のITシステムに進みます。 次に1,000名規模を越えていくと、事業の変化やIT規模の柔軟に対応できるのでクラウドの利用が進んでくるのです。従業員規模はあくまで参考値とみてもらってもこの流れがわかってもらえるかと思います。   —– クラウド利用度は上がって落ちるがまた上がる(0人 ↑  205人 ↓ 500人 ↑ 1000人 ↑ )というカーブを描くのですね。 確かに弊社は全体で1,000名超であり、基本はオンプレミスが多いですが、今まさにプライベートクラウド利用の検討が進んでいます。すごい、ぴったり当たっています。   柴田: 良かったです。お客様の企業がどのポジションにあるかの目安になりますからね。 プライベートクラウドを進めていく際の副次的高価としては、IT資産の棚卸ができる点があります。普段全然やれていない企業がほとんどです。また、プライベートクラウドにしましたというお客様でも仮想化していない、またはできない事情が残ったサーバーも少なくないことが多いです。 例えばFaxサーバや移植ができない基幹システムの一部です。こういったレガシーシステムは仕組み上残さないといけない場合も出てきます。   —– 実に興味深い話です。今日はこのあと移動して、イベントで壇上に上がられる訳ですから、もっとお話したいのを我慢します。是非、第2弾をやらせてください。   柴田: 楽しかったです。第2弾、こちらこそお願いします。    

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